第12話 案山子代わりにゴーレムを
「うわっ、またやられてる!」
その日、そろそろ収穫の時間かなと思って菜園を覗いてみた僕は、思わず叫んでしまった。
それに驚いたのか、バサバサバサと空へと飛び立っていくのは、忌まわしき黒い鳥。
そう。
カラスだ。
ここ最近、頻繁にカラスが僕の菜園を荒らすようになってしまっていた。
鳥が相手では塀も無力である。
彼らにも作物の美味しさが分かるのかもしれない。
カラスって賢い鳥らしいし。
しかも仲間に知らせているのか、段々と数が増えてきている。
もちろん僕もできるだけ監視しているんだけれど、ずっと見続けているわけにもいかない。
ちょっと離れたその隙を突いて、カラスが作物を食べてしまうのだ。
やっぱり賢いよね。
中には僕が居ても普通に荒らしにくる太々しいカラスもいる。
威嚇してもあまり逃げようとしないし、舐められているのかもしれない。
「お兄ちゃん、あたしが殲滅してあげよっかー?」
「殲滅て」
見かねたセナが物騒な提案をしてくる。
確かに冒険者の妹からすれば、カラスなんて雑魚だろう。
「そうだな。頼む」
「任せといて!」
と、セナに頼んだのだけれど、
「ぜんぜん来ないよー」
なぜか彼女がいるときに限って、カラスはまったく姿を見せない。
「本能で怖い相手だと悟っているってことか……?」
「ふえー、カラスって賢いんだねー」
一方で僕だけのときは普通に現れる。
カラスに弱い人間だと判断されているなんて……屈辱だ……。
「舐めるなよ! 僕だってやるときはやるんだ!」
セナが使い捨てた剣を手に、僕はカラスに戦いを挑むことにした。
さあ、いつでも来やがれ!
「カアカア」
飛んで火にいる夏の虫。
僕が待ち構えていたとも知らず、愚かなカラスが菜園に降り立った。
「今だ!」
「カア!?」
突然、剣を手に襲いかかった僕に驚くカラス。
「喰らえ!」
僕は容赦なく斬撃を繰り出した!
すかっ!
「あれ?」
空振りした。
カラスはそのまま飛び去っていく。
「アホーアホー」
「誰がアホだぁぁぁっ!」
上空を旋回しながら不愉快な鳴き声を上げるカラスに、僕は咆えた。
……いや、落ち着こう。
相手はカラスだ。鳥相手にキレるなんてカッコ悪い。
今のはちょっと失敗してしまったけれど、作戦としては間違っていないはずだ。
次に来たときは絶対にやっつけて――
「「「カアカアカアカアカアカアカアカアカアカアカアカアカアカアカアカア」」」
「って、一度にめっちゃたくさん来たぁぁぁぁぁぁっ!?」
この日、僕はカラスに敗北を喫した。
「お兄ちゃん、どうしたの、その傷?」
「うん、ちょっとな……」
カラスの攻撃で僕は負傷していた。
心配してくれる妹に、カラスに敗北しただなんて情けないことは話せない。
それにしても、どうしたものか……。
多少カラスに喰われようと、アリシアさんやリルカリリアさんに納品する分は余裕で確保することができる。
だけどカラスの数が増え続けていったら、さすがに苦しいだろう。
何よりこのままでは癪だ。
何かいい方法はないか……。
「あ、そうそう、お兄ちゃん。今日もおっきな魔石が手に入ったよ」
「おお、ありがとう」
ひとまず考えるのは後回しにして、僕はセナから受け取った魔石を菜園に吸収させた。
―――――――――――
ジオの家庭菜園
レベル10 0/50
菜園面積:200/25000
スキル:塀生成 ガーディアン生成
―――――――――――
〈レベルが上がりました〉
〈スキル:ガーディアン生成を習得しました〉
塀生成に続いて新しいスキルを覚えたぞ。
もしかしたら5の倍数のときに習得できるのかもしれない。
「でも、ガーディアン生成ってどういうこと?」
〈ガーディアンを作りますか?〉
はい。
よく分からないけれど、とりあえずやってみることにした。
すると菜園の土が盛り上がったかと思うと、人間の形へと変化していく。
「凄い、ゴーレムじゃないか」
そこにいたのは土で作られたゴーレムだった。
「もしかしてお前が菜園を守ってくれるのか?」
「――」
ゴーレムが頭を前後に動かした。
どうやら頷いてくれたらしい。
「お兄ちゃん、なにその子~? どこの子?」
「どこの子っていうか、ゴーレムだよ、ゴーレム。この菜園を守ってくれるらしい」
「ふえー、すごいじゃん!」
ゴーレムは自分の胸を叩いた。
任せてくれ、という意味だろうか。
翌日、セナが冒険に出発した後、早速ゴーレムの性能を確認することにした。
いつものように猛スピードで作物が育ち、菜園は収穫間近の状態に。
するとそこへ、数匹のカラスがやってきた。
僕がいるというのに、もはや警戒する様子もない。
どうやら完璧に見下されているようだ。
「――」
外敵の侵入を察知したのか、ゴーレムが動いた。
思っていたよりも速い。
あっという間にカラスに接近すると、腕を振り回して殴りかかる。
「カア!?」
一匹のカラスが吹き飛ばされる。
他のカラスたちはいったん空に逃げたが、反撃とばかりにゴーレム目がけて滑空。
だが鋭い嘴で攻撃しても、ゴーレムは無傷だ。
当然だけど痛がる素振りもなく、纏わりつくカラスを次々と殴り飛ばしていった。
「「「カアカアカア!」」」
カラスたちは堪らず逃走。
今度は上空に留まることもなく、遠くへと去っていった。
「よくやった!」
「――」
ゴーレムはガッツポーズするように拳を突き上げる。
喋らないけど、意外と饒舌なのかもしれない。
その後もゴーレムは幾度となく現れたカラスを悉く撃退。
やがてカラスは敵わないと理解したのか、菜園に姿を見せることは無くなった。
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