第121話 噂の第二家庭菜園

 ヴァニアさんに帰りの心配は要らないと言われたので、後のことは任せることにした。

 ちょうどギルドへの報告も終わったらしく、シーファさんたちと一緒にアーセルへと戻ってくる。


「ヴァニアさんがどうにかしてくれるそうです」

「ヴァニアさん?」

「あ、そう言えば、シーファさんは会ったことなかったですよね。ブラーディアさんの屋敷のメイドさんです。今度、紹介しますね」


 アニィが不審な目をして訊いてくる。


「……ていうか、そもそも屋敷って何なの? あんたのもう一つの家庭菜園、今どうなってるのよ?」

「えっと……賑やかになってる?」

「こいつ、知らないうちにまた何かやらかしてる気がするわ……」


 なぜか頭を抱えて呻くアニィ。

 確かに予期せぬ住民が増えてきちゃってはいるけど……。


 ちなみに、ミランダさんが第二家庭菜園に移動したことだけは、シーファさんやアニィも知っている。

 アニィは「こんな女、とっとと追い出さしなさいよ」って、何度もうるさく言ってたしね。


 というわけで、その翌日。

 アニィの意向を受けて、この日はランダールに行くのを止め、代わりにみんなを第二家庭菜園へと連れて行くことになった。


「噂の第二家庭菜園ですか……」

「そう言えば、サラッサは初めてだったわね」


 サラッサさんがなぜか身構えている。

 そんな恐ろしいようなところじゃないですよ?


「わたくしも同行させてもらいますねー」


 実はリルカさんも一緒だった。

 今朝、いつものように収穫物を取りにきた彼女に、これから第二家庭菜園に行く旨を話すと、ぜひ付いていきたいとお願いされたからである。


 もちろんすぐに承諾した。

 すでに何度か連れていったことがあるしね。


「えっと、まずここはイオさんたちの家」


 そこには幾つもの家屋が立ち並んでいた。

 というのも、イオさんを追ってやってきた獣人たちのため、スキルを使った新たに家屋を設けたからだ。


 彼らもまた、この菜園に住むことになったのである。

 詳しい事情は知らないけど、イオさんと同様、故郷にはもう帰ることができないらしくて、僕がここで暮らしていいよと言ったら物凄く喜んでいた。


「イオさんって誰よ?」


 そうした経緯など知らないアニィが、なぜか不機嫌そうに訊いてくる。

 ちょうどそこへ、僕が来たことを察知したのか、イオさんが家から出てきた。


「わっ、すごい! 動物みたいな耳と尻尾だ!」

「紹介するよ。獣人のイオさん」

「って、男の人? しかも、すごいイケメンじゃないのよ」


 イオさんを見て、アニィが態度を豹変させた。

 やっぱりこいつもイケメンには弱いのか、目が乙女のそれになっている。


「ジオくん! その娘たちは誰だい!? まさか、君のフィアンセじゃないだろうね!?」


 そんなアニィとは逆に、なぜかイオさんの方が怒ったように訊いてきた。


「ち、違いますよっ」


 シーファさんがそうなれば嬉しいなとは思っているけど、残念ながらまだそういう間柄じゃない。


「本当かい?」

「ほ、本当です。妹と、後は幼馴染たちです」

「……信じていいのかい?」

「は、はい、もちろんです」


 何でそんなに念押ししてくるんだろう?


「……そうかい、それならよかった」


 安堵の息を吐くイオさん。

 ……僕に恋人がいてはダメなのだろうか?


 不思議に思っていると、サラッサさんがいきなり叫んだ。



「 こ う い う の 大 好 物 で す ッッッ !!!」



「「「っ!?」」」

「あ、すいません……何でもないです……ハァハァ」

「なんか、すごく息が荒いですけど……?」

「き、気にしないでください……ハァハァ」


 大丈夫かな……?

 サラッサさん、普段は大人しくて真面目な印象なのに、時々ちょっと変なんだよね……。


 今もまだ興奮したように鼻息を荒くしている。


 あ、もしかしてイオさんがイケメンだから……?


 やっぱり女の子はみんな顔が良い男性が好きなのかな……。

 シーファさんを連れて来なければよかったかもしれない。


 不安に思ってシーファさんの顔を見ると、いつもと変わらない表情をしていた。

 ちょっとホッとする。


「ジオ? 顔に何か付いてる?」

「い、いえっ、何でもないですっ」

「?」


 見ているのがバレてしまい慌てる僕。

 不思議そうに首を傾げるシーファさん、やっぱり可愛いです。


「くっ……僕のジオ君をっ……」

「ハァハァ……」


 それから僕はイオさんにみんなのことを一人ずつ簡単に紹介した。


「(そうか……シーファというのかい……ぼくのライバルは……)」


 ……なぜかシーファさんにだけ敵意の籠った視線を向けているんだけど、もしかしてイオさん的に苦手なタイプなのかな?


 イオさんと話をしていると、他の獣人たちも集まってきた。


「ジオ様のお陰で何不自由なく生活できております」

「イオ様とも無事に再会できましたし、本当にどれだけ感謝してもたりません」

「いえ、助けになれたなら幸いです」


 ここに来たときは薄汚れていて気づかなかったけど、身体を洗って綺麗になった今、みんなイオさんと同じ白銀色の髪をしていたことが分かる。

 顔つきも結構似ているし、恐らく獣人の中でも同じ種族なのだろう。


 最初は猫の獣人かなって思ってたけど、精悍な感じの顔つきはむしろ虎っぽい。


「白髪の……虎の獣人……まさか……」

「リルカさん? どうされたんですか?」

「い、いえ、何でもないですよー」

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