第94話 居候どもを追い出した

 予想していた通りレベルが50に上がり、新たに二つのスキルを習得した。

 そのうちの一つは結界生成だ。


 城壁生成から派生とあるので、どうやら結界というのは、城壁がさらに発展したものらしい。

 これまで塀生成、防壁生成、そして城壁生成と、壁が高く分厚く進化していったけれど、今度はどんなものなのだろう。


〈結界を生成しますか?〉


 僕は頷いた。

 すると次の瞬間、城壁が消失し、代わりに菜園全体を覆い尽くすように無色透明な膜が音もなく出現していた。


「すごい、空まで覆ってくれてる」


 膜は菜園を底面とした直方体の形状だ。

 すなわち菜園の上までカバーしてくれていた。


 塀や防壁では菜園を平面的に守護するだけで、空からの侵入には無防備だった。

 けれどこれなら、きっとあの毒フン攻撃も防ぐことができるだろう。


 ただ、一つ大きな懸念点があった。


「見たところかなり薄いけど、これってどれくらいの強度があるんだろう?」


 以前は防壁で菜園を取り囲んでいたけれど、ここは狂暴な魔物が多数棲息している魔境の近くだ。

 例えばあのブラッドエレファントくらいの魔物になると、防壁を破壊して侵入してくるかもしれない。


 そこで俺は、自動菜園レベルアップ法を使うに当たって城壁に切り替えていた。

 これならそう簡単には突破されることはないだろう。


 それでもあのアトラスほどの魔物が現れたら一溜りもないが、さすがに魔境と言え、あのクラスの魔物は滅多に出現しないらしい。


 そんなわけで、この結界の強度が気になるのだ。

 果たして城壁の代わりとして十分に機能するのだろうか。


「まぁ実際に試してみるか」


 再び魔物寄せのお香を焚き始める。


 城壁のときと同様、結界の一部を開けておくと、しばらくして魔物が菜園の周囲に集まり始めた。

 そのうちの何体かは結界に激突し、目を回している。

 城壁と違って結界は透明なので、向こう側を見ることができるのだ。


「パオオオオンッ!」


 ちょうどいいところにブラッドエレファントが現れた。

 結界に猛スピードで激突し、巨体があっさりと弾かれる。


 それからブラッドエレファントは体当たりを繰り返したけれど、結界はビクともしなかった。

 この結界、もしかして城壁よりも強固なんじゃ……?


 そう思い始めた頃だった。


「クエエエエッ!」


 あの腹立たしい金切り声に、僕は反射的に視線を空へと上げた。

 あの怪鳥だ。


 以前と同じ固体かどうかは分からないけれど、再び菜園目がけて高速で滑空してくる。


 バンッ!


「クエッ!?」


 結界に思い切り激突して弾かれ、怪鳥は痛々しい鳴き声を上げた。


 不思議そうに首を傾けながら上空に逃げると、しばし旋回。

 そして再びあの毒フンを降らしてきた。


 ベチャッ。


 フンは結界に落ちた。


「クエッ?」

「ざまあみろ。もうそれは効かないんだよ」


 だけどまだ単にフン攻撃を防いだだけだ。

 こっちから攻撃する方法は――って、そうか。


「三次元移動を使えばよかった」


 それに気づいた僕は、上空に向かって菜園を飛ばした。


「~~ッ!?」


 いきなり地面が接近してきたことで驚く怪鳥へ、僕は容赦なく結界を激突させる。


「クエエエッ!?」

「どうだ。あ、逃げていく」


 怪鳥は慌てて魔境の方へと飛んで行った。

 そのまま追いかけようかと思ったけれど、さすがに魔境の上空を飛ぶのはちょっと怖い。


 それにこの第二家庭菜園は広大だ。

 勢いで三次元移動を使ってしまったけど、ふと冷静になってみると、こんなバカでかいものを空に飛ばせることに心理的な抵抗みたいなものを覚えてしまった。


「空を飛んでる人にぶつけたら大変だしね」


 まぁ滅多にいないだろうけど、ミランダさんの例もある。


 僕は怪鳥を追いかけるのを諦め、菜園を着陸させた。

 それにしても、この大きさなのに普通に空を飛べるとか、どうなってるんだろう……。


「それよりもう一つのスキルをチェックしよう」


 魔物寄せのお香の効果で菜園に侵入してくる魔物はゴーレムたちに任せ、僕は新たに覚えた小屋生成なるスキルを使ってみることにした。


 多分その名の通り、小屋を作り出すスキルなんだろうけど……。


〈小屋を生成しますか?〉


 僕が頷くと、次の瞬間にはもう、目の前にまさに小屋というほどの大きさの建物が出現していた。


 木造の、部屋一個分ほどの小屋だ。

 付いていた扉を開けて中に入ってみると、そこはちょうど僕の家のリビングくらいの広さの空間になっていた。


 部屋はその一つだけ。

 当然キッチンやトイレ、お風呂などといった上等なものはない。


「倉庫とか納屋みたいなものかな? でも収穫物保存のスキルがあるから、別に必要ないよね」


 小屋の用途が特に思い当たらない。


 でもミルクやピッピが今よりさらに大きくなったら、第一家庭菜園に置いておくのは難しくなるだろう。

 そのときに二人の家として使えるかもしれないね。


 なんて、思っていたんだけれど――その日、家に帰った僕は、


「うお~い、もっと酒を持ってきてくれぇ~」

「わらわにトマトを寄越すのじゃ!」


 ……うん、いい加減こいつらを追い出そう。

 すっかり我が家に居ついて、しかも遠慮の「え」の字もない居候たちを前に、そう決意したのだった。


 菜園間移動を使い、強制的に二人を第二家庭菜園へと連れてきた。


「ここは第二家庭菜園。魔境の近くにあるもう一つの家庭菜園です。実は二人にプレゼントがあるんです」

「プレゼントだと……?」

「はい、これです」

「これは……犬小屋かのう?」


 目の前にある小屋を不思議そうに見ているミランダさんとブラーディアさんに、僕ははっきりと言った。


「いいえ、お二人の家です」

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