第7話 アルバイト
学校にも少し慣れてきた頃、ユリカは働く場所をさがしていた。
学費は奨学金でなんとかなってるけど、母はひとりで子供2人育ててくれた上に長女の私を学校にも通わせてくれた。更に返さなくて良いと言われたものの、やはり最初に支度金として渡されたお金以上の金額を返さないといけない気がする。
──どこで働こうかなぁ。飲食系?裏方系?物販系?ファッション系?宿の受付とかも色んな国や人の話が聞けて楽しそうだし…あとは…
今日は週末。寮に臨時外出届を出して、お店の看板を眺めながらひとり街を歩く。
街は前世でいうヨーロッパの街並みで、外観に関する法律でもあるのかどこも見た目に統一感があって綺麗だ。
ふと、目に入ったのは薬研と葉っぱのマークの看板。治癒魔法があるせいで薬の研究が進んでいないのか、薬研だなんてレトロでオシャレだ。
お店には募集のチラシやポスターが貼られていなかったが、気になり過ぎて素通りもできず目的とは異なるが思い切って店内に入ってみることにした。
中は、まさに古い薬局といった作りだった。入ってすぐの所には既に調剤済みの既製品の薬が効能ごとに並べられている。進むと木で出来たカウンターがあり、裏には薬棚で壁一面埋まっていて更に奥には作業台と大きな鍋の様なものが見えた。
まるで映画のセットみたいで思わずテンションが上がってしまう。それもこれも母親が治癒魔法も得意だったため、今まで薬屋に来たことがなかったのだ。
声をかけても誰も出てこないので興味津々に店内を見ていると、しばらくして中から可愛いらしいおばあちゃんが出てきた。
「あら?お嬢さんが来てたのね、ごめんなさいね気付けなくて。ちょっと耳が遠くなってきたもんだから…嫌になっちゃうわ。何か興味の惹かれるものはあったかい?」
「勝手に見てすみません。えぇ、どれも素敵です!あの、もしかして全て貴女が手作業で薬を作って販売しているのですか?」
「そうねぇ、昔は全部自分で作っていたけど今は簡単な調合くらいしかしてないかしら。出来なくなってきたことは、時々来る息子にやってもらってるのよ。」
なるほど。それでも結局ここにある薬は手作りということになる。
前世では院内製剤といって病院内で作る薬や、漢方に力を入れている所では煮出して飲む用の生薬を調合することはあるが、原材料は工場で作られた既製品を使うのが通常だ。
このお店の奥の作業場の天井にはいくつも薬草が干してあり、薬草から成分を抽出するところからやっている様だ。
「そうなんですね!凄いです!」
「ふふ、貴女とても薬に興味を持ってくれるのね、嬉しいわ。…ねぇ、ところで貴女は学生さん?」
「えぇ、紹介が遅れてしまいすみません。今年ソレイユ魔法学校に入学した、1年生のユリカ・ウィンスレットと申します。」
「あら可愛らしいフレッシュマンね。私はゾレナ・クローウェルよ。貴女みたいな薬に興味を持ってくれる娘が孫が欲しかったわ…。ウチの子達は皆他のことに夢中みたいで、廃れつつある薬になんて見向きもしないのよねぇ。」
「その、わたし今、放課後や休みの日に働ける場所を探していて!こんなところで勉強しながら働けたら素晴らしいなって思って…!人手が欲しいなんてことありませんか?!」
おばあちゃんは私の勢いに驚いた顔をした後、笑顔になると軽くパンッと手を叩いた。
「ちょうど、貴女みたいな人が働いてくれたらなって考えていたところなのよ。私も体力的に毎日店番出来ないし、息子がいない時に外出する時はお店閉めちゃってたの。週に2,3回、休日も時々でもお願いできるなら大助かりだわ。こちらこそ、ぜひお願いしたいわ。」
焦った勢いで変な言葉になってしまったが、ゾレナはむしろ喜んでくれたようだ。
「嬉しい!よろしくお願いします!ゾレナさん!」
「よろしくね、ユリカさん。」
その後は働くのに必要な契約書類の作成を行い、無事ユリカの働き先は決まったのだった。
「何か急を要する連絡があったら、この子が貴女の部屋まで伝えに行くわ。逆に伝えたいことがあったら、この子を呼んで伝言か手紙を持たせてね。」
そう言ってゾレナが掌を上にして広げると、ポンッと魔法でドングリを出した。
──え、ドングリ?
「エクトス、いらっしゃい。」
「はいママ。」
突然、時空が歪んでできた隙間から尻尾の大きな栗鼠が現れた。ビデオテープを早送りをした時のような甲高い声で少し早口に返事をしている。
「紹介するわね。この子は私の使い魔 エクトスちゃんよ。エクトスはもう分かってるかしら、このユリカさんにこれからここで働いてもらうことにしたわ。」
「存じてますわママ。私はエクトス。女の子同士仲良くしましょ。」
──使い魔…!良いなぁ。女の子って感じで可愛い子!
「よろしくお願いします!エクトスさん!」
使い魔は、魔法をある程度勉強した上で召喚の儀を行い契約を結ぶことで初めて得られる。
ユリカが通うのは魔法に特化した魔法学校であるため、4年生の最後の授業で召喚の儀を行うことが決まっている。
それでも1年生で使い魔に触れられることは、そう無いため興奮が止まらないユリカだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます