第30話 異変


 ここで過ごす3回目の秋になった。

 学年が変わっても、相変わらずホームルームは変わらないので朝一の顔触れは同じ。


 勿論、いくつか変わったことがある。



 まず、授業が始まると皆一斉に部屋を出ていく。

 向かう先は2パターン。

 入学式で説明があった通り、私たちは2年生の最後にそれぞれ文系理系を選んだ事によりカリキュラムが異なるためだ。


 ちなみに私は理系選択にした。

 元々理系出身だし、前世の知識が使えるのでちょっとチートできる。それに医療の道に進むには理系選択が必須である。

 ただ残念ながら、アシュリーは文系を選択し分かれてしまった。

 というのも基本的に貴族の女性は嫁いだ先で家計の管理などを任されることが多いため、それらを学べる文系選択をするのがほとんどだそうだ。

 特にアシュリーは昨年私と一緒にブラジャー作りに関わったことで、服飾や経営にとても興味が湧いたのだとか。



 もう一つ、寮部屋の先輩達が引越しして空いたスペースに新1年生がきた。

 黒髪ロングのおっとり恥ずかしがり屋なマリオンちゃんと、スイートピンク髪で可愛い見た目に反して勝ち気の強いアスカちゃん。

 いつもモジモジしてるマリオンちゃんをアスカちゃんがリードしていて、仲も良さそうなので良いコンビに見える。

 ふたりを見てると、私とアシュリーは周りからどんな風に思われてるのだろうなんて考えたりして。

 そんな事を考えながらチラッとアシュリーを見ると、目が合って嬉しそうに微笑んでくれて可愛過ぎる。

 正直、周りにどう思われていようが関係ないのだ。私はどんな時だって前を向いて自分らしく歩けだけ。



 そして、私は非常に忙しい毎日を送っていた。

 麻薬を扱う人間は資格を有したものとすると決めたため、初の国家試験の総括を任されたのだ。

 まず生体学・薬学・法律・倫理などの専門家を招き、それぞれが麻薬を取り扱う上で必要な知識をまとめて専門書を作ってもらう。

 その中から必須問題、基礎問題、応用問題の3つに分けて問題を作成してもらい、その問題をバランスよく選んで相応しい難易度に修正するといったことをしなければならない。


 専門家がド平民の私なんかに監督されるなんて絶対嫌だろうに…と初の会議に行ってみれば、予想外にとても歓迎ムードであった。

 皆国王のため、国のために僅かな希望にも縋りたいようだ。

 そんな期待を背負って成功しなかったらどうしようという不安もあったが、成功させるためにも何度も会議を重ねていった。










 最近私はモヤモヤしている。


 アレンとの給湯室でのア・レ・が全くなくなったのだ。

 以前あまり痛みの軽減する割合が少なくなったと言われたのもあるが、単純に私が忙し過ぎて時間が合わないのに加え────アレンが学校を休むようになったのだ。


 1,2年生の頃は、1日だって休まず皆勤賞を貰っていた。

 たしかアレンも理系選択だったはずだが、ホームルーム以外では席は近くないのでその分話す機会も減る。


 しかし別に仲が悪くなった訳ではない…と思う。

 特に最近、同じ教室にいる時は話はせずともめちゃくちゃ目が合っているのだ。

 アレンのことが気になって見てみれば目が合い、特にアレンを見るつもりがなくても見た方向に彼がいれば目が合っていた。

 だが目が合っても微笑むとかは一切なく、フイッとすぐ目をそむけられるのだ。



 ──私、彼に何かしちゃった?


 

 もしかして人間関係上手くいかなくて学校に来るのが辛いとか?

 いやいや、アレンに限ってそんなことはない。…たぶん。

 いつも誰かに囲まれているし、そもそも幼馴染で心から信頼し合っているというウィリアム殿下がいるのだ。


 私から言いたいことでもあるのかと聞くのは何だか尋問みたいだし、例のア・レ・をしようと声を掛けるのも何だか変だ。

 休みがちな理由をいきなり聞けるほど仲が良いわけでもない。



 悪いことが起きなければ良いのだけど──。



 そして日に日に休む回数は増えていき、とうとう4年目の秋にはほとんど来なくなった。

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