第42話 挨拶①
学校が終わると、そのままアレンの実家へ行ってアレンのお父様にご挨拶してからゲストルームに泊まり、翌朝ご両親と共に私の実家へ移動する。
実家には事前に手紙で彼の家族が挨拶に行くことを知らせてある。
元々は召喚の儀が終わってから、帰ろうと考えていた。
だが、さすがにまだ学生同士のため互いの保護者に紹介と承諾を得てから正式に婚約を結ぶ必要があるだろう。
貴族であるアレンのご両親に田舎にある平民の我が家に足を運んで頂くのは物凄く申し訳ない気持ちでいっぱい謝ったが、初めて会ったアレンのお義父様はそんな素振りは微塵も見せず涙ながらに優しく歓迎し、すごく嬉しそうにしてくれた。
むしろアレンの粗末なプロポーズを受け入れてくれてありがとう、などと私達のやり取りを把握しているようだったし、アレンのことからかい過ぎてアメリア様に怒られており想像していたよりもフランクな方だった。
美味しいディナーをご馳走になり、質の良いベッドでぐっすり眠った翌朝。
移動は専ら魔導列車だ。しかも、私は初めて入る上級客室。
慣れてない私はソワソワしてしまって落ち着きがなかったかもしれない。
凄く豪華なのかと勝手に想像していたけれども、実際 中は落ち着いた雰囲気で然程広くもなかった。
勿論、備品は洗練されたデザインが施された物がそろっておりクッションはふかふかだし、一般客室にはない特典が盛り沢山。
コウモリの客室乗務員が飲み物をサーブしに来てくれたり(毛が混入しないよう、体毛の生えてない従魔の特権なのだと自慢していた)、すぐ隣の車両にあるレストランでは元王宮料理人が手掛けたフルコースを頂いてしまった。
アシュリーと一緒に乗った初めての魔導列車では、お母さんがサンドウィッチを持たせてくれて食べたことを思い出して何だか懐かしかった。
誰かと一緒に実家に帰るのもなんだか不思議な気持ちだったが、アレンのご両親はたくさんお話ししてくださり、終始賑やかだ。
アメリア様が「そうだわ。娘になるのだし、お義母様って呼んでもらえないかしら。」と言ったのを皮切りに、「私も!お、お義父様…と。」と呼び方一つで盛り上がったり。
お義父様は「娘がいたら、"うちの娘はやらんっ!"って一度言ってみたかったなぁ」なんて陽気なことを仰って、お義母様に呆れられていたり。
本当に仲の良い、理想の夫婦である。
うちの親に関しては、この結婚に反対するわけがない、というより反対できるわけがないので、その辺は一切心配していない。
優しくて厳しくて美人で自慢の肝っ玉母ちゃんのオーレリナとアレンが会ってどんな会話をするのか、ちょっと照れ臭い気もするけど楽しみだ。
これで何の憂いも無し!と言いたいところだが、ひとつだけ物凄く気になる物がある。
それは、アレンが大事そうに抱えている荷物。
布にぐるぐるに巻かれて重たそうなそれは、比較的最近見たような気がするが、今回持っていく必要性はあまり感じられない。
「アレン、その荷物は…」
「あぁ、通信鏡だよ。伝えてなかったけれど、どうしても一緒に挨拶したいって言う家族がいるんだ。ユリカにもあとで紹介するね。」
「家族…?」
──あれ、アレンに兄弟とか他にいたかな?
自分のことをあまり話さない人だが、あんなに2人で話しているのに彼の家族を把握できていなかったことに少し驚いた。
まぁまだ婚約することになって日が経ってないし、私も聞こうとしなかったからそんなもんか、と この場はサラッと流した。
陽が一番高く昇る頃、実家近所の公園へと降り立った。
ここで良いなら初日に屋根の上に登る必要なんてなかったんじゃないかと少しムッとしたけれど、アレンとそのご両親を屋根に降ろされたらどうしようかと心配していたので助かった。
王都で小さいスペースにギュウギュウと建物が並んだ光景に見慣れたせいか、久々に見る我が家は大きかった。
もちろんベネクレクスト家と比べてしまったら、平民がたった3人で住んでるだけなので小さいだろう。
それでも田舎で土地は余ってるため広々とした作りだし、ご近所の奥様方とお茶してるところしか見たことないが、ちょっとした応接間だってある。
また私が小さい頃「家の中に階段があるお家に住みたい!」と駄々をこねたせいで、今は亡き父が知り合いの大工さんと共に頑張って2階部分を増築し、この辺では珍しい2階建てだ。
外には母オーレリナの趣味で、綺麗な庭と小さな畑もある。
家の前に着いて門扉に手を当て自分を認識させると、門は自動で開く。
そのまま皆を連れて行き玄関扉を開けると、タイミングよく母が奥から出てきた。
「ただいま!えっと、私の母です。お母さん、こちらはアレンのご両親と、彼がアレンだよ。」
「初めまして。ヘンドリク・ベネクレクストです。と、妻のアメリア。」
「初めまして。」
「アレン・ベネクレクストです。」
「オーレリナ・ウィンスレットと申します。遠路はるばるようこそいらっしゃいました。どうぞ、こちらへ。」
久々に会った母は、こんなの持ってたんだと思うような生地の良い、少し古そうなデザインだが非常に上品なドレスを着ていて驚いた。
私達は制服だから良いとして、アレンのご両親は素敵な訪問着だったから、母がいつものエプロンでも付けて出て来ないかと内心ヒヤヒヤしていたのは内緒だ。
それぞれ挨拶と握手を交わし、漂う和やかな雰囲気。
このまま立ち話する訳にもいかないので、早速応接間に移動する。
私は下がって一旦お茶セットとキッチンに用意してあるというお茶菓子を取りに向かった。
うちにはベネクレクスト家でメイドさんが押しているような配膳ワゴンはないので、大きめのお盆に魔法で沸かしたお湯を入れたティーポットと5人分のティーカップをのせる。
するとお菓子をのせるスペースがなくなってしまったので、仕方ないけど危ないし二往復するかと項垂れていると、後ろから声をかけられた。
「お姉ちゃん!おかえりなさい!」
「うわっ、ビックリした〜!ちょうど良かった。グレン、このお菓子持ってくれない?」
「応接間に持ってくの?ね、ビックリしたのはこっちだよ。婚約なんて一体どうしちゃったの?」
声をかけてきたのはグレンだった。
最後に会った時よりもまた身長が伸びて、顔も随分シュッとしてきている。
されたのは最もな質問だけど、私だって聞きたいくらいだ。
「まぁ色々あってね」なんてグレンには適当に言っておいて、応接間に向かう。
グレンもお母さんに言われたのか、ワイシャツにサスペンダーでズボンを吊っていつもよりもきちんとした格好をしている。
来年から同じソレイユ魔法学校に通うので、アレンに挨拶しておいた方が良いだろう。
そんな気楽な気持ちで応接間の扉をノックしようとした時。
聞こえたのは、母の声だった。
「この婚約、正直に言うとあまり承認したくありません。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます