第4話 クラブ活動
各ホームクラスでオリエンテーションの後アシュリーと共に廊下を歩いてると、次々とチラシを配られクラブの新入生勧誘合戦が始まっていた。
「君たち1年生?ブラスバンドに興味ない?」
「お願い!チラシだけでも貰って〜!そして魔球部に入って〜!」
「ねぇ貴方たちフットボール部のマネージャーやらない?」
クラブ活動への参加はもちろん強制ではない。この国では12歳から街で働いてお給金を貰えるようになる、つまりアルバイトができる為、クラブに入らずに放課後小銭稼ぎに出る生徒も多い。
基本的に寮内で事足りるのと、この学校に来る生徒はお金に裕福であることが多いので家からの援助があるのだが、私の実家はそこまで裕福ではないので多少は働く必要がある。
──本当はブラスバンドとかやってみたいけど、お金稼がないとなぁ…
「ユリカは何かクラブに入るの?」
「うーん…できればアルバイトしたいから、毎日放課後が潰れるクラブは入れないかも。」
そう言って、ふと目線を外に逸らすと一つのチラシが目に入る。
「…薬草…研究会?」
「どうしたの? あら、薬草なんて素敵ね。私あまり運動は得意ではないから、見てみたいわ。」
この世界には治癒魔法があるので、薬草はあまり用いられない。軽い怪我であれば治癒魔法適正者が近くにいれば身近で、大きなものになると神殿に行ってより高位な治癒魔法をつかってもらう。薬草はあるにはあるが、大切な時に風邪をひかないための予防投与程度に使うくらいである。
私は前世で薬剤師をしていたこともあり薬草についてはとても興味がある。
アシュリーも興味を示したので、見学だけならと2人で行ってみることにした。
チラシに示された薬草園に向かうと、大きくてとても素敵な温室のような建物が見えた。他に人がいそうに見えなかったので恐る恐る入ってみる。
「あの〜、どなたかいませんか?見学したいのですが…」
「あら、もしかして新入生さん?あらあら、サロンへようこそ!えーっと、さっきまで部長もいたんだけど…そうね、とりあえず座って一緒にお茶しましょうか!そうしましょう!」
中に入ると、猫っ毛が今にも絡まりそうな明るい茶髪に糸目を更に細めて微笑む女性が出迎えてくれた。サロンとは何だろうか、入るところを間違えたのだろうか、この人なんだか勢いが凄いと少々混乱しつつ、招かれるままにティーテーブルに座る。
「2人は薬草研究会に見学に来たのよね?私はリオーネよ。おふたりの名前を聞いても?」
「ユリカ・ウィンスレットです。」
「アシュレイ・リリアナ・シャインバルタです。」
「ユリカちゃんにアシュレイちゃんね、なんて可愛いお名前なの!そんな2人にちょうどいいわ、今日はね、ジャヌビエ草をつかったハーブティーなのよ!お砂糖を入れてなくても甘いの。ぜひ飲んでみて?」
慣れた手つきでティーカップ用意されてお茶が入れられていく。2人はよくわからないまま、おずおずとお茶を口にする。
「ッ、あっっっっまーい!何これ!」
「まるでお砂糖舌の上にのっているみたい。すごく甘くて…美味しい。」
「アシュレイちゃんは美味しいと思うのね!ユリカちゃんにはちょっと甘すぎたかしら?ふふ、実はこのハーブティーは賛否両論分かれるのよ。どう?世界にはこんな面白いハーブがあるのよ!ここでは定期的にハーブを使って色んな研究したり、夏にはコーチと一緒に山に登って珍しい薬草を探してまわる合宿もあって!ね?薬草研究会に入らない?」
ジャヌビエ草のハーブティーは、前世でいう甜茶に近いものだった。正直…私は苦手だった。一時期花粉症に効くとブームになったことがあったが、あまり好んで飲みたいとは思えない味だ。
衝撃的な味に悶えてると、アシュリーは笑顔でこっちを向いてきた。
「私、薬草研究会に入りたいわ!ユリカはどうする?」
「私も…興味はあるけど、クラブには入れないわ。アルバイトしないといけないもの。」
「あらあら、このクラブ所属者は殆どがクラブの掛け持ちやアルバイトをしてるわ。だって活動は基本週に1回しかないもの。実験をする時は2週間とか連続で活動するけど、それも来れる日来れる時間だけでも参加してくれれば十分よ!あ、合宿は2泊3日あるからそれはぜひ参加してね。」
なんと。私は活動が少ないクラブもあることを失念していた。これなら、週4〜5日働いても休みの日ができる。クラブに所属することによって普段関われない学年をまたいだ交流もできる。
そう、もう答えはひとつしかなかった。
「私も、薬草研究会に入ります!」
こうして、私の薬草ライフが始まった。
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