第122話 芸術のダンジョン

 続いて僕は、みんなをワイドさんのところへと連れてきた。

 ……本当は連れて来たくなかったんだけど。


「ねぇ、何ここ……?」

「なんかよく分かんないのいっぱいあるよー?」

「不思議」


 僕にもよく分かりません。


 案の定、そこは以前とは比較にもならないくらい酷い状態になっていた。

 ワイドさんを慕ってやってきたドワーフたちが、そろって弟子入りしてしまったせいだ。


 あちこちに乱立する不気味なオブジェの数々。

 そのどれ一つを取ってみても、常人には理解不可能な芸術性(?)が溢れ出ている。


 僕たちが戦慄していると、そこへひょっこりワイドさんが現れた。

 近くにあったオブジェの中から出てきたのだ。


「おお、ジオ殿! どうだ、この素晴らしい芸術品たちは! 弟子ができたお陰で、ますますわしの理想に近づいてきているぞ!」

「理想、ですか……?」


 このドワーフが目指すところがどこにあるのか……怖いので正直あまり聞きたくない。

 だけどワイドさんは勝手にしゃべり出した。


「うむ! すべての芸術作品を連結させていき、最終的には一つの巨大な作品を作り上げるつもりなのだ! もちろん中に入って、作品から作品へと移動することができる! それはまさに芸術のダンジョンと言っても過言ではないだろう! いずれ世界中の人たちが、これを見るためにここへ訪れるようになるに違いない! そして未来永劫、人々を芸術の虜にし続けるのだ!」


 ここ、僕の家庭菜園なんですけどね?


「さすがは師匠だ!」

「やはり弟子入りしてよかった!」

「俺たちは今、歴史を作っているんだ!」


 ワイドさんの荒唐無稽な話を聞いていたらしく、オブジェのあちこちから他のドワーフが喝采を上げる。


「……ね、ねぇ、ジオ、何なのこのドワーフたち?」

「僕に聞かないでくれ……」

「でも……楽しそう」


 まぁ確かに、シーファさんの言う通り楽しそうだけどさ……。


「すごい! なんかよく分かんないけど、すごい!」


 呆れる僕やアニィとは対照的に、目を輝かせたのはセナだった。


「おお! 誰か分からぬが、貴殿も芸術を解するのか!」


 そこで初めて、ワイドさんが僕以外の来訪に気づいた。

 ……基本的に芸術のこと以外には興味ないんだろうね。


「うん! 中に入れるんだよねっ? 入っていい!?」

「構わぬぞ。すべてアダマンタイトでできているから、壊れる心配もないしな」

「わーい!」


 セナが近くにあったオブジェの中へと飛び込んでいく。


「すごい! こんなところに繋がってる! わっ! 何これ! 地面からお〇んちんみたいなの生えてる!」


 なるほど……子供の遊び場としては悪くないのかもしれない。

 ていうか、地面からアレが生えてるってどういうことだよ……。


「このドワーフたち……明らかに普通のドワーフ族とはちゃう……ま、まさか……」

「リルカさん? 何か気になることでも……?」

「い、いえいえ、何でもないですよー」







 結局、ロクにシーファさんたちの紹介ができないまま、ワイドさんのところを後にした。


 そしてやってきたのはブラーディアさんの屋敷だ。

 ……前よりちょっと大きくなってる気がする。


 外観を見て、シーファさんが眉根を寄せた。


「真っ赤」

「そ、そうですね……でも、ただのトマトの色なんで大丈夫です」


 確かに初めてだとこの色はびっくりするよね。


「今度はどんな連中が住んでるのよ?」


 アニィが胡乱げに訊いてくる。


「えっと……ここには吸血鬼の皆さんが住んでるんだ」

「きゅ、吸血鬼? それって大丈夫なの……?」

「うん、別に血を吸ったりはしないから」


 やっぱり吸血鬼についてのイメージはあまりよくないみたいだ。

 人間を攫って廃屋に幽閉していた吸血鬼と戦ったばかりだしね……。


 それにブラーディアさんは最初、街を破壊しようとしていたし、危険がないとは言い切れない。

 見た目は可愛らしい幼女なんだけど。


 屋敷の中に入る。

 するといつものようにメイド服姿の美女が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、ジオ様」

「あれ、ヴァニアさん? もう戻ってこられたんですか?」

「はい。ジオ様のお陰で、違法な吸血に手を染める同族を捕えることができました。ご協力に感謝いたします」

「いえ、こちらこそありがとうございました」


 そんなやり取りをしていると、アニィが僕の脇腹を肘で突いてきた。


「この人があんたの言ってたヴァニア? 物凄い美人じゃないのよっ」

「う、うん」


 ていうか、何度も脇腹を突かないでよ、痛いんだから。


「ジオ様、そちらの方々は?」

「あ、紹介しますね」


 ヴァニアさんにシーファさんたちのことを紹介しようとしたら、そこへブラーディアさんがやってきた。

 ちょうどいいので一緒に紹介しておこう。


「ブラちゃん、お久しぶり!」

「セナか、相変わらず元気そうじゃの」


 セナとブラーディアさんに関しては、一時期うちで居候していたこともあって、互いに面識があった。

 ……ブラちゃんって呼び方はどうかと思うけど。


「彼女がブラーディアさん。えっと、一応この屋敷の主人? だと思う」


 そうは見えないけど。


「せっかく来たのじゃ。わらわのトマト料理でも食べて行くがよい!」

「いいんですか? あ、でも今は――」

「わーい! 食べたい食べたい! みんないいよねっ?」

「まったく……。じゃあ、お言葉に甘えて」


 前から何度か誘われていたけど、色々あってまだ食べる機会がなかったしね。


「吸血鬼のブラーディアに、ヴァニア……? それって、完全にあれやんか……」

「リルカさん……?」

「ななな、何でもないですよー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る