第29話 寝衣パーティー


 「うぅっ、最後だなんて寂しいです…。サリィ先輩、ミント先輩、寝衣パーティー、してみませんか?」



 あっという間に2年目の夏が過ぎ、今日はこのメンバーで寮部屋を過ごす最後の日だ。



 「えぇ、やりましょう!本当この2年間あっという間だったわ。」


 「良いわね!それもこれもこんな良いメンバーだったからに違いないわ。3人とも本当にありがとう!ほらユリカったら、泣かないの!」


 「嬉しいです…!思い出、作りましょうね‼︎」



 4年生は明日になると1人部屋へ移動し、その翌日に従魔召喚の儀式を行う。

 寮生活は5年生からそれぞれ専門領域に進む且つ従魔を迎えるため、4人部屋から1人部屋へグレードアップするのだ。


 前世では寮生活の経験がなかったので、一度で良いからこういう事をしてみたかったのだ。


 それぞれ夜更かしを前提にやらねばならない事を夕方のうちに終えておく。

 私は飲み物の調達に、アシュリーは実家から沢山のお菓子を調達してきてくれた。

 話を聞くとやはりと言うべきか、寝衣パーティーなど誰もしたことがなかった。軽く説明すると、私が自由にセッティングして良いことになったので勝手にやることにする。


 まぁパーティーとは言うが、要は女子会である。


 いつもは部屋の端に寄せてあるテーブルにお菓子や飲み物を並べ、ベットに座ったまま飲み食いお喋りできるよう家具も動かした。

 夕飯は控えめにし、それぞれお風呂から出て着替えたら枕を抱きしめ準備オッケー。





 アシュリーのお家のお菓子はどれも本当に美味しかった。

 お喋りしながら食べると伝えたのが功を奏したのか、全てつまみやすいよう小さめに作られていたり、小さめのカップに入っていた。

 形も動物や花をモチーフに作られていて可愛いらしい。

 夕食後、夜遅くにお菓子を食べるという罪悪感に苛まれるが、それでも食べ易く工夫されたお菓子につい手が伸びてしまう。


 そして、何と言っても皆の可愛い寝衣姿が見られて素晴らしい。

 思うままボタンやフリルが可愛く似合ってると伝えれば、頬を染めて喜ぶ姿は更に愛らしく最高である。



 「ところで、おふたりは最終的に専門領域は何を選んだのですか?」


 「私はいつも言ってたとおり騎士コースよ。昔から魔法騎士になるのが夢だったの!おかげで2人のようなメリハリのある身体とは程遠いけどね、残念だわ。」


 「本当、1番の成長期にブラジャーに出会っていたかったよね。私はすごく悩んだけど、司法コースにしたわ。資格を取れるもので興味があるものっていうと司法かなって。お父様の勧めもあるかしらね。」



 サリィ先輩は騎士コース、ミント先輩は司法コースに進むらしい。

 サリィ先輩は引き締まったスレンダーな身体に素敵な金髪をいつもなびかせて、騎士服なんて着たら格好良すぎて鼻血が出そうだ。風魔法が得意だそうで、従魔も空中飛行系が良いと話していた。

 ミント先輩はいつも本を読んでおり博識で、慌てず落ち着いて物事を判断し捉えるタイプだ。外国の本まで読む人だから、あらゆる方面から柔軟に考えることができる。司法コースからは色々な職業に就くことができるけど、ミント先輩なら最適な結果へとことを運べるだろう。



 「ねぇ、ところで今更なんだけど、みんな恋人や好きな人はいるの?」



 そう、ニヤニヤしながら聞くのはミント先輩。

 やっぱり女子が集まってトークと言ったら恋バナだ。



 「私はこれから騎士コースで素敵な男性と出会います!」


 「ふふふ、何それ抱負なの?」


 「全く失礼ね!アシュリーは?」


 「私の婚姻は家が決めますので、誰と結婚しても良いよう皆平等に好きですわ。」



 さらっと笑顔でアシュリーが言うが、恐らく"皆平等に好き(になる努力をしている)"と言った方が正しい気がする。

 そんな悲しい現実でも、すかさずミント先輩は切り込んでいくので波に乗ってみる。



 「それでも、憧れる方くらいいるでしょう?」


 「ほら、ウィリアム殿下と仲良いじゃない。」


 「「へぇ〜 (ニヤニヤ)」」


 「そ、それは…たまたま席が隣で話す機会が多いだけで。殿下は全ての女性に平等に接してます…その、そこも素敵だとは思いますけれど。」



 語尾にいくにつれて段々声が小さくなって顔が赤くなるアシュリーが可愛いすぎた。


 殿下は…国内ならアシュリーが有力候補ではあるけど、他国の王女様と結婚する可能性の方が高い。

 それゆえに殿下自身も特定の相手を作らないように振る舞っているところはある。


 応援したくともし難い、皆の憧れの相手。



 「へぇ〜、アシュリーって…ふふ。本当殿下は皆の憧れって感じよね。とても素敵。」


 「もうっ!そういうユリカはベネクレクスト君でしょう?」


 「「ほぅ〜 (ニヤニヤ) 」」


 「えっ?!いや、私は平民だしそんなおこがましい…」


 「あまり教室で喋ってるのは見かけないけど、私知ってるのよ、皆は家名呼びの2人がお互い名前で呼び合ってること。」


 「キャー!もうそれって…!」

 「キャー!どうしてそうなったの??」



 しまった。火の粉がこっちに降りかかってきた。

 完全に3人の目がキラキラしている。


 

 「その、隣の席だしパッと話したい時に家名は長いし言いにくいからって言われて…。でも取り巻きのお嬢様方に絡まれて面倒だから家名に戻したら悲しい顔されて仕方なく…」


 「でもユリカ以外の女性に名前呼び許してないでしょう?」


 「「まぁ!(ニヤニヤ)」」


 ──もう逃げられそうにないか。


 「じゃあ正直に言いますけど、好き"でした"よ。でも不毛な恋はしたくないから、諦めたんです。」



 やったか?!と思ったのも束の間。

 さらに乙女達のハートに火がついて、その後も根掘り葉掘り聞かれ…最終的に身分違いでも恋するのには関係ないと、今も好きであると認めさせられた。


 こうして寝衣パーティーとしては成功をおさめたものの、すっかりターゲットにされ疲れ切って熟睡したユリカだった。

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