第60話 超希少金属らしい
「リルカリリアさん、実はちょっと教えてほしいことがあるんです」
「なんでしょうかー?」
その日、いつものように収穫物を受け取りにきたリルカリリアさんに、僕は菜園で収穫したとある鉱物を見せた。
「これってどういう鉱物なのか分かります? アダマンタイトって言うらしいんですけど」
「ファッ!?」
リルカリリアさんが変な声を出した。
「あ、あ、あ、アダマンタイト~~~~っ!?」
「は、はい。うちの菜園で収穫できるようになったんですけど……どういうものかよく分からなくて」
「あ、アダマンタイトはっ、オリハルコンに並んで世界最高の硬度を持つとされる超希少金属ですよ~~っ!」
「ちょ、超希少金属……? それって、ミスリルと同じくらい……?」
「いえいえいえ! 全然違います! ミスリルよりずっと希少で、価値も遥かに高いです! ほとんど幻と言われるくらいですから!」
「えええっ」
そんなに凄い金属なんだ、これ。
見た目は地味な黒系で、鉄とかと大して変わらないように見えるのに。
「硬いと言われてもあまりピンとこないですね……。僕からすると普通の鉄だって十分に硬いので」
「そ、そうですねー……例えば、ドラゴンでも噛み砕けないと言われてますー」
「ドラゴンを見たことないので……」
「で、ではではー、アトラスに踏まれても罅一つ入らないとかはどうでしょうー?」
「あー、それなら少し想像できるかもしれないです」
あのスタンピードのとき、通常の魔物の攻撃を受けて、ミスリルの武具にも少なくない傷が入っていたくらいだ。
「万一アトラスの巨体に踏み潰されたら、ミスリルの防具くらいじゃ粉々になってもおかしくないですからねー」
「じゃあ、これで武具を作れば……」
「伝説級の武具ができますねー。ただ、大きな問題がありましてー」
「大きな問題?」
「あまりに硬すぎますのでー、加工ができるような鍛冶師は恐らく世界に数えるほどしかいないかとー」
「そ、そうなんですね……」
……残念。
「ところで、オリハルコンって何ですか?」
「そちらはもう神の金属とまで言われ、神話級のものですよー」
リルカリリアさんが言うには、硬さだけならアダマンタイトとオリハルコンは双璧を成すものだという。
けれどオリハルコンには、ミスリルを遥かに凌駕する高い魔力伝導率があるそうだ。
「さらにですねー、神話級のオリハルコン武具はー、どれも特別な性能を持つと言われていますー」
「特別な性能?」
「はいですー。例えばですねー、狙ったものを必ず貫く神槍グングニルですとかー、自動で敵と戦ってくれる神剣フラガラッハとかですねー」
何それ、めちゃくちゃなんだけど……。
さすが神話級の武器だ。
「そこまで行かなくてもですねー、純度の高いミスリルであればー、高位の魔法使いなら魔法付与を施すことも可能ですー」
「魔法付与?」
「振るうだけで魔法を放てたりー、敵を斬ると自分の傷が回復したりー。性能によってはなかなか便利ですよー」
「へえ」
「ジオさんのミスリルで作った武具でしたらー、実力ある魔法使いに頼めばいけるかもしれないですねー」
良いことを聞いた。
冒険者を始めるときに結構な値段で買ったセナの剣が、どうやらもう切れ味が落ちてきてしまっているらしい。
何だかんだ頑張ってくれているし、新しいのをあげたいと思っていたのだ。
アダマンタイトがダメなら、ミスリルしかない。
そうだ。
せっかくだし、新しく作れるようになった高品質のミスリルにしよう。
「リルカリリアさん、このミスリルならどうですかね。いい武器、作れそうですか?」
「~~~~っ!?」
「……? リルカリリアさん?」
「な、な、何ですかこれはぁぁぁっ!?」
「ええっ、もしかしてダメでしたか?」
高品質のミスリルのはずなんだけど……。
そう言えば、中品質のミスリルは淡く発光していたのに、これはまったく光っていない。
「いえいえいえ! そうじゃないですーっ! ミスリルは純度が低いほど、含有している魔力が放出されて強く発光してしまうんですよーっ!」
「じゃあ、全然光ってないこれは……?」
「純度百パーセントのミスリルってことですーっ!」
どうやら自然ではまず手に入らない代物らしかった。
リルカリリアさんから話を聞いた後、僕はシーファさんの家へとやってきた。
シーファさんはセナと一緒に冒険に行っているので不在だ。
今日はシーファさんの親父さん――最近知ったけど、ビリーさんというらしい――に用事があった。
「あれ?」
工房の入り口のところに、僕は見慣れない後ろ姿を発見する。
青い髪の女の子だ。
背はあまり高くない。
くりっとした可愛らしい目をしていて、何となく小動物を思わせる。
なぜか扉に身体を隠しながら、工房の中を覗き込んでいた。
「ハァハァ……き……にく…………らしい…………ハァハァ……」
彼女の視線の先にあるのは、熱々と燃える鉄を、半裸になった職人さんたちがハンマーで叩いている姿だ。
その中にはビリーさんもいて、鍛え抜かれた広背筋をこちらに向けている。
カッコいいなぁ。
作業しているところは初めて見たけれど、みんなすごく真剣で、中に入れない空気だ。
この女の子、だから外で待っているのかな?
……なんだかちょっと息が荒いけど。
「えっと……何か御用ですか?」
「ひゃっ!?」
声をかけてみると、彼女は悲鳴とともに大きく飛び上がった。
「す、すいません、いきなり声かけちゃって。何か用なのかなって」
「ちちち、違いますっ……わわわ、私は怪しい者じゃないです……っ!」
「そ、そうなんですね」
別に怪しいとは思ってなかったんだけど、そう言われると逆に怪しく思えてきちゃった。
「し、シーファに会いに来ただけで……」
「シーファさん? えっと、シーファさんなら今はいないですよ。冒険に出てます」
「そそそ、そうだったんですね……あ、ありがとうございましたっ」
彼女はそう言い残すと、逃げるように去って行ってしまった。
うーん、やっぱり怪しいかも……。
シーファさんに何か変なことしないといいけど。
それから僕は作業がひと段落するのを待って、ビリーさんに声をかけた。
「おう、ジオじゃないか。今日は何の用だ?」
「実はですね、これで剣を打ってほしいんです」
「剣?」
「はい。妹の剣がそろそろ限界らしくて」
「なるほどな。そういうことならお安い御用だ」
「あ、もちろんお金はちゃんと払います」
「だがいつも世話になってばかりだからな。格安で引き受けてやるよ。……って、なんじゃこりゃああああああっ!?」
僕が持ってきた高品質のミスリルを見るなり、ビリーさんは目を見開いて叫んだ。
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