第三章

第93話 楽々レベリング再び

 魔境とされる〝死の樹海〟。

 せっかくそのすぐ近くに第二家庭菜園を引っ越してきたので、以前もやった自動菜園レベルアップ法を使ってみることにした。


「城壁の一部を開けておいて……と」


 それからマーリンさんのところで買ってきた、魔物寄せのお香を菜園の中で焚き始める。

 するとすぐにその匂いに引き寄せられ、一体の魔物が侵入してきた。


 体長三メートルを超す熊の魔物だ。

 腕なんて丸太のように太くて、鋭い爪はさながらサーベルである。


 そんな恐ろしい魔物も、飛んで火にいる夏の虫。


「グルアァァッ!?」


 僕が作り出したメガゴーレムたちにタコ殴りにされて、あっという間に絶命してしまった。

 その後も次々と魔境の魔物が入ってきたけれど、その度にゴーレムたちが撃破してくれた。


「さすが、魔境だけあって魔物が引っ切り無しに現れるね」


 魔物が途切れる気配はまったくない。

 スタンピードのときだって、かなりの数の魔物がここから街に押し寄せてきたはずだけれど……一体どれだけの魔物が棲息しているんだろう。


「うわっ、凄そうなのが来た」


 そんなことを考えていると、ひと際巨大な魔物が現れた。

 あのスタンピードのときにも見かけた、象の魔物のブラッドエレファントだ。


「パオオオオオオンッ!」


 耳をつんざく雄叫びを上げ、お香へと突っ込んでくる。

 メガゴーレムたちが取り囲んで攻撃しようとしたけれど、その巨躯に吹き飛ばされてしまう。


「こいつはメガゴーレムじゃ荷が重いな」


 そう判断した僕は、ギガゴーレムを作り出す。


「パオンッ!?」


 目の前に立ちはだかった身の丈十五メートルはあろうかというそれに頭から激突し、ブラッドエレファントが弾き飛ばされた。

 目を回してよろめくブラッドエレファントへ、ギガゴーレムは拳を振り下ろす。


「~~~~ッ!?」


 脳天に強烈な一撃を叩き込まれたブラッドエレファントは、そのまま意識を喪失して地響きを立てて崩れ落ちた。


「さすが」

「――――」


 勝ち誇るように拳を突き上げるギガゴーレム。

 と、そのときだった。


「クエエエエッ!」


 頭上から金切り声が響いた。

 慌てて見上げると、巨大な怪鳥が猛スピードで滑空してくるところだった。


「空から!?」


 予想外の侵入に戸惑う僕を目がけて、鳥の魔物が迫りくる。

 慌ててギガゴーレムが僕を護ろうと動き出し、僕もまたギガゴーレムの身体の下へと潜り込んだ。


「――――」

「クエエッ!」


 ギガゴーレムが拳を振るったものの、怪鳥は素早く空へと逃げた。

 そのままギガゴーレムの攻撃が届かない位置でしばらく旋回を続けていたけれど、やがてお尻の辺りから何かを落としてきた。


「フン!?」


 地面に落ちた瞬間、周囲に四散した。


「臭っ……」


 強烈な悪臭が鼻を突く。

 さらには吸い込む度に喉の奥が痛くなり、段々と眩暈がしてきた。


 まさか、毒……?

 どうやら猛毒が含まれたフンだったらしい。


 このままだとマズい。

 僕はすぐに菜園間転移で第一家庭菜園に戻った。


「み、ミランダさんっ……」

「ぐおおお~」


 ダメだ、腹出して寝てやがる……。


「ブラーディアさんは……」


 生憎と姿がない。

 ……肝心なときに役に立たない居候たちだ。


「にゃ~?」

「そうだ、ミルク、お前がいたな……」


 僕はミルクに、家の中にある薬箱を取って来てくれるようお願いする。


「にゃあ!」


 すぐに意図を理解してくれたようで、良い返事とともに家の中に駆け込んでいったミルクが薬箱を加えて戻ってきた。

 さすがミルクだ。


 その中から黄緑色をしたポーションを取り出し、僕は一気に飲み干す。

 僕の菜園で収穫したシイ草を使い、マーリンさんが作ったアンチポイズンポーションだ。


 その効果は非常に強く、大抵の毒なら完全に解毒できるらしい。

 しかも一度飲むとしばらくの間、毒を無効化してくれるのだとか。


 ダンジョンにも毒を持つ厄介な魔物がいるらしく、その対策として最近かなり売れていると、デニスくんが話してくれたっけ。


「……ふう」


 身体から毒素が消えていったようで、あっという間に楽になった。


「助かったよ、ミルク」

「ごろごろごろ」


 モフ毛を撫でてやると、ミルクは嬉しそうに喉を鳴らした。


 それにしてもあの魔物、どうにか対策を講じないと。

 ゴーレムに毒は効かないけど、人間の僕はそうはいかないし、アンチポイズンポーションを使い続けるというわけにもいかない。


 僕は魔物寄せのお香の効果が切れるのを待ってから、アンチポイズンポーションを幾らか持って再び第二家庭菜園に移動した。


 お香が切れたからか、すでに怪鳥は去っていた。

 まだ毒が空気中に蔓延しているようだったけれど、アンチポイズンポーションのお陰か、気分が悪くなったりはしなかった。


 飛び散ったフンを中心に、持ってきたアンチポイズンポーションを降りかけていく。

 こうすることで毒そのものを分解できるらしく、すぐに毒が薄れて消えていった。


 ゴーレムたちが倒してくれたらしく、僕が居ない間に現れた魔物の死体があちこちに転がっている。

 それも結構な数だ。


〈魔物を吸収しますか?〉


 ひとまず吸収しておくか。

 もうすぐレベルが上がって50に到達しそうだし、何か使えるスキルを覚えるかもしれない。


「はい」


―――――――――――

 ジオの家庭菜園

  レベル50 37/250

  菜園面積:201050/∞

  スキル:塀生成 防壁生成 城壁生成 結界生成 ガーディアン生成 メガガーディアン生成 ギガガーディアン生成 菜園隠蔽 菜園間転移 菜園移動 遠隔栽培 収穫物保存 三次元移動 小屋生成 

―――――――――――


〈レベルが上がりました〉

〈城壁生成から派生し、結界生成を習得しました〉

〈スキル:小屋生成を習得しました〉

〈新たな作物の栽培が可能になりました〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る