第10話 侵入計画
それからというものの、(私だけかもしれないが)アレンとの関係がだいぶさっぱりしたものになった。
勝手に失恋して少し落ち込んだものの前世の記憶もあり早く吹っ切れたせいか、今までのアレンに対する妙な緊張感やドキドキ感は大分落ち着いた。もちろんアレンは素敵だしひっそり想うことに変わりはないのだけれど、言うなれば偶像アイドル的な感覚である。
ただ、最近ひとつ問題が発生し始めた。
その後の定例会で、アレンからこんな発言があったのだ。
『ユリカ、何か以前とやり方変えた?痛みが前ほど引かなくて。気のせいだったらいいんだけど…もしかして僕のアザの方が悪化してるのかな、それだと参ったな。』
その時も、いつも通りアレンの首に手を添えてるだけだった。元々何をしてる訳でもなく、文字通りただ触れているだけ。
──う〜ん。接触だけが条件だと思ってたけど、気持ちが関与したりなんてするのかな?実は今まで何か念を込めながら触れてたとか?
「暗くなってきてるのに灯りも点けずに…何か悩みごとかい?」
「わ、ゾレナさん!ごめんなさい、仕事中に考え事してしまって。集中してやります!」
しまった。今はアルバイト中だった。
今日はゾレナさんが出かけると言っていたのでカウンターに座って店番していたのだが、あっという間に時間が過ぎていつのまにか帰ってきていたらしい。
「いいのよ、どうせお客もほとんど来ていないのだし。それよりせっかくだしお話しましょう。考え事って、どうかしたの?」
「大したことではないんですけど…お言葉に甘えて。調べたいことがあるのですが、その系統の文献が図書室には置いてなくて。でも学校の図書室はこの国でも有数の蔵書数を誇るって聞いたものですから、他に当てがなくなってしまったんです。」
ヘイドレア先生からこれ以上首を突っ込むなと注意を受けたもののどうしても気になり、個人的に図書室にあったアザに関連しそうな本を全て読んでみた。
一応ゾレナさんに話したことは先生からお咎めはなかったが、今後誰にでもアザについて具体的に話すのはやめておくことにしている。
「そうねぇ、一体どんな系統の本を探しているのかは知らないけど…エッチな本は学校にはないわよ?」
「そんな本は探してません‼︎」
とんだ爆弾発言である。可愛いらしい見た目のゾレナさんがそんなことを言うのにも驚きだが。
とはいえ以前サークルでアシュリーのお兄ちゃんであるジークハルト先輩に言われた、『もしかしてそのアザ、呪いだったりして。』という言葉が頭から離れないので呪いに関する本を探したいのだ。しかしながら呪いについて調べたいとも言い難い。
「ふふ、冗談よ。まぁあまりお勧めはしないけど、もしかしたら禁書庫にならあるかもしれないわね。」
「禁書庫?そんなのが学校にあるんですか?」
「えぇ、内緒よ?それに簡単には入れないわ。よく魔法探知に引っかかって怒られた生徒の話を聞くわねぇ。」
「そうですよね…。」
「私は若い頃何度か忍び込んだことがあるけどね。」
ゾレナさんは可愛くウィンクしながら平然と言う。
この人意外と派手な思考の持ち主なのかもしれないと思わざるを得ない。
「えーっと、ちなみにどうやったんですか?」
「魔法はダメでも、薬ならバレないこともあるのよ?これだから魔法ばかりに頼ってる連中は困るわよねぇ。」
なるほど?と不安に思っていると、ゾレナさんはゴソゴソと棚の中から黒い粉を出してきた。
「これを水又はお湯に溶かして飲むと、あら不思議。半日ほど身体が透明に!不味いけど効果は保証するわ。私のお手製だし、実証済みよ。あぁ、服は脱いでからお使いなさいね。」
あとになって「もちろん男性に渡したことはないわよ?不埒な使い方されたら困るもの。」と付け加えられても反応に困るばかりである。
ちなみに怖かったが気になって材料を聞いてみると、カメレオンの尻尾など擬態が得意そうな動物や植物で少し安心したのは内緒である。
*
透明薬を貰って数日後、ユリカは色々準備を整えて禁書庫に向かった。
禁書庫の位置は、調べてみると簡単に見つかった。図書室の真上、入学式で貰った学校の見取り図では倉庫になっていたが、守衛室が隣にあって入りづらく魔法探知に引っ掛かればすぐに駆けつけられそうだった。
案の定、下見で前の廊下を通っただけで守衛さんに声をかけられ、軽くあしらいつつ扉を見ると鍵がかかっていた。
──狙い目は夜かしら。鍵は守衛室に置いてあると見て、灯りも探知されないように魔法以外で考えないと。
ルームメイトにはバレずに部屋を抜け出してこれた。
あとは半日という時間制限の中、目的のことを調べ上げるかである。
ユリカ12歳の夏。はじめての侵入計画を実行した。
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