第11話 糸口
無事に守衛室から鍵を手に入れ、隠していた灯りを持って禁書庫への侵入に成功した。
持ってきたマッチで灯りを点けたら、火事にならないようにそっと手で火を消しランプの蓋を閉める。
夏とはいえ夜に全裸は寒い。ふと入り口横の机を見ると、どうやら受付台のようで膝掛けが置いてあった。綺麗に畳んで返すことを心の中で誓ってそっと膝掛けを拝借し羽織る。
そして物音を立てないよう周囲を警戒しつつも目的のものを探し…見つけた。
呪術のかけ方。呪いにかけられた者の日記。呪いの本質。嫌なタイトルの本が並ぶ中、順番にパラパラと読んでいくと一冊だけ呪いに関係なさそうな本に辿り着く。
パルモティア王家の記録。ほとんどは王家の者が毒を盛られた時のため、ある程度慣らして耐性をつけるといった内容の記録に関する本だった。最近は魔法が進化して毒を完全に検知できるようになったため慣らす必要がなくなったようで、背表紙の革も随分と古い。王家の公にしづらい歴史みたいなものだろうか。なぜ呪い関連の棚に置いてあったのか疑問に思ったものの、読み進めていく。
──え、これだ。この呪斑っていうのがアレンの首のアザに凄く似てる…。
本によると、王家では身体の一部にすぐには消えないアザのようなものを持った状態で子供が産まれると書いてある。
通常は痛みも特になく成長とともに薄れていき、やがて消えるようだ。蒙古斑のようなものだろうか。
しかしながら、時々強い魔力を持って産まれた子のアザは痛みを伴い成長とともに濃く大きくなり、16歳になる時全身を飲み込まれ…死に至る。
歴史上様々な治療方法を試してきたが、それ以上長生きした例はない、と。
──アレンのアザがこれなら、あと4年?いやもう3年?彼は名前からして王家の直系ではないみたいだけど、常に王子と一緒にいるし血縁関係はあるのかもしれないわ。
本にはアザに対してなす術はないとあるけど、じゃあ今までのア・レ・は何だったのか。最近効き目が悪くなってきたみたいだが、少しは効果があったではないか。
それに以前知らなかったとはいえ、アレンができないかもしれない4年生最後の召喚の儀の話をしてしまった。
このアザが呪いによって引き起こされているのであれば、呪いの原因を調べれば分かるかもしれない。前世でいう怨念を晴らせば報われて浄化される、的な。
──まずは歴史を調べてみて…って言っても、とにかく時間がない。それにここまでなら今まで気付いた人だっているはず。そしたらもう、動くしかない。
「本人に直接聞いてみよう…。」
*
禁書庫に侵入してからすぐ、アレンと話す機会を設けようと思ったのだが無理だった。
元々いつも上手いタイミングで誘ってくれてたのは向こうだったし、休み時間には恋する乙女達の壁があり話しかけられなかった。
そして、気付いたらあっという間に夏休みに入ってしまったのだ。
休み中彼は実家に帰ってしまうらしく、新学年になるまで聞くのを完全に諦めた。
私は寮に残ることにしたが、休みの間は薬屋のアルバイトに加えて児童保護施設(日中は普通の子も遊びに来る)でお手伝いをすることになっており少し忙しい。
そして今はまさに子守り中である。
「ねーちゃん戦おうぜ!」
「お姉ちゃん!絵本読んで?お願い!」
なんとも子供達は自由だ。ひとりに構い過ぎると猛反発が起こるし、油断していれば舐められる。
暴れる男児達にはあとで擽り攻撃をして懲らしめつつ構うとして、まぁ絵本なら複数相手にできるし良いかと思い女の子の持ってきた本を受け取って…雷が落ちたような気分になった。
「お姉ちゃんどうしたの?」
──なんで気付かなかったんだろう。違うかもしれないけど、呪いの話を既にひとつ知ってるじゃない。
古くから読まれている慣れ親しんだ絵本。いつだってお伽話はただのフィクションとは限らず、風刺や歴史を含んでいることが多い。
『昔々、あるところに。勇者となった青年が魔王と戦う中で"呪い"をかけられるも打ち勝ち、姫と結ばれて"国王"になる物語。』
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