第85話 領主様が来た
領主様が来ている間、ミルクとピッピを第三家庭菜園にいてもらおうと、二匹を連れて転移した。
すると転移先の菜園に、謎の生き物がいた。
淡い緑色の髪をした可愛らしい子供たちだ。
身体の大きさ的に三歳児くらいだろうか?
と言っても、たぶん人間じゃない。
なにせ、大きな花を頭のてっぺんに咲かせているのだ。
単に乗せているだけかと思ったけど、明らかに髪の毛と同化している。
ちなみにそれぞれ青にピンクと、色が違う。
砂風呂に入っているかのように半身を菜園の土に埋めていて、なんだか気持ちよさそうな顔でまったりしている。
ええと、ここ僕の菜園なんだけれど……?
「にゃ?」
「ぴぃ?」
警戒するような相手ではないのか、ミルクとピッピは不思議なものを見る顔で首を傾げた。
「「っ!?」」
そこでようやく僕たちの気配に気づいたようで、子供たちがこちらを向いた。
「「に、にんげんなのーっ!?」」
「しゃべった!」
どうやら言葉を話せるらしい。
「ころされるのー」
「たべられちゃうかもー」
「どっちにしてもおわりなのー」
「ふえええー」
そんなことを言いながらも、逃げようとはしない。
いや、地面にしっかり埋まっているせいで、なかなか出られないようだった。
慌てた様子でわたわたと手をバタつかせているだけだ。
……かわいい。
「ううー、せめてひとおもいにー」
「いたいのやなのー」
ついには諦めたのか、目を瞑って静かになってしまった。
「ええと……別に殺すつもりはないよ?」
優しく話しかけてみる。
「ほんとなのー?」
青い花の子の方が恐る恐る目を開け、訊いてくる。
するとピンクの花の子が、
「だまされちゃだめなのー、そうやって安心させておいてからの、ぐさりなのー。それがにんげんのじょーとーしゅだんなのー」
「ふえええーっ!」
青い方の子が頭を抱えてしまった。
「いや、何もしないから」
「と、みせかけて?」
「何もしないって」
随分と警戒心が強いな。
「にゃ!」
「「っ!?」」
そのとき何を思ったのか、ミルクがいきなり二人に近づいていくと、ピンクの方の背中に噛みつき、そのまま土から引っこ抜いた。
「ひゃえーっ!? やっぱりたべられるのーっ!?」
あ、ちゃんと足がある。
でも根っこみたいな足だ。
もちろん食べるつもりなどなかったミルクは、ぽいっと土の上に放り捨てた。
さらに青い方も地面から引っこ抜き、近くに転がす。
「「がくがくぶるぶる……」」
「えーっと……これで逃げられるね?」
「「はっ!?」」
ようやく悟った子供たちは、あたふたしながらどうにか立ち上がると、そのままどこかに逃げて行ってしまった。
「何だったんだろ、あの子たち……」
凄く気にはなるけれど、ともかく今は領主様の方だ。
この場をミルクとピッピに任せて、僕は第一家庭菜園へと戻った。
「うむ、我がこの街の領主、エリザベート=アーセルだ」
我が家の玄関。
偉そうな口ぶりでそんな宣言をしたその人物は、どこからどう見ても幼女だった。
見たところ、リルカリリアさんのようにポピット族という感じではない。
「え? この子供……いや、この人が領主様?」
「そだよー」
狼狽える僕の後ろからセナが軽い口調で肯定してくる。
さっき言っていたことは本当だったのか……。
我が家に領主様が来るということで身構えていたけれど、さすがにこれは予想していなかった。
どう接したらいいんだ……?
いや、幾ら幼女だからって、ちゃんと領主様として扱うべきだろう。
「まぁ戸惑うのも無理はないの。少々事情があって今はこんなナリをしておるが、正真正銘の領主だ。安心するがよい」
「は、はい……」
どうやら実年齢はずっと上らしい。
よかった……僕たちが暮らす街の領主がガチな幼女じゃなくて……。
「わたくしもお邪魔しますー」
「あ、リルカリリアさん」
領主様に続いて、リルカリリアさんも家に入ってくる。
そう言えば、領主様と知り合いなんだったっけ。
正直、僕一人でまともに領主様と上手く話せる気がしない。
リルカリリアさんがいてくれるなら凄く助かる。
「それで……どこまでご存じですか……?」
「うむ。一応、大よそのことは推測できておるつもりだ。……つもりなのだが、正直言って俄かには信じがたいことばかりでの。実際この目で確認したいのだ」
「そ、そうですか……」
ひとまず僕は領主様を庭へと案内することにした。
「えっと、これが僕のギフトで作った家庭菜園です」
「……家庭菜園?」
するとなぜか領主様は首を傾げた。
「は、はい。この間の降神祭のときに授かったのが【家庭菜園】っていうギフトなんですけど、家庭菜園を作れるんです」
「ま、待て待て。ならば街の外にあるあの広大な畑は何だ?」
「あれも僕の家庭菜園ですけど……」
「家庭菜園? 家庭菜園というのは家庭レベルの菜園ということではないのか?」
「領主様ー、そこは気にしては負けですよー」
眉根を寄せる領主様に、リルカリリアさんが横からフォローしてくれる。
……フォローなのかな?
もう知ってはいるみたいだけど、あっちの方をお見せした方がいいのかもしれない。
「じゃあ、向こうの菜園に移動しますね」
「移動? いや、向こうに移動するだけでも一苦労だろう。ひとまずここで話を――」
「あ、もう着きましたけど」
僕は領主様を連れて、第二家庭菜園へと転移していた。
「……へ?」
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