第41話 楽々レベリング

 家庭菜園が二つになった。


 紛らわしいので、最初の菜園を第一家庭菜園、新しくできた方を第二家庭菜園。

 今後はそう呼ぶことにしよう。


 さて、元々は沼地だった第二家庭菜園の端っこには今、その沼地に棲息していた魔物の死体が積み上がっている。

 花畑のプレゼントの際には、これが見えてしまうと無粋なので、そこだけ新たに短い防壁を作り出して隠していたけれど、どうにかしないといけない。


「どうするかな?」


 全部で三十体はあった。

 魔物の中には、その素材が高く売れるものもいるのだけど、リルカリリアさんによれば「沼地の魔物は素材としては価値が低いですねー」ということらしく、解体処理する労力の方が高くつきそうだった。


 どうしたものだろうと思っていたら、


〈魔物を吸収しますか?〉


「え?」


〈魔物を吸収しますか?〉


「魔物を吸収……? よく分からないけど、やれるならやってみてくれ」


 次の瞬間、大量に積み上がっていた魔物の死体が一瞬にして消失した。


「消えた!?」


〈魔物を吸収しました〉


―――――――――――

 ジオの家庭菜園

  レベル26 14/130

  菜園面積:201000/1680000000

  スキル:塀生成 防壁生成 ガーディアン生成 メガガーディアン生成 菜園隠蔽 菜園間転移 菜園移動

―――――――――――


〈レベルが上がりました〉

〈新たな作物の栽培が可能になりました〉


「しかもレベルが上がった!?」


 魔石を使ったときと同じ現象が起きていた。


「そう言えば、魔物の体内にも魔石があるって聞いたことがあるな」


 それを感知して使ったのかもしれない。

 それにしても邪魔な身体まで一緒に処理してくれるとは。


「ん? 待てよ? ということは、魔物を倒せばレベルが上がるってことで……」


 よし、いいアイデアを思い付いたぞ。







「え? 魔物を引き寄せるお香ですか?」

「うん。できるだけたくさん貰えるかな? それも一番効果の高いやつ」


 僕はマーリンさんの薬屋に来ていた。

 いつも通りメイド服を着たデニスくんが接客してくれる。


「構いませんが……危険ですよ?」

「大丈夫大丈夫」


 たぶんね。


「それより今日はマーリンさんは?」


 いつもなら負のオーラを纏いつつも姿を見せてくれるのに。


「えっと……実はしばらく寝込んでまして……」

「えっ? 大丈夫なの?」

「は、はい。大分回復してきたみたいです」

「何があったんだ?」

「その……数年ぶりぐらいに外出した先が、領主様のお城で……」

「あー」


 ただでさえ引きこもり気質の彼女だ。

 初対面の人間に会うだけでも大変なのに、それが領主様となればなおさらだろう。


 しかも相手が領主様だったので、断ることもできなかったらしい。


「あ~な~た~の~せ~い~よ~」

「うわっ!?」


 急に店の奥からおどろおどろしい声が聞こえてきた。

 見ると、もはや視認できそうなほどの闇のオーラを纏ったマーリンさんが、長い前髪の隙間から僕を睨みつけている。


「あなたのせいで……領主の城に行かされ……死にかけた……」


 いやまぁ、確かに僕が渡した薬草で作ったポーションが評価されての招待だったわけだけど……。

 僕が悪いわけじゃないよね?


「なんか、すいません」


 でも一応謝っておく。


「許さない……末代まで呪ってやる……」

「や、やめてくださいよ」


 本当に呪われそうで怖い。


「……デニスちゃんの……脱ぎたてパンツ……くれたら……許す……」

「何でですか!?」

「デニスくん」

「ちょっ、ジオさん!? 何ですかその目は!? い、嫌ですよ!?」

「ただ脱いでくれるだけでいいんだ」

「嫌ですって!」

「君のそのパンツで救われる人がいる」

「ボクが救われないですよぉぉぉっ!」

「新しいの買ってあげるから」

「そういう問題じゃないです!」








 結局デニスくんのパンツは手に入らなかったけど、魔物を引き寄せるためのお香は手に入った。


 僕はそれを菜園の中心で焚き始める。


「げほっげほっ、ちょっと多すぎたかな……?」


 物凄い勢いで立ち上る煙に思わず咽ながら、僕はそこから離れて様子を見守ることにした。


 するとほんの数分で、一体の魔物が菜園に侵入してきた。

 あえて数か所ほど防壁の一部を取り除いておいた場所からだ。


「グルァァァッ!」


 それは熊の魔物で、興奮したようにお香目がけて走っていく。


 だがそこに現れたのは、魔物を上回る巨大なゴーレム。


「――――」

「ギャッ!?」


 メガゴーレムの拳を喰らい、熊が吹き飛ばされる。


 メガゴーレムは一体だけじゃない。

 さらに数体のそれらが熊を取り囲むと、殴る蹴るの暴行を加え、ついには熊が絶命する。


〈魔物を吸収しますか?〉


 はい、と頷くと、熊の死体が消え、代わりに14/130が16/130となった。


「よし、上手くいったな」


 満足していると、さらに別の魔物が現れ、またしてもゴーレムにタコ殴りにされて絶命。

 菜園に吸収される。


 そう。

 僕は自動で菜園をレベルアップさせていく方法を編み出したのだ。


 お香の効果は一時間ほどなので、切れたら新しく焚きなおす必要があるけど、後は放っておけば勝手に魔物が現れ、勝手にゴーレムが倒してくれるはずだ。


 それからいったん菜園間転移で第一家庭菜園に戻り、一時間ほどして再び第二家庭菜園に来ると、


「おおー、大猟だ、大猟」


 お香の周囲には二十体を超える魔物の死体が散乱していた。


〈魔物を吸収しますか?〉

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