第43話 スタンピード 2

「早く避難しろ! スタンピードが発生したらしい!」

「急げ! 教会に逃げ込め!」


 なんだか大変なことになった。


 外が騒がしいなと思って家を出てみると、どうやら魔物の群れが都市に向かって押し寄せてきているらしい。

 役人らしき人たちが叫び、人々を避難誘導していた。


「おい、君も早く逃げるんだ!」

「は、はい」


 頷いたものの、我が家にはミルクがいる。

 実はスノーパンサーという魔物らしいし、この状況でミルクと一緒に避難などできるはずもなかった。


「まぁ普通に第二家庭菜園に転移したらいいだけだしなー」


 僕はそう考え、このまま家に留まることにした。


 ちなみにセナは今、ダンジョンに潜っている最中だ。

 なので家には僕とミルクしかいない。


「スタンピードって、どれくらいの規模なのかな?」


 僕は現在の状況を把握するべく、メガゴーレムの頭の上から西門の方を見やった。

 幸か不幸か、我が家は西門から比較的近い場所にある。


「うーん、もうちょっと高さが足りないか」


 ゴーレムは五メートルほどの高さだが、都市の防壁の方は六メートルくらいある。

 これではよく見えない。


 僕はもう一体、別のゴーレムを作り出すと四つん這いにさせ、その上に僕が乗るゴーレムを上がらせてみた。


「高っ……」


 怖いぐらいの高さになってしまったけど、お陰で西門の向こう側が見えた。


「うわっ、結構な数じゃん……」


 土煙を上げて迫りくる魔物の大群。

 普通に千体ぐらいいるかもしれない。


 一方、西門の前に陣取り、それを迎え撃とうとしているのは領兵たちだ。

 その数はせいぜい二百といったところ。


「あっ、でもミスリルの武具を装備してる」


 シーファさんの親父さんの工房で作ったやつだろう。


 やがて魔物の群れと領兵たちが激突した。



    ◇ ◇ ◇



「「「おおおおおおっ!」」」

「「「グルァァァァッ!」」」


 ついに魔物の大群と領兵たちが激突した。


 長い距離を移動してきたこともあり、魔物側はバラバラと縦に長く伸びているのに対し、領兵たちはしっかりとした横陣を組んでいた。

 それゆえ先陣を切って突っ込んでいった魔物たちは、集中攻撃を受ける形となり、瞬く間に倒されていく。


 緒戦は明らかに領兵側の優勢だった。

 それには武具の性能も大きい。


「さすがミスリルの剣だ! 切れ味が段違いだ!」

「体表の硬い魔物だろうが、確実にダメージを与えられる!」


 支給された新たな剣の性能に湧く領兵たち。

 ますます士気が高まり、魔物を斬り倒していった。


「ガルァッ!」

「がっ……」

「大丈夫か!?」

「あああっ、痛いっ! 痛……くない? 腹に爪を受けたのに、まったく痛くないぞ!?」

「見ろ、防具にほとんど傷がついていない! さすがミスリル製だ!」


 さらに彼らの身を護る武具も高い効果を発揮していた。

 魔物の強烈な爪撃をもしっかり防いでくれているのだ。


「これならいけるぞ!」

「俺たちの街を護るんだ!」

「今だ、魔法部隊、放て!」

「「「ファイアボール!」」」


 そんな領兵たちを後方から見ているのは、強制招集された冒険者たちだ。


「この街の領兵ってあんなに強かったのか?」

「いや、恐らく武具のお陰だ。全員ミスリル製の剣と鎧で武装している。どうやらつい最近、領主が兵たちのために買い与えたらしい」

「ひゃ~、さっすが違うよな、ダンジョンで儲けてる領主様はよぉ」


 彼らの役割は、領兵が敷く陣を突破してきた魔物を倒すことだった。

 だが今のところまだその機会はない。


「このままいけばオレら出番ねぇんじゃ?」

「……さすがにそれはない。本番はここからだ」


 戦況理解のある冒険者が言う通り、よく見ると少しずつ領兵の陣形が崩れつつあった。

 後方にいた魔物が追いついてきたことで数に圧倒され始め、対処が難しくなってきたのだ。


 幾ら性能の高いミスリルの防具と言え、すべてのダメージを防げるわけではない。

 負傷し、倒れる兵士が増えてくる。


「ぐあああっ」

「いったん後ろに下がって休憩しろ!」


 前の兵士がやられると、その穴を埋めるように後ろの兵士が前に出る。

 その間に負傷者は後方で治療を受け、終われば再び戦列に復帰する。


 そういう連携を取ることによって、少しでも長く陣形を維持する作戦だった。

 基本的に少人数で戦闘する冒険者にはない戦い方だろう。


「大丈夫か! すぐに治してやるぞ!」

「す、すまない……」


 負傷兵がどうにか自力で後方に下がると、そこへ医療兵が回復ポーションを手に駆け寄ってきた。

 医療兵は患部を確認しながら、負傷兵を元気づけるように言う。


「最近、冒険者たちの間で話題になってる回復ポーションだ。並のポーションであるが、その割に効果が高いらしく、領主様がこういうときに備えて大量に買っていたらしい。……っ、これは……」


 医療兵は思わず息を呑む。

 よく見ると傷が骨まで届いていたのだ。


 これでは並のポーションでは治療が難しい。

 運よく治るとしても、時間がかかり過ぎるだろう。


 それでも医療兵は一か八か、神に祈りながら、ポーションの液体を患部に垂らしていった。


「な……っ!?」


 すると予期せぬことが起こった。

 一か八かの神頼みだったはずが、その深い傷があっさりと癒えていったのだ。


「治った……? この深い傷が?」

「もう痛くないぞ! 助かった! まさか上級ポーションを使ってくれるなんてな! これならすぐにまた戦えそうだ!」


 負傷兵はそう言って起き上がると、元気よく走っていった。


 どうやらこれは彼らだけに起こった奇跡ではなかったらしい。

 同じく後方で治療を受けていた負傷兵たちが、軽傷、重傷にかかわらず、何事もなかったかのように次々と戦列へ復帰していく。


「いや、並のポーションのはずなんだが……?」

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