第3話 苦手なヤツもいる

 その日は曇天という言葉が相応しい空だった。乱雑に塗られた水彩画みたいな雲は心をざわつかせる。特別のことなどない平日の帰り道。俺と愛花は同じ家路を行く。お互い傘を持っていないので、いつ降り注ぐかもしれないスコールをやり過ごそうと速足での帰路のこと。こんな天気で人気のない普通の公園にそいつはいた。


 霊だ。


 制服姿の女生徒に見えるが明らかに透けている。愛花と同じ制服を身に纏った存在は未だにこちらには気付いていない。


「ちょっと、ストップ愛花。何かいる」


「どしたの?雨、来ちゃうよ?」


「いいからこっち。愛花に何か見える?」


 こういうとき、どう伝えたらいいものか知らないので、見てもらったほうが早いと踏み、公園の一角を指差す。言葉足らずな俺を訝しみながらも、愛花はその一角を目を細めて見つめる。


「………えっと………?」


「み、見えない感じ?多分幽霊っぽいのが俺には見えてるんだけど」


「そうなの?それってまずいんじゃないの?」


「やっぱり危ないよね。俺にしか見えてないとなると余計に」


 実際は興味津々である。何の前触れもなく現れた奇妙な存在に、吸い込まれそうな感覚に陥っているのかもしれない。やっと怖さを感じ始める自分に気付く。…いかんな。フワフワしている。依然としてこちらに気付く様子のない存在。


「ねえ愛花、俺、ちょっと見てくる」


「大丈夫なの?私も行こうか」


「え、いいの」


「いいわ。気が済むまで一緒にいてあげる」


 うーん、見えてないと反応としてはこんなものなのか?若しくは妄言だと呆れられているのかも。でも、一緒に来てくれるのはありがたかった。興奮して自分の感情を置き去りにしていたからだ。端的にいうと怖かった。だから、自分を保つ何かが欲しかったんだと自己分析した。


「はわあ!ビックリした。…どしたの、この手」


 愛花の手を握っていた。


「わかんない。こうしたくて」


「そ、そう」


 了承してくれたようだ。いい幼馴染を持ったものだ。


「ナヲが言うんだからきっと何かがいるんでしょうけど、近付いて大丈夫なんでしょうね」


「自分でも不思議なんだけど予感がするんだ。あの存在に気付けたのは必然のように思えてさ。少なくとも悪霊とかではない…はず。これじゃ答えになってないよね。ごめん」


「いいわ。冗談でもなさそうだし」


「ありがとな愛花。……じゃあ、いくよ」


 断片的に男の子の遊ぶ声が木霊している公園。その存在は公園でいちばん大きな樹木に寄り添っていた。少し浮いてるか…。


「今、どこにいるの?」


「あの木の下らへん。相変わらず向こうを見てるな。」


 曖昧な実況に頷いてくれる愛花。うーん、ずっとこのままだと撤収してもいいかもな。注意が薄くなり、なんとなく辺りを見回す。とててて…、可愛らしい足音が聞こえてくる。公園の奥から小学生だろうか。三人の男の子がサッカーボールを持ってこちらへ走ってくる。―というより霊のいる樹木に向かっている!先頭の男の子が、みるみるうちに霊と2,3メートルの距離まで近づいた時だった。微動だにしなかった霊が突然動いた!

男の子たちの前に音も無く動く。そして――


「おばけだぞおおお!がおおお!」


 言葉を失ってしまった。両手を挙げて、がに股になって、大声をあげる霊。男の子たちには霊が見えているらしい。 霊を指差してケタケタ笑っている。


「うああああ!また失敗したのだよおおおお!」


 うずくまって先程よりも大声で嘆く霊。まさか…驚かしているつもりだったのか…。


「君たちィィ!もっと怖がってよおお!おばけだよ!透けているんだよ!」


 縋りつき、泣き喚く幽霊というと怖く感じるけど、目の前のそれは一ミリも恐怖を抱かせることはなかった。うっとうしさの塊みたいな霊に、男の子たちは引いていた。ちなみに俺も引いてる。その隣で霊が見えない愛花だけはキョトンとしていた。


「君たちより年上だぞお!おねえさんだぞお!先輩を敬うのだよおおお!」


 もはや霊とは関係のないことでマウントを取ろうとしている。お、俺の霊のイメージがガラガラと音をたてて崩れていく…!


「ちょっとナヲ、大丈夫?さっきからプルプル震えていうけど。まさか、憑りつかてないわよね?」


 そういえば愛花と手を繋いでいたんだった。


「俺は大丈夫だよ。ありがとな。手、放すよ。ちょっと行ってくる。」


「え、危なくない?」


「全然危なくない気がする。愛花はここで待ってていいから」


 先程のサッカー少年は公園内を移動して遊び始めている。およそ霊を見たあととは思えないはしゃぎっぷりで、楽しそうにパス回しをしている。複雑な心境ではあるけど、霊とコンタクトをとってみよう。現場には、うなだれている女子高生の霊。この状態も普段なら怖いと感じるだろう。しかし、経緯を見ていただけに、どれだけ暗いオーラをまとっていようとも怖さは皆無だった。


「そこの怖くない霊。俺にはお前が見えてるぞ」


「うわあ!何?ビックリした!だ、誰だね!」


 霊に驚かれた。人類初ではなかろうか。


「一部始終を見させてもらった。驚かすのが下手な霊なんて初めて見たよ」


「み、見てたのかい!というより見えるのかい?」


「見えてる。今までそんなことなかったんだけど、お前は見えるんだよなあ」


「お前じゃない!幽華の名前は幽華なのだ!」


「俺は寺田ナヲだ。…で、さっきのザマは何なんだ?あんなので驚くヤツがいる訳ないだろう?」


「む~、いきなり現れて失礼な人だね!じゃあナヲ君は人をビックリさせることが出来るのかい?」


 なんか、ふっかけてきた。女子高生幽霊の幽華はプクーと頬を膨らませて俺を睨め付けてくる。が、やっぱり全然怖くない。というか、可愛い。


「そうだな。俺の靴を見てくれ」


「靴?何か変わったところでも」


 すかさず幽華の眼の前で指パッチンを鳴らす!周囲の音とは違うクリアで小気味良い音が俺の指から弾き出された。


「わひゃあ!ぐえ!」


 思いっきり驚き、尻餅をつく幽華。霊でも尻餅って、つくものなんだね。新たな発見だ。というか、これくらいで驚かないでほしいのだけれど。冷ややかな視線を注いでいるとハッとした幽華は、宙に浮いて俺から距離をとった。


「よくもやったね!幽華だってお返ししてやるのだよ!人間にはできないことを、幽霊の力を見せつけてやる!」


「そいつは楽しみだな。すごいヤツ期待してるぞ~」


「幽華は見せ物じゃないのだよ!とりゃ!」


 次の瞬間、幽華はフッと姿を消していた。むう。居場所が分からないと警戒せざるを得ないな。周囲を見渡してみるが先程のサッカー少年が勢いよくボールを蹴る様子くらいしか確認できない。あ、蹴り上げられたサッカーボールがみるみるうちに、こちらに飛んでくる。そしてボールが俺に当たろうかという瞬間、空中で何かに当たった。


 バムッ!


 鈍い音とともに俺の前方に転がるサッカーボール。それに続いて、


「いったああああああああいのだああああああ!」


 耳をつんざくような幽華の声。空中に姿を現した彼女は頭を押さえて、激しく身悶えていた。昨今リアクション芸人ですら見せないような痛がりっぷりはエンタメ性はあっても恐怖感は皆無であった。偶然飛んできたボールに当たるとか持っているとしか思えないな。一通りリアクションをしてから、ふよふよと力無く地上に降りてきた幽華は居心地悪そうに目を背ける。


「…自分でも分かっているのだよ。人を驚かせる才能がないってこと。ねえ、ナヲ君、幽華は幽霊失格だよね…」


 クスンと鼻をすすりながら上目遣いにこちらを窺う幽華。


「まあ、幽華のポンコツっぷりはよく分かったよ」


「ちょっ…、酷いよナヲ君!」


「でも事実だよな。幽霊としてのスペックを生かすことなく、無様を晒し続けられたら堪ったものではないよ。俺はオカルトが好きだから怖くない幽霊なんてはっきり言って許せないんだよ!」


「うう…返す言葉もないや…」


 目に見えて、肩を落としてしまう幽華。だが、そんな彼女に俺は詰め寄って更に続ける。真剣な想いだから、幽華の眼を正面から見据えて、大きく息を吸い込んでつたえるんだ。


「だから、俺は幽華の全部が欲しい!」


 瞬間、色素の薄い幽華の頬が淡いサクラ色に染まった。続いて、シュバッと俺から三、四メートル距離をとった。


「えええええ!急すぎるよ!ホ、ホントに?…いやいや、さっきまであんなに貶しておいて、そ、その、幽華のことが欲しいとか…、ど、どういうつもりだんにゃい!」


 焦って、捲し立てるように聞いてきて、噛んだ。かわいい。動揺しているらしいが、こちらも千載一遇のチャンス、逃せない。


「幽華には俺に付き合って欲しいんだ!頼むよ!一人だとできないことでも、二人一緒なら最高の結果が待っているよ!これは幽華じゃなきゃダメなんだ!どうか俺のことを信じてくれないか!俺の特別になってくれ幽華!」


「そんなに情熱的に言われてもわかんないよ~!…うう、で、でもやっぱり人間が霊を好きになったらいけないのだよ!」


「やっぱり、嫌だったか?」


「…そりゃあ幽華だって告白されて悪い気はしない、というよりも、なんていうか、うれ、う、嬉しかったけど…って、違くて、いや、違わないけど、アノソノ、エートとにかくだねえ!」


 目を回しながら言う幽華の一つの単語に俺は引っかかる。


「告白?違う違う。俺が言いたいのは、一緒に心霊映像を撮らないかってことだ。沢山の心霊映像を観てきた俺なら、全く怖くないビビらせ方しかできない幽華でも、人を驚かせる幽霊にプロデュースできる!だから、俺は幽華が欲しいんだあ!」


 暫しの沈黙。幽華は口をあんぐりと開けたまま、眉をひそめている。少しだけ思案して、スイッチを入れ直したかのごとく話し始める。


「なんと…、告白じゃないのかい!うあうあ~、紛らわしすぎるよ~!…それで、幽華を怖くなるようにプロデュース?こっちのほうが変なのだ!」


「俺だってこんなこと普段やらないよ。というかできない!だからこそ、幽華が一人前の幽霊になる手伝いをさせてほしいんだ!」


 一旦は呆れたという表情する幽華。そこから徐々に口角が上がり、ついには我慢できないといった具合に笑った。


「…ふふっ、本当におかしな人だね、ナヲ君は、あはは♪じゃあいいよ!幽華の全部をナヲ君にあげるのだよ♪」


 目の前で屈託無く笑う幽華。説得に夢中で気が付かなかったが、いつの間にか、互いの鼻先がくっつきそうなほど近付いていた。アイドルみたいに小さな顔。セミロングのストレートヘアは艶やかで目を引く。くりくりとした瞳には好奇心が宿っている。華奢な体つきながら、胸部は著しく膨らんでいる。…意識したらドキドキしてきた。


「よ~し、そうと決まれば、早速誰かを驚かせてみたくなったのだよ、ナヲ君!」


 思いっきりこちらにくっついてくる幽華。近いから!慌てて距離をとろうと後ずさる。


「分かったから、落ち着いて幽華。ウェイトウェイト!」


「ウェイウェイ!オバケに不可能は無いからね、ナヲ君のいうことは何でも聞けちゃうよ」


 な、何でもだと…。ハイテンションになった幽華はピョンピョンとその場を跳ね回る。一緒になって幽華の胸が、ポヨンポヨンと元気に上下していらっしゃる。素晴らしき光景に目を奪われていると、背後から声をかけられた。


「…おーい、ナヲ?そ、そこに幽霊がいるの?私、そろそろ帰りたいかなーなんて…」


 控えめな愛花の声にハッとする。幽華の存在に夢中になって、愛花をずっと放置していたんだった…!


「ごめんな愛花、すっかり待たせちまった」


「それはいいんだけど…幽霊、もういない?」


 愛花を見ていて思案する。俺は愛花に気付かれないように小声で幽華に指示を出した。


「いいか幽華、そこにいるのは俺の友人の愛花ってヤツなんだけど、今から俺の言う通りに驚かしてほしいんだ。やれるか?」


「いいのかい?友人なのだろう?幽華としてはありがたい限りだけど…。ナヲ君は目的のためならゲスいこともできちゃうんだね」


 ジト目でこちらを見つめていらっしゃる。幽華のために我が友人を捧げてあげようとしているのに、酷い言われようである。


「やれるってことで、いいんだな?」


「愚問だよ。幽華はナヲ君の友達だろうと容赦なくびっくりさせちゃうのだよ!」


「いい心構えだな」


 俺は幽華に手短に作戦を伝えて愛花のいるほうに向き直る。相変わらず恐る恐るといった様子、というよりも、先程よりも警戒しているように見える。


「まさか、今もその辺りにいるの?」


 さて、ここまで気にされた状態だと、今、幽華が現れても最高に驚いてはもらえないだろう。ベストなタイミングではない。だから、下準備として一度、愛花を安心させることが必要だ。


「ん~、やっぱり俺の勘違いだったのかも。確かにさっきは、この辺りにいたんだけどなあ」


「いないならさ、もう帰ろ。ね?」


「そうだな、時間を取らせて悪かった」


「ホントだよ~。私、心細かったんだからね」


 安堵の表情を見せる愛花には悪いけど、そろそろ愛花の近くに幽華が、正真正銘の幽霊が姿を消してスタンバイしているはずだ。俺は緊張した面持ちをつくって、ゆっくりと愛花の背後を指差す。


「お、おい…後ろ…。やっぱり、さっきのは見間違いじゃあなかったんだ…」


「後ろってナヲ…、本気で言っているの…?私の後ろに…いるの…?」


 みるみるうちに顔面蒼白になっていく愛花。こういうとき、飲み込みが早かったり、即座に事態を理解できてしまったりする人は損をしてしまうなあ。何事にも鈍感であれば、幽霊のような負の存在に気付くことなく過ごせるというのに。愛花は察しが良いところがあり、現状を把握するのに時間はかからなかった。不思議なもので、未知のものと遭遇したとき、人はそれが何かを確認せずにはいられない。恐怖心をも超えてくる人の探求心は、ときには、己の身を滅ぼす道への入り口かもしれないのに――。全身を緊張させた愛花が、意を決して後ろを振り返る。果たして、愛花の後ろには、何もいなかった。地面と木々と道路と空と…普通だった。フウ…と緊張が解けた声が聞こえた。十中八九、俺がイタズラでしたことだと思っているのだろう。


「もう、悪ふざけも大概にしないとダメなんだからね」


 そう言って、俺の方を振り返った愛花の目にソイツが見えてしまった。


 無表情の女がいた。


 愛花との距離はわずか二メートル程。制服姿の青白い女は、淡く透けている。視線は真っ直ぐに愛花の怯える瞳を射抜く。


「え…う、ウソ…でしょ…」


 か細い愛花の声は、空気中に吸い込まれてしまう。すとん、と。その場に尻餅をつく愛花。腰を抜かしたらしい。


「ナ、ナヲは何処!助けて、ナヲ!」


 先程まで俺がいたはずの場所に、女はいる。つまり、俺は消えてしまっていた。愛花と女は、物静かな公園に一対一であった。この現実を受け入れてしまえば、心は恐怖に飲まれてしまう。その心が落ち着く間も無く、事は進む。…ゆっくりと、女が愛花に近付く。…ゆらゆらと、不安定な歩行で。…ぐらぐらと、空気を揺らしながら。ついには、へたり込んでいる愛花を見下すようなところまで来る。愛花の呼吸は荒く、だが、女から目を逸らせない。限界まで追い詰められた愛花が悲鳴をあげる。それと同時に女も大声を出した。


「きゃああああ!助けてナヲおおおおお!」


「がおおおおお!オバケだぞおおおおお!」


 …台無しだ…。その女、つまり幽華は最後の最後で俺の恐怖の演出を、ちゃぶ台返ししやがった。その辺りは納得いかないが、幽華は愛花を怖がらせることに見事成功した訳だ。俺は愛花が後ろを向いた際に物影に隠れていた。そこから立ち上がり、二人(一人と一幽霊)の元に歩く。未だに「がおお」と得意げにもろ手を上げる幽華とビビり続ける愛花。シュールだな。


「もういいだろ、幽華。そのくらいにしてやれ」


「あ、ナヲ君!すごいよ、キミの言う通りにしたら、こんなに驚いてもらえたよ!生まれて初めて…じゃなくて、死んでから初めてだよ!」


 無邪気にピースサインしてくる。かわいい。一方で涙目で震えている愛花。怒られるのは確定だけど、先ずは説明しなければなるまい。


「すまなかった愛花。この埋め合わせなら何でもするから!とりあえず、ハンカチ貸すから泣き止んでくれないか」


「あ…ナヲ…!何処に行ってたのよぉ…。かったんだからぁ…。さっきの幽霊、もういない?」


「えーと、悪い幽霊はもういないぞ」


「?よく分かんないけどいないのね。うう…ナヲ~、怖かったよ~!」


 勢い良く俺に抱き着いてきた。そのまま、情けなく押し倒されてしまう俺。イケメンなら受け止められるんだろうなあ、などとアホなことを考えつつ愛花にマウントをとられる格好になってしまう。泣きじゃくりながら、余裕など皆無の愛花は俺に全身をくっつけてくる。抱き着いてくる。顔が近い。


「ホントに怖かったんだから!もう私のそばから離れたらダメだから!どっか行っちゃうナヲなんて嫌だからね!」


 ギューッと抱きしめる力が強くなり、胸の感触が鮮明に伝わってくる。ムニュムニュと制服越しでも分かってしまう柔らかさだった。


「わ、分かった!俺が悪かったから、落ち着いてくれ。この体制はいろいろとマズい」


 愛花から女の子特有の甘い香りがして、正直ドキドキする。俺の体は抱き枕よろしく、がっちりホールドされて身動きがとれなくなってしまった。


「グスッ…う~、ナヲにくっついていたら安心したかも…」


 耳元で弱々しい声を出すものだから、ゾクリとしてしまう。こんなことされたら、いろいろと我慢できないんですけど。何とか離れてもらわなければと身じろぎしたとき、冷たい視線を俺に向ける女と目が合った。幽華だった。心なしか、さっきよりも怖いような気がする。抱き枕状態の俺の背筋が、先程とは違う意味でゾクリとしてしまうくらいの威圧感で見下ろしていた。うん。今の幽華なら俺のプロデュースなんか無くても、立派な悪霊としてやっていけるぞ。このまま愛花に幽華を紹介しても平穏に事が進むとも思えないので、仕切り直した方が良さそうだ。幽華に対して「とりあえず今日は帰るから」と、口パクで伝える。冷たい視線は、俺の口パクに気がついたらしい。一つ、ため息をつく。そして、俺に対して、あっかんべー、と小さい舌を出して悪態をついてきた。お前は子供か。などと考えていると、幽華はスーッと消えてしまった。また、後で会いに来るとしよう。依然として愛花に抱きしめられるという幸せを噛みしめつつ、これから幽華のプロデュースをすることに想いを馳せるのだった。…そこのサッカー少年達、俺と愛花は見せ物じゃないんだから、さっさと家に帰りなさい。


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