第41話 おかえりとただいま ※


 私の誕生日から約1週間後。

 アレンは再び学校に来て授業を受けるようになった。


 恐らくこの前はリハビリと事務手続きや顔見せを兼ねての来校だったのだろう。


 登下校は教室までお付きの方が車椅子を持ってお迎えに来るようで、遠隔通信の鏡は撤去され、アレンの席は車椅子から移りやすいように1番前の廊下側の席、つまりアシュリーの席と交換された。

 ホームルームと講義室の軽い移動なら、車椅子を使わず支えてもらいながらなら歩けるほど、少しずつ、それでも確実に元気になっていた。

 1番酷い状態を見ているのは学校では私だけなので、クラスメイトの皆は彼の状態に驚き、その直後には心配して率先的に何でも手伝った。


 

 「無事に回復して良かった。」

 「アレン様、本当に心配致ししましたわ。」


 「心配させて申し訳ない。」


 「ご無理なさらないでくださいませ。」

 「そうだよ、まだ本調子ではないんだろう?」


 「無理しないようにするよ。ありがとう。」



 皆アレンの元に集まりそれぞれ思い思い声を掛けていると、どこからか「おかえりなさい」という声が聞こえてくる。

 無難に対応していた彼だったが、途端にこれまでにない程の笑顔で「ただいま」と返した。

 その笑顔を浴びてしまった令嬢達は顔を真っ赤に染め上げて石のように固まっていく。



 「やっぱり学校って楽しいね。」



 そんなアレンの言葉に思わず涙していた者もいたようだが、そのうちの1人がウィリアム殿下だったことは、アシュリーが後でこっそり教えてくれた。





 *



 

 それから完全に車椅子が不要になった頃、今後の相談ということもあり、頻繁にあの給湯室での密会が行われるようになった。

 なんだか以前に比べやたらと、また最近も回を重ねる毎に少しずつスキンシップが増えている気がする。

 年頃の男の子だし、何と言っても婚約者同士なのだから文句を言える筈はないのだが。



 ──なんて。一生懸命私を少しでも好きになろうと、幸せにしようと努力してくれてるんだろうし。それに彼になら…触れられて嬉しくない訳がない。



 今日も、アレンはユリカを後ろから抱き込む形で座っている。

 まだ完全に抱きしめられてるわけではなく、背中は少しだけ距離を保って。

 それを少し寂しく思えば、彼は時々私の肩口にあごを乗せてみたり、錆色の髪を触ってみたり。

 こんなひとつの椅子に無理矢理2人座る必要ないじゃないとか、話し合うなら向かいあってすればいいじゃないとか思うけど。

 くすぐったいしドキドキするからやめて欲しいのに、やめないで欲しかった。



 「それで今週末だけど、俺は何を着て行ったら良いだろうか?」


 「制服で十分よ。私も制服で行くわ。」


 「そうか。お義母さまへの手土産は、うちのパティシエお手製マカロンで大丈夫かな。」


 「えぇ、きっと喜ぶと思うわ。」


 「なら良かった。ユリカはお義母さま似?」

 

 「ふふ、どうかしら?小さい頃は似てなかったと思うけど、最近になって似てきたかもしれないわね。」


 「ならきっと美人なんだろうな。弟のグレン君に会うのも楽しみだ。」


 「ほ、褒めても何も出ないわよ?」



 だんだんと、気の置かないやり取りができるようになってきて。

 最初は他愛もない話をするようになるとは思ってなかったけれど、こんな事でも一歩一歩、これからを共に歩む準備を一緒にしているような気がして心地良い時間が流れていく。



 「こっち向いて」



 そう言われて振り返ると。


 ちゅっ


 一瞬の隙に唇を、奪われた。



 「隙あり」



 やってやったとでも言いたげな顔でニヤリと笑うので、軽く睨みつけてやる。

 もっと濃厚なのをしたことがあっても、いつだってキスは恥ずかしい。



 「もうっ」


 「なに、事前に"するよ"って言って欲しかった?」


 「そ、そんなこと言ってないわ。」


 「まぁ今後は毎日するんだから早く慣れてもらわないと、」


 「ま、毎日?!」


 「うん。できればキスだけでも毎日が良い。」


 「定期的にって言ってたじゃない!」


 「毎日も、定期的という言葉の括りに入ると思うけどな。」


 「屁理屈。」


 「そう言われても、極力ユリカに触れていないと俺がダメなんだ。」



 あぁ、そういえば意味が分からないけど彼は私の汗やら唾液が必要なんだった、と今更思い出す。

 やっぱり完全に呪いの効力が無くなってるか分からないから、不安なのだろうか。



 「…学生の間は難しいわ。」



 ぎゅっ、と。

 背中に感じていた隙間がなくなって、お腹にしっかりと腕が回される。



 「卒業まで公表しない約束は守る。だからせめて、こうして隠れて…最低でも週1回以上は君を補充させて欲しい。それとも、俺に触れられるのは嫌か?」


 「まぁ、それなら。…別に嫌じゃないわ。」



 ぶっきらぼうな言い方にするつもりはなかったのに、一度彼が自分を好きでやってる訳ではないと再認識してしまうと、思わず態度に出てしまっていた。

 補充って、私はエネルギー源かパワーストーン的なアイテムか何かだろうか。



 「ありがとう」



 アレンはそう言って私を抱え直すと、手が少し上の柔らかい双丘に軽く触れる。

 それとほぼ同時に、横から覗き込むように首筋にキスをひとつ、落としてきた。



 「ひゃっ、」


 「ユリカも、早く俺を欲しくなって?」



 びっくりして、彼の頭を少し離すように押さえつける。

 なにこの甘々な状況…!とドギマギしつつ、彼を見やるとチラッと視界に明るい色が写った。

 あら…白髪かな?と思いそのまま押さえつけていた手で髪の根元を掻き分けていく。



 「ねぇ、アレン。根元の方の毛が白…いや、金っぽく見えるわ。色が抜けてるのかしら?」


 「えっ、ほんとに?」



 前世では元々黒髪の人が脱色して金髪にしたあと髪が伸びてきて根元が黒くなっているのを、その色合いからプリンと呼んでいたけれど、いわば逆プリンになりそうだ。


 私が抵抗しないのをいいことにアレンの片手はやわやわと下乳の感触を楽しみ始めつつも、反対の手で髪の毛を引っ張り一生懸命根元を見ようとする。

 「金髪…?元の色か?」とか何とか呟いていたが、しばらくしてどう頑張っても見えないため諦めたのか私の胸に手が戻ってきた。

 そして「教えてくれてありがとう」と実家で検診ついでに医師に診てもらうなどと言って、そのまま揉み続けた。


 私はアレンもやっぱり男の子なんだなぁ、と手の動きを指摘するのを諦めたのだった。







<後書き>

ドキドキ?!キリアン兄様のイチャイチャ講座⭐︎


キ:「アレン、婚約公表しないことにしたんだって?」

ア:「彼女が嫌がっていたので。」

キ:「あ〜ぁ、そしたら堂々とイチャイチャできなくなるな、残念でした。」

ア:「いっ、イチャイチャ?!」

キ:「当たり前だろう?っておいおい、そこからなのか?」

ア:「………。(ボンっ)」

キ:「顔赤くしちゃって…仕方ないか、このキリアン兄様お薦めの本を貸そう。女性を喜ばせつつ、少しずつ攻めるのがポイントで、」

ア:「(ごくんっ)キリアン兄様…‼︎」


こうしてキリアンにおピンクな知識を学んで、実践に挑んでいたのでした。

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