第3話 クラスメイト
教室は階段状になっており、人数に比べて広くゆとりがあった。
ちなみに座席は固定で、横並びに誕生日順。アシュリーと私はお互い秋生まれと冬生まれで、ちょうど1番廊下側の1列目と2列目で前後の席となった。
アシュリーの隣はサラサラ金髪に青い瞳の美少年、私の隣は黒髪癖毛に青い瞳のこれまた整った顔立ちの少年が座っている。
金髪の少年は、黒髪の少年のほうを向いて何か話しかけており、アシュリーも私に向かって笑顔で話しかけてくる。
「やったね!前後の席だよ〜!」
「アレン!席が近くて良かった、また宜しくな。」
目の前の席が神々し過ぎて、授業に集中できないかもしれないと思うユリカであった。
*
「皆さん揃ったようですね…コホン、それでは。私はここのホームクラス担任となるエフィエン・グレゴールです。基本的にこのクラスメイトは6年間一緒なので、秩序を保って仲良くするように。一生付き合える友人を作れると良い。まずは1人ずつ自己紹介していこうか。」
そうして、番号順に自己紹介がはじまった。
「はいじゃあ1番は俺ね!レン・フォルグラスチムです!ベースボールクラブに入るつもり!気軽にレン君♡フォル君♡って呼んでくれ!皆これからよろしくな!」
茶髪な癖毛の元気そうな男子を皮切りに、どんどん進んでいく。
金髪美少年の順番になると、教室が少しざわついた。
「私はウィリアム・ネスフ・パルモティアです。ぜひ仲良くしてください。よろしくお願いします。」
──あれ?聞いたことある…てかパルモティアってこの国の名前では?!
「殿下は今日も麗しいわ…」
「殿下と同じクラスになれたなんて一生誇れるぜ!」
後ろからひそひそと聞こえて来る話し声には"殿下"の単語が。というかよく見れば、持ち物にも所々に王家の紋章が刻まれている。彼はこの国の王子だった。むしろ何故今まで気付かなかったのか。自分が恨めしくなる。
「うわ、なんて女神なんだ…」
「あの子とお近づきになりたい…」
「声まで天使のようだ…」
今度は主に男子のざわつきが強くなったと思い見てみると、アシュリーが自己紹介を始めていた。
──うんうん、普通みんな同じ反応するよね…。
アシュリーの番が終わっても一部男子のざわつきは収まらぬまま、2列目の私とは反対側の端から自己紹介が続いていった。
「……ッ。」
突然漏れ聞こえた呻き声の方に向くと、隣の黒髪男が痛そうに首を押さえていた。
周りは自己紹介している方へ意識が集中していて、誰も彼の異変に気付く様子はない。
──え、首に黒いアザが…動いてる?
黒いモヤのようなアザが体の方から顔に向かって蠢いており、すごく辛そうな顔から思わず心配になる。せめて痛みだけでも取り除ければと思い、母に習った簡単なまじないに近いものだが"痛いの飛んでけ"と念を込めつつ手を伸ばす。
「ねぇ、大丈b…ェクシッ」
ところが、無性に鼻がムズムズして思わずくしゃみが出た。咄嗟に手で口を塞いだけど正直間に合わなかった気がする。しかも変に堪えた結果、変なくしゃみになってしまった。伸ばそうとした手も、行き場を失い宙に浮いている。恥ずかしい。
「…ちょっと。今何した?」
「ご、ごめんなさい!無性に鼻がムズムズして!ハンカチこれ使って!」
「いや…」
「次!」
先生の声に驚くと、もう自己紹介の順番が回ってきていた。とりあえずハンカチを相手に押し付ける形だとしても受け取ってもらえたユリカは、勝手に安心していた。
「…失礼しました。アレン・セディル・ベネクレクストです。よろしくお願いします。」
その場で立った彼を見て、意外と身長も大きめだと気付く。女子からの黄色い声もあがり、女性人気も高いのだと感心しつつ…ユリカは先程まで彼が痛みに悶えてたことをすっかり忘れて去っていた。
アレンが座ったのをみて、今度は自分が立ち上がる。
「私はユリカ・ウィンスレットです。少し人見知りなところがありますが、ぜひ皆さんと仲良くなりたいです。よろしくお願いします。」
──こういうのって地味に緊張するのよね。人見知りなことも伝えたられたし、友達たくさんできると良いな…。
なんとか無難に挨拶できたことにホッとする。
昔からの友人や家族にはお転婆とか言われるけれど、初対面の人にはよく落ち着いている、近づきにくいオーラが出てると言われる。…なんて、表情筋が硬いだけであるのは言わずもがなである。
この日は授業はなく、自己紹介のあとは軽いオリエンテーションのみで終わった。
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