第35話 領主の招待
冒険者ギルドの受付嬢、カナリアがいつものように可もなく不可もなく業務をこなしていると、最近話題のパーティがやってきた。
「あ、シーファちゃん、ちょうどいいところに来たわ」
「?」
「実はね、あなたたちにぜひ会いたいという方がいらっしゃるの」
この話を上から伝え聞いたときには、カナリアも驚いた。
すでにBランク冒険者とはいえ、シーファはまだ若手である。
カナリアが知る限り、こうしたケースは、今まで大きな功績を上げた熟練の冒険者ばかりだったからだ。
カナリアが少し勿体ぶったので、シーファは「誰だろう」という顔をしている。
「領主様よ」
「領主様!?」
声を上げたのはアニィだった。
あまりピンときていないのか表情を変えないシーファや、興味が薄いのかぼーっとしているセナと違い、ちゃんと驚いてくれる人がいたので、カナリアは満足しつつ、
「ええ、この間の火山エリアの攻略と、その有効な攻略方法の発見が評価されたのよ。ぜひお城で歓待したいんですって」
火山エリアは現在、最も人気な探索スポットとなっていた。
ここでしか手に入らない貴重な素材が市場に出回るようになり、お陰で領内の経済が活発化しているという。
そうした間接的な貢献も考慮されて、今回の招待に至ったのだろう。
「氷冷ポーションについてはわたしたちというより、生成した薬師の手柄だけれど……」
アニィは困惑気味に言う。
もっと言えば、ヒヤリ草を栽培しているジオのお陰なのだが、栽培方法を追及されると困るため秘密にしていた。
「だからその薬師の方にも話がいってるはずよ」
どうやらマーリンも招待されているようだ。
人見知りの彼女のことを想像しながら、「大丈夫かな」と心配になるアニィ。
「急だけれど、五日後のお昼にお城まで来てほしいとのことよ。大丈夫かしら」
「大丈夫?」
「わたしは大丈夫よ。セナは?」
「ほえ? たぶん大丈夫~」
水中エリアを攻略したので、しばらくは休暇にする予定だった。
ちょうどいいタイミングだ。
「じゃあ、よろしくね。……絶対、失礼がないようにお願いね?」
カナリアはなぜかアニィを見ながら言う。
わたし? と思いつつも、確かにこの中で最もしっかりしているのは自分だなと納得するアニィだった。
水面下でそんなやり取りがされていることには気づかず、シーファは今日ギルドにやってきた目的を、パーティのリーダーらしく果たそうとするのだった。
「カナリア、報告がある」
「報告? えっと、何かしら?」
「水中エリア、攻略した」
「……はい?」
即ギルド長案件となったのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
「つーかーれーたーよー」
返ってくるなり、セナは行儀悪く玄関でばたんと倒れ込んだ。
「お帰り。予定より遅かったな」
「色々あってさー」
セナは顔を床に押し付けたまま言う。
何を思ったか、ミルクがセナの頭の上に前脚を置くと、勝ち誇ったような顔でこっちを見てきた。
「おーもーいー」
「そんなところで寝てるからだ。夕食できてるから」
僕はますます重くなったミルクを何とか抱え上げ、リビングへと戻る。
あれから万一を考え、毎晩寝るときは部屋のドアを机で封鎖しているんだけれど、今のところスキンヘッドたちの再襲撃はない。
あれで観念してくれていたらいいんだけどなぁ。
ふらふらとリビングに入ってきたセナに訊く。
「また次も何日か泊りなのか?」
「ううん。しばらくお休みだよー」
「そうなのか」
念のため妹には話しておいた方がいいよな。
幾ら冒険者とはいえ、寝込みを襲われては対処するのが難しいだろう。
僕は先日のスキンヘッドたちの襲撃について話した。
「えっ、お兄ちゃん大丈夫だったのっ?」
「ああ。ミルクが起こしてくれたし、菜園に逃げ込んでからはゴーレムで撃退した」
「ニィ~ッ!」
ミルクがドヤ顔で鳴く。
「ふえー、気を付けた方がいいねー」
「セナこそ注意しろよ。お前がこの家の住人だって知ってるかもしれない。家の外で襲われる可能性もあるからな」
「あたしは大丈夫だよー。お兄ちゃんと違って戦えるもんねー」
「いや、さすがに複数で襲われたら一溜りもないだろ? 冒険者と言っても、まだ初心者なんだから」
「これでも大活躍なんだけどなー」
セナはそう苦笑してから、何かを思い出したのか、急に目を輝かせた。
「そうそう! なんかねー、領主様? とかいうすごい人に会うんだよー」
「領主様に?」
領主様と言えば、この辺り一帯を治めている偉い人のことだ。
僕たち庶民からしたら雲の上のような存在である。
「え? お前、何かやらかしたのか?」
「違うよー。シーファちゃんやアニィも一緒だし。お城に招待されたの」
「パーティでお城に招待されたってこと?」
「うん、あたしたちの成果が認められたんだってー」
「すごいじゃないか!」
さすがはシーファさんだ。
あの歳でBランク冒険者になったのもすごいけれど、まさか領主様に招待されるなんて。
どんどん手が届かない存在になっていっちゃうなぁ……。
「……お兄ちゃん、あたしもしっかり貢献してるからねー?」
「まぁ、足を引っ張らない程度には頑張ってるみたいだな。だけど勘違いしてはダメだぞ? あくまで他のメンバーたちのお陰であって、お前はおこぼれをもらっているような状態なんだ」
「ぶ~」
不満そうなセナだが、兄としてちゃんと教えておかないといけない。
冒険者にとって過信は大敵なのだ。
……冒険したことないけど。
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