第42話 スタンピード 1
「うーん? あまり魔物がやってこなくなっちゃったな」
自動菜園レベルアップ法をやり始めて三日。
気づけばお香を焚いても、魔物が菜園に現れなくなってしまった。
もしかしたらこの一帯にいる魔物を倒し切ってしまったのかもしれない。
考えてみたら、魔物だって無限に湧いてくるわけじゃないもんな。
また魔物が増えてくるまで、しばらくは休止しておこう。
それなりにレベルも上がったし。
―――――――――――
ジオの家庭菜園
レベル30 13/150
菜園面積:201000/∞
スキル:塀生成 防壁生成 城壁生成 ガーディアン生成 メガガーディアン生成 菜園隠蔽 菜園間転移 菜園移動
―――――――――――
〈レベルが上がりました〉
〈防壁生成から派生し、城壁生成を習得しました〉
〈新たな作物の栽培が可能になりました〉
レベルも大台の30に突入した。
菜園面積の限度が謎の記号になってる。
∞ってどういう意味だろう?
「城壁生成か……もっと大きな壁を作れるってこと?」
〈城壁を生成しますか?〉
はい。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「うわっ?」
地響きとともに途轍もなく巨大な壁が出現した。
高さは十メートルを優に超え、厚みも二メートル以上あるだろう。
たぶんアーセルを護る城壁よりも重厚だ。
「これ、ドラゴンの突進にも耐えられるんじゃない……?」
ドラゴン、見たことないけど。
いずれにしても家庭菜園には不必要なので、元の防壁に戻すことにした。
ところで言い忘れていたけど、普段この第二家庭菜園は、菜園隠蔽のスキルで外からは見えないようにしていた。
こんな場所に大きな壁があるのが見つかったら騒ぎになるだろうしね。
◇ ◇ ◇
「それで、件の沼地はどうなっておる?」
「は。領兵たちに調べさせたところ、何もないただの更地になっていたとのことです」
「……は? 更地? あそこには底なしとも言える沼が大量にあったはずだぞ? しかも大型の魔物も多数、棲息しておった」
「そ、それが、沼地は綺麗になくなっており……それどころか、繁茂していた草木もまったく見当たらなかったと……」
「一体どういうことだ……?」
信頼できる家臣からの報告を聞いたアーセルの領主エリザベートは、腕を組んで唸った。
どこでもいいと言われたので、ならばと本当に使い道のない土地を与えたのだ。
少し相手を試してみる気持ちもあって選んだ土地だが、家臣たちから反発される心配がないだろうとの考えもあった。
「さらに不思議なことに……領兵たちがその更地に近づこうとすると、なぜか見えない壁に阻まれ、それ以上、進むことができなくなってしまうというのです」
「なに? どういうことだ?」
「秘密裏に行った調査ということもあり、詳しいことは分からなかったようですが、高度な結界が張られている可能性が高い、とのことでした」
「うーむ、一体そこで何をしておるのだ……」
エリザベートは難しい顔で思案する。
領主として、彼女には領地を護る責任がある。
もし何か危険なことをしているのだとすれば、さすがに黙っているわけにはいかなかった。
「しかしこの短期間で、そのようなことをやってのけるとはの……。下手に刺激するのはマズいかもしれぬな」
とはいえ、エリザベートは、ポピット族が決してあくどい商売をしない一族であることを抜きにしても、あの小柄な商人のことを信用していた。
さらに先日、直に会ってみて、あの冒険者の少女たちが領地を害するような真似をする人物だとは思えなかった。
「しばらく様子を見るかの。ただ、監視は続けさせるがよい。あやつらの家なども含めての」
「畏まりました」
家臣が恭しく頭を下げたそのときだった。
「た、大変です、エリザベート閣下っ!」
「どうした? 騒がしい」
「す、スタンピードです! 暴走した魔物の大群が都市に向かって押し寄せてきています!」
「何だと……っ!?」
「ほ、報告します! 西門から現在およそ五キロ、千体を超す魔物の群れが、一斉にこちらに向かってきているとのことです!」
「くっ……ならば、確実にここに押し寄せてくると考えてよいということか……」
「住民の多くはすでに教会等のシェルターに避難しております。しかし、都市内に侵入されてしまうと――」
「分かっておる。必ずここ西門で食い止めるのだ!」
「はっ!」
エリザベートはスタンピード発生の一報を受けるなり、すぐさま領民たちを避難させるよう家臣たちに命じた。
その後は、スタンピードに真っ先に晒されることになるだろう西門に赴き、領兵たちに自ら指示を出している。
「冒険者の協力はどうなっておる?」
「はっ、ギルドを通じ、強制招集をかけてもらいました。ですが現在、冒険者の多くがダンジョン探索に出ているようで、集まったのは三十から四十人ほどです」
「火山エリアに水中エリア……両エリアの攻略法が立て続けに確立されたことが、まさかこんな形に裏目に出るとは……」
しかし状況は悲観的なものばかりではなかった。
領兵たちのために購入したミスリル武具が、つい数日前にすべて納品され終わったのだ。
強力な装備に身を包んだこともあり、領兵たちの士気は高い。
彼らは閉鎖した西門前に陣を組み、領民たちを護ろうと魔物の群れを迎え撃つ。
「スタンピード、見えてきました!」
やがて彼らの目にも暴走する魔物の集団が見えてきた。
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