第84話 領主様が来るらしい
「山がー……」
「もえちゃったのー……」
目の前に広がる光景に、小さな二つの影が落胆の声を漏らした。
あちこちに転がる黒焦げの木々。
その炭化具合から、かなりの高熱で焼かれたことが推測できる。
それもそのはず、ここはレッドドラゴンのブレスを真面に浴びた一帯だった。
今ではすっかり禿山となってしまっている。
「ひどいのー」
「どうしてなのー」
「おうち、なくなっちゃったのー」
「なのー」
以前とかけ離れた山の姿に、二つの影が嘆く。
どうやらレッドドラゴンが棲みつく前は、ここが彼らの住処だったらしい。
と、そこで何かに気づいたらしく、影の片方が声を上げた。
「あれなにー?」
「どれなのー?」
「あそこなのー」
二つの影が短い足を動かし、ひょこひょことそれに近づいていく。
やがて辿り着いたのは、周囲の焦げた地面とはまた違う、黒っぽい土で構成された四角い地面だった。
「いい土なのー」
「えいようたっぷりなのー」
そこへ踏み入るや、二つの影は歓喜の声を上げる。
「ここにすむのー」
「すむのー」
この土を気に入ったらしい。
先ほどまでの落胆ぶりはどこへやら、二つの影は小躍りして喜ぶのだった。
◇ ◇ ◇
ピッピが空を飛べるようになった(?)後、家に戻ってきた。
「ぐごごご……」
ミランダさんが相変わらずソファの上で豪快な鼾を掻いて寝ている。
昨日の夜も散々お酒を飲んで暴れて、そのまま眠ってしまったのだ。
「……この光景に見慣れてしまった自分が悔しい」
いい加減、出ていってほしいんだけど、何度言ってものらりくらりと躱されるだけで埒が明かない。
強硬手段に出ようにも僕じゃ勝負にならないし、何よりセナが懐いてしまっているのがなぁ……。
「にゃ?」
「え? 外に捨ててきてくれるって? うーん、それは最終手段ってところだね」
まぁ、セナの剣に魔法を付与してくれたし、しばらくはそれを家賃替わりだと思って我慢するとしよう。
それにしてもあの付与、専門家に頼んだらどれくらいの値段するんだろう?
「昼食を作るか」
もうすぐお昼なのでそろそろ起きるだろう。
ミランダさんのことは放っておいて、僕は台所へと向かう。
ちなみに料理は仕方がないのでいつもミランダさんの分まで用意している。
あの人、放っておくとお酒しか飲まないし。
それでよくあの体型を保ってられるよね。
一人くらい増えても手間は大して変わらないし、食材もタダだけど……ちょっと癪ではある。
「お兄ちゃんお兄ちゃん! 大変だよ!」
「セナ?」
台所に行く途中、玄関からセナが慌ただしく家に上がってくる音が聞こえてきた。
「どうしたんだ? てか、領主様のお城に行ったんじゃなかったのか?」
「その領主様が大変なの!」
「領主様が? え? もしかしてご病気とか……?」
「そーじゃなくて、領主様がうちに来るって!」
「……は?」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
領主様がうちに来る?
よりにもよって、この狭い我が家に?
何のために……?
「わたしが説明するわ」
「アニィ? それにシーファさんとサラッサさんも……」
「ええっ? 僕のギフトのことがバレたっ?」
「正確にはバレそうってことね」
アニィが訂正する。
「あっちの菜園の方を調べられちゃったみたい。それで追及されて……相手は領主様だし、さすがに黙ってるわけにはいかないじゃない。ただ、ギフトの力だってところまでで、詳しいことはまだ話していないわ。一応、あんたのものだし、先に本人の了解を取りたいってお願いしたのよ。そうしたら直接会いたいって話になって」
それで領主様が僕の家まで来ることになったらしい。
「でもそれ普通、僕が出向くべきじゃ……?」
「実際に使っているところを見たいんじゃないの?」
「そ、そっか……」
だからって、こんな庶民の家に領主様を……って、今考えるべきはそっちじゃない。
領主様に嘘を吐くのは難しいだろう。
ギフトのすべてを明らかにする必要はないかもしれないけど、基本的な能力については知られてしまうことになる。
『余ために永遠に作物を作り続けるのじゃ~~っ!』
なんて命令されて、馬車馬のごとく働かされることになるかも……?
と言っても、肉体労働するわけじゃないけど。
そんな風に不安に思っていると、シーファさんが、
「領主様は悪い人じゃない。きっとよくしてくれる」
「シーファさん……」
うん、シーファさんが言うなら間違いない。
「領主様はねー、小さな子供ちゃんだよー」
「子供……?」
いやいや、領主様が子供なわけないだろう。
まぁ、セナの言うことはだいたいおかしいし、真に受けてはいけないな。
「それで、いつ頃いらっしゃるんだ?」
「もうすぐ来ると思うわ」
「もうすぐ!? ちょっ、それを早く言ってくれ!」
せめて掃除くらいしないと!
「ぐごあー」
「この酔っ払いもどうにかしないとダメだな」
とりあえずセナの寝室に押し込んでおこう。
セナに頼んで、運んでいってもらった。
それからシーファさんたちにも手伝ってもらいながら、できる限り家の中を奇麗にしていく。
って、そうだ。
ミルクとピッピはどうしようか。
今は第二家庭菜園にいるけれど、場合によってはあっちにも行くことになるかもしれない。
さすがに魔物を飼っているのを知られるとマズいよね?
「そうだ。しばらくモリア村の近くに置いてきた菜園にいてもらおう」
そう考え、僕は二匹を連れて第三の菜園へと転移し――
「「っ!? に、にんげんなのーっ!?」」
――不思議な生き物と遭遇した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます