第13話 薬草を売ろう

〈レベルが上がったことにより、新たな作物の栽培が可能になりました。確認しますか?〉


 レベルが10になったときに、新しい作物を栽培できるようになっていた。


 エイム草 中品質

 ビーラ草 中品質

 シイ草 中品質

 デエフ草 中品質

 ジィーチ草 中品質

 ファイ草 中品質

 ヒヤリ草 中品質

 エアー草 中品質

 ピカピカ草 中品質

 マガリ草 中品質


 主に薬草系の植物だ。

 特にエイム草は回復ポーションを作るための原料として使われているやつで、需要も高い。


『お兄ちゃんお兄ちゃん、大変だよ!』

『どうしたんだ?』

『回復ポーションが足りないの!』


 と、少し前に妹が嘆いていたのを思い出す。

 どうやらパーティが行きつけの薬屋で、回復ポーションが品薄になっているらしい。


『エイム草っていう薬草があるんだけど、それが最近、全然手に入らないんだって』


 傷を癒してくれる回復ポーションは冒険者にとって必須だ。

 とりわけ回復魔法の使い手がいないパーティでは、生命線とも言える。


 セナのいるパーティもその一つで、回復ポーションがなかなか入手できない現状では、どうしても冒険をセーブしなければならないようだ。


『まー、休みが増えていいんだけどねー』


 と、我が妹は相変わらず暢気なことを言っていたが、パーティのリーダーであるシーファさんはそうはいかないだろう。


「エイム草を栽培してみようかな」


 きっとシーファさんが喜んでくれるに違いない、なんて下心もありながら、僕は少しスペースを確保してエイム草を栽培することに。


 ちなみにエイム草以外については、どんな用途があるのかもチンプンカンプンだ。

 次にリルカリリアさんが来たときに聞いてみるとしよう。


 そんなわけで、いつものように一時間ほどで生えてきた薬草を収穫、いや採取? すると、僕はシーファさんのパーティがよく利用している薬屋へとやってきた。

 家からはそう遠くない場所だ。


「こ、ここでいいんだよね?」


 そこは鬱蒼と茂る草木に覆われた廃墟のような屋敷だった。

 薄暗い木々の間を縫って、入り口まで進むと、年季の入った扉が現れる。


「OPEN」というプレートがかかっていた。

 どうやらここで間違いないようだ。


 恐る恐る中に入る。

 店内は思っていた通り薄暗い。


 商品棚にはポーションが並んでいるが、よく分からない謎の小瓶も沢山あった。

 爬虫類や昆虫が詰められたものとか……何に使うんだろう。


 店員さんの姿はない。


「あの、お邪魔してまーす!」

「い、いらっしゃいませっ」


 店の奥に声をかけると、フリフリのメイド服を着た女の子がおどおどと出てきた。

 まだ十歳ぐらいだろうか。

 目がくりくりと大きく、とても可愛らしい。


「って、メイド服?」

「うぅ……変ですよね……」


 自分で着ておいて何を言っているのだろう?


 そんな僕の疑問を察したのか、


「あっ、違うんです……これ、お店の制服なんです……」

「なるほど」


 だから仕方なく着ているわけか。

 だけどそんなに恥ずかしがる必要はないと思うんだけれど。


「普通に似合ってるよ?」

「それが嫌なんですっ!」

「……?」


 と、そこへ遅れてもう一人奥から姿を見せる。


「……いらっしゃい」


 やけに髪の長い女の人だった。

 前髪で顔が半分くらい隠れているし、髪の毛の隙間から覗く頬は青白い。

 一瞬、アンデッドかと思ってしまったのは内緒だ。


「……初めて見る顔ね……何の用かしら……」


 おまけにぼそぼそとした声で喋るのでとても聞き取り辛い。


「えっと……あれ? お姉さんはメイド服じゃないんですね?」

「……当然……あれは……デニスちゃん……専用だから……」

「デニス?」

「ぼ、ボクの名前です……」


 デニスっていうのか。

 見た目によらず男の子っぽい名前だった。


「ボク……男なんです……」

「えっ?」


 デニスちゃんが顔を真っ赤にして口にした言葉に、僕は耳を疑った。

 どうやらデニスくんだったらしい。


 突然、お姉さんが大声で叫んだ。


「違う……っ! 違うわ、デニスちゃん……っ! あなたは男の子じゃない……っ! 男の娘なのよ……っ!」

「意味が分からないよ! ボクは正真正銘の男で、そんな訳の分からない性別じゃないっ!」

「何を言っているの……っ!? せっかく男の娘に生まれついたんだから、あなたは男の娘として生きていくべきなのよ……っ!」

「知らないよ、そんなの!」

「あなたもそう思うでしょう……っ?」

「いや僕に同意を求めないでください」


 ……帰っていいかな?

 あと前髪の奥で見開かれた目が怖い。

 だいたい男の娘って何だ。


「あっ……待って……何の用だったの……?」


 本気で帰ろうとしたら呼び止められた。

 だけどテンションがさっきの十分の一くらいに萎んでいる。客にはあまり興味がないらしい。


「エイム草が足りないって聞いたんで、売りにきたんですよ」

「えっ? 本当に……?」


 カウンターの向こうから身を乗り出し、食いついてきた。

 ……悲しいかな、さっき男の娘について語ってたときの熱量ほどじゃないけど。


「ど、どこで採取したの……? 最近は雨が少なくて……なかなか採れないはず……」

「それは秘密です。でも必要なら定期的に納品できますよ?」

「ありがたい……とても困ってた……。でも、本当にエイム草なの……?」

「これです」


 僕はカウンターの上に採取したばかりのエイム草を置いた。


「こ、これが……エイム草……?」

「あれ? もしかして違いました?」


 実を言うと、今まで実物を見たことないので、これがエイム草なのか僕には判別できないのだ。

 一応ちゃんと「エイム草」を栽培したつもりだけど……。


 不安になる僕を余所に、マーリンさんは興奮したように叫んだ。


「この葉の形……間違いなくエイム草っ……! こ、こんなに大きいの初めて見た……っ! すごく、新鮮でっ……それに魔力も豊富っ……。この品質なら、上級のポーションだって作れるかもしれない……っ!」

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