第18話 ガールズデート①


 「ねぇ、ユリカは何を買うつもりなの?」



 今日はアシュリーと共に、街へ向かって馬車に揺られていた。

 普段ひとりでアルバイトなどで街に来る時は、学校の敷地内にある馬車乗り場から乗り合い馬車に乗る。しかし流石は貴族のアシュリーである、実家から専用の可愛いらしい馬車を用意されていて、校門まで御者さんが迎えに来てくださったので有難く乗らせて頂いた。

 そして王都の街は治安が良くあまり心配はないのだが、私達の買い物中さり気なく護衛が付いてきているらしい。普段校内で貴族と平民の区別はしないようにされているため少し忘れていたが、一歩外に出て再認識することとなった。



 「便箋を買おうと思って。最近実家に手紙書いてなかったから、残り少ないことに気付かなかったの。」



 アシュリーに隠し事をするのは心苦しい気もするが、嘘は言ってない。



 「ご実家にお手紙書くのね!お話には聞いてるけど、ぜひ一度ユリカのお母様にお会いしてみたいわ。きっと素敵な方なのでしょうね。」


 「そうね!正直に言って、自慢の母だわ。」



 アシュリーを平民の私の実家に招くわけにはいかないから、いつか母を王都に呼んだ時に機会が作れるだろうか。いつか必ず母に親友のアシュリーを紹介したいと思う。



 「ふふ。それに昨年は休暇全部実家に帰っていたから誘うことができなかったけれど、絶対今度の休みは予定合わせて一緒に別荘に行きましょう。お母様がユリカに会いたいとおっしゃっていたし、ぜひ見せたい宝物があるの!」


 「私なんかがお邪魔していいの?ぜひ行かせて欲しいわ!」


 「もちろん、良いに決まってるじゃない!」



 アシュリーとの出会いに感謝を。相変わらず笑顔がまぶしい。親友ポジション役得である。

 そもそも今日のアシュリーは可愛いすぎる。いや勿論いつも最高に可愛いのだが、違うのだ。今日は制服ではなくて私服なのだ。

 一応町娘スタイルらしいのだが、溢れ出る気品と普段学校で付けることのできないヘアアクセサリーなどでより一層可愛い。真面目に町娘になりきれていると思っているアシュリーには悪いが、貴族のお忍び感満載でなんだか悪いことをしている気分だ。ちなみに聖域であるニーハイ絶対領域は今日も健在だ。これでは治安が良いとはいえ、実家から護衛が付けられてる意味がよく分かる。



 そうこうしているうちに目的のカンテラ文房具店に着いた。

 お店の外観は街並みに馴染むよう作られているが、柱や屋根に色んな文房具がモチーフの装飾がされていて面白い。

 お店の中に入ると、壁に商品が美しくレイアウトされていて思わずどれも欲しくなってしまう。それにしても流石は王都の中心街にある文房具屋だ、品揃えが凄い。



 「ユリカ見て!このガラスペンとっても可愛いわ!」



 はしゃいでいるアシュリーも可愛い。その手に握られているペンは、持ち手のガラス部分の意匠が素晴らしい。持ちやすさに影響がないよう精巧に作られたガラス細工は、様々な動物の形をしているようだ。私も側に行ってひとつ手に取ってみると、どれも動物の表情が少しずつ異なっている。可愛いなと思いながら眺めていると…なんだか違和感を感じる。



 ──え!この子達動いてるわ!



 どうやら魔法がかかっているようで、恥ずかしそうにモジモジしている。買って欲しそうにアピールしている子もいれば、寝ちゃっている子まで。テスト中には使えなさそうだが常に持ち歩きたくなってしまいそうだ。


 その後もアシュリーと共に様々な文房具を見て回る。普通の筆記用具はもちろん、合言葉を唱えると読めるようになるインクや飛んでるペンスタンド、喋るスタンプにいくらでも入るペンケース等いくらでも見ていられそうだ。

 店の奥の方へ行くと、目的だった便箋コーナーがあった。

 グレゴール先生に教えて貰った通りに、暖色系の淡い色のものを探す。このコーナーは端から色ごとに綺麗に並べてあって、すぐに欲しいものを見つけることができた。目についた、シンプルながらもお洒落な幾何学模様が入っている杏子色の便箋とそのセットの封筒だ。

 キリアンから貰ったような金の装飾ほど豪華ではないが、これなら引けを取らずみすぼらしくはないだろう。


 ふと横に目をやると、封蝋コーナーがあって思わずひき寄せらてしまった。

 自分が持っているシーリングワックスは単色だけだが、ここには数色マーブルに金粉や偏光ラメのようなものが混ぜられていて、見本にあるのシーリングスタンプはまるで海に映る夕陽のように美しい。しかも、どうやらこのワックスを使って封蝋し呪文を唱えると、送り相手本人しか封を開けられなくなるのだという。普通のものより少し値は張るが、手に届かない金額ではない。ユリカは食い入るように見つめている自分に気づいて、新しく買おうとして手に持っている便箋と交互にワックスを見た。



 ──新しい便箋に合う色を持ってなかった気がするし…それに、買わずに後悔する方が勿体ないわ!



 予定にはない買い物だが、自分の欲求を大切にする方を選んだ。ユリカは母がよく言っていたことを思い出す。

 『値段が安いというのを理由に買うか悩むのなら買うのをやめなさい、でも欲しいのに値段が高いというのを理由に買うのを悩むなら思い切って買いなさい。お母さんの人生を豊かにする持論よ。』

 ホクホクと満足した気持ちで新しいレターセットとシーリングワックスを手に、いつの間にか分かれて見て回っていたアシュリーを探す。

 店内を見回すと、小柄ながらもすぐにきれいな銀色の髪の毛を発見できた。



 ──ふふっ。アシュリーったら。



 アシュリーは一通り見回ったあと、最初に見ていた細工の素敵なガラスペンに目を釘付けにしている様子だった。

 よく見ると既にピンク色のハリネズミのペンを手に握っていて、もう一つをどれにするか迷っているようだ。

 近くに寄ると私に気付いたアシュリーは、私の手に持っていたものを見て決心したようにオレンジ色のイルカのペンを手に取った。



 「これどうかな?…あのね、他のクラスの子がね、仲良しでお揃いのものを持ってるって話を聞いたの。その、もし良かったらユリカとお揃いにしたいんだけど、使ってくれる?」



 本気でアシュリーが可愛すぎて鼻血が出る3秒前を耐え抜いて、なんとか笑顔で「もちろんよ、嬉しいわ。」と返事が出来た。お会計をしようとしたら、私の分のガラスペンもアシュリーが払うと言い切られ結局プレゼントされてしまい、次は絶対私が何かプレゼントして喜ばせたいと思うユリカだった。

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