第14話 庭が広くなった
薬屋のお姉さん――マーリンさんが、僕の持ち込んだエイム草を鑑定している。
「こ、こんなに大きいの初めて見た……っ! すごく、新鮮でっ……それに魔力も豊富っ……。この品質なら、上級のポーションだって作れるかもしれない……っ!」
どうやらエイム草で間違いなかったようだ。
ほっとしている僕に、マーリンさんは言う。
「この品質なら……一束、金貨一枚はくだらない……」
おお、そんな金額になるのか。
下手したら肉や野菜を売るよりも儲かるかもしれない。
「ほしいだけ言ってください。また採ってきますので」
「本当に……っ?」
「はい。あ、その代わりと言っては何ですけど、実は一つお願いがあるんです」
「……? なに……?」
「僕の妹が冒険者をやってまして。セナって言うんですけど。よくこの店でポーションを買っているそうなんです」
「知ってる……新しくシーファのパーティに入った子……」
「はい。それで、このエイム草を安く売りますんで、彼女たちがポーションを買うときは優先的に売ってもらえませんか?」
「もちろん構わない……ついでに安くしてあげる……」
よし、交渉成立だ。
回復ポーションが安くたくさん入るようになれば冒険が捗り、冒険が捗ると魔石が手に入り、魔石が手に入れば菜園がレベルアップするからね。
回り回って僕にとってもプラスになるというわけだ。
きっとシーファさんにも喜ばれるだろう。
『ジオ、助かった。ありがとう』
ふふふふ……。
「ひ、一人で笑ってる……」
「デニスちゃん……人は誰しも……妄想を楽しむものなのよ……」
つい想像して笑みを零していると、デニスくんに引かれてしまった。
マーリンさんに共感されるなんて、かえって恥ずかしい。
ちなみにこうしたリルカリリアさんを通さない取引については、先日の商談の際に、
『それはもちろん構わないですよー。ルルカス亭さんもそうですけどー、無駄な仲介を挟む必要はないですー』
と、認めてもらっている。
すでに近所のパン屋さんには直接小麦を納品しており、美味しいパンを焼いてもらっていた。
あっという間に評判になって売り切れが続出しているが、僕たちの分は常にキープしてくれているので、買いそびれる心配はない。
「じゃあ、明日も売りに来ます」
「お願い……」
「ありがとうございました!」
デニスくんに見送られ、僕は店を後にする。
強く生きるんだよ。
心の中でデニスくんにエールを送っておいた。
「あれ、リルカリリアさん?」
「ジオさん、ちょうどよかったですー」
家に帰ると、そこにいたのはリルカリリアさんだ。
いつもは午前中に収穫物を受け取りにくることになっているのだけど、今日もちゃんと納品したはずだった。
「どうされたんですか?」
「実はですねー、このお隣の土地を買い取りましてー」
「え? 隣って、この家ですか?」
「そうですー」
僕の家のすぐ裏にある一軒家。
かなり年季が入っていて、今はだれも住んでいない廃屋になっていた。
「持ち主と交渉して、売ってもらったんですー」
「そうなんですか。でも何のために?」
「もちろん、ジオさんに差し上げるためですー」
「ええっ?」
僕はびっくりした。
「実はですねー、ジオさんにはぜひもっと収穫量を増やしてもらいたいと思いましてー、そのためには菜園を広げるのが一番だと思ったんですー」
「で、でも、今の広さでもがんばればもっと収穫できると思いますよ?」
「いえいえー、それではジオさんが大変ですよねー? ギフトの性質からして、菜園を大きくしてしまえば効率よく収穫量が増やせると思うんですー」
「確かにそうですけど……」
ただ、作業としては一時間に一度、謎の声に従って命令を出すだけだ。
その回数が多少増えたところで、大した労力にはならない。
とはいえ、薬草類も育てたいと思っていたし、ありがたいと言えばありがたい。
「せっかくまだ菜園を広げられるんですからー、広げておいた方がいいと思いますよー?」
レベルアップによって、菜園面積は25000マスまで広げられるようになっている。
どれくらいの広さなのか、ちょっと想像できないけど。
「分かりました。ありがとうございます。でも、土地を買えるほどのお金はさすがに……」
「いえいえー、もちろんタダで差し上げますよー」
「えっ? さ、さすがにそれは悪いですって!」
「心配要らないですー、ジオさんのお陰でー、わたくしも儲けさせてもらってますからー。それに先行投資みたいなものですー」
リルカリリアさんはそう言って笑う。
「ほ、本当にいいんですか?」
「もちろんですー」
そのとき頭の中でいつもの声が響いた。
〈新たな土地を獲得しました。菜園に指定しますか?〉
はい。
次の瞬間、裏にあった一軒家が消失した。
「それではあちらの家を取り壊すように手配しま――――ふえ?」
リルカリリアさんが変な声を漏らす。
それから慌てた様子で走り出したのは、恐らく塀の向こう側を見ようとしたのだろう。
生憎と背が小さ過ぎたようだ。
ぴょんぴょん飛び跳ねているが、たぶん全然見える位置まで到達していない。
〈塀を作り変えますか?〉
お願いします。
すると菜園を取り囲んでいた塀の一部が消失し、隣の家の土地と繋がった。
さらに隣家の土地を囲むように新たな塀が出現する。
「い、家が消えていますーっ?」
そして先ほどまで廃屋があったはずのそこは、しっかりと耕された畑となっていた。
「すいません、どうやら菜園に指定したら勝手にこうなるみたいです」
「相変わらずとんでもないギフトですよーっ!」
これでもっとたくさんの作物を栽培できそうだ。
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