第54話 俺
「よぉー。久しぶりー!」
「・・・おう・・・」
「ちょ、まっ!・・・おまえ、どうした・・・って、ひっどい顔だし、それよかその声!」
「え・・・?・・・あぁ、ちょっと、風邪気味?・・・かな・・・はは・・・」
あの日から数日経っていたのに
俺の見た目も
声も
まだまだあの日のまま
立ち直れないまま
ぐしょぐしょだった。
こんなにノドに負担がかかるなんて思わなかったし
(精神的なモノなのかな・・・)
こんなにボロボロになるとも思わなかった。
それなのに
いつものように仕事場にきている。
声もキモチも
もう削るトコロがないくらい
擦り減っているけれど
何かしていないと
たぶん
・・・
立っていられない。
「おまえなぁ、ちゃんと食うもん食って、しっかり寝てる?ちょいちょい様子が変だったし。」
(・・・そっか・・・)
こいつにはちゃんと
話さないといけない、な。
「・・・なぁ、おまえさ」
「ん?なになに?」
「あの・・・あの子、・・・いや、そ、そらちゃん?のコト・・・なんだけど、さ・・・」
「え?なに?誰ちゃん??」
「なに、って・・・そらちゃんだよ。お前が、・・・そう・・・呼んでたんじゃないか。・・・その子のコト、・・・なんだけど、さ・・・」
「??・・・なに?、いつのハナシだよ?」
(・・・え・・・?)
「お、おまえ、ずっと探してたじゃないか。お礼が言いたいからって・・・俺に・・・俺に、捕まえといてくれって、・・・言ってたじゃないか。・・・青い羽根・・・幸運の幽霊って・・・だから、俺は・・・俺・・・ごめん・・・お前に・・・謝らないと・・・」
「お、おい!だ、大丈夫か!?どうしちゃったんだよ・・・おい、おい!?・・・!!」
・・・
なんだ・・・?
あいつの声、遠いな・・・
おーい
もっと近くでハナシてくれよ
あの子
そう
おまえが会いたがっていた
あの子
消えた
・・・
消えちゃったんだよ
ごめん
・・・
ほんと
ごめんな
・・・
おまえに内緒にしていて
会わせてやれなくて
俺が
・・・
俺が
繋ぎ止められなくて
俺
・・・
俺じゃなくて
おまえだったら
あの子は
消えずにすんだのかな
・・・
なんで
・・・
なんで
俺だったのかな
・・・
☆
俺は
抱きしめた時に触れた青い羽根を
思わず握ってしまっていた。
手のひらに何枚かの羽根があったけれど
光の粒になって消えていた。
でも
ひとつだけ
消えかかってはいるけれど
まだ残っていた。
俺はそれをぎゅっと握って
ためらわずに願いを叫んだ。
「あの子・・・そらりにまた会える!!」
・・・
さらさら
さらさら
さらさら
・・・
握っていた手を開くと
手のひらにわずかな光の粒が残っていたけれど
すぐに消えて
何もなくなってしまった。
(・・・間に合った、のかな・・・?)
しんと静まり返った屋上に
たったヒトリ。
何も
・・・
何も起こらない。
俺はチカラなくうなだれて
動けなくなってしまった。
ぽつ
ぽつ
ぽつ
・・・
あとからあとから
涙の粒がとめどなく落ちて
古びてひび割れた屋上のコンクリートに
いびつな濡れた跡をいくつも残していく。
「・・・ぐっ・・・ぅ・・・う・・・」
なんだろう
今まで味わったコトのない
この感情は
何なんだろう。
どこにもぶつけられない
言いようのない
怒り?
悲しみ?
悔しさ?
・・・
わからない。
何なんだろう。
腹の底から叫び出したいくらいなのに
でも
こんな俺を
決して誰にも知られたくなくて
上着の袖でクチを塞いだまま
叫びのような泣き声を
決して誰にも聞かれないよう
キモチも声も押し殺して泣いていた。
何も
・・・
何も出来なかった。
そうだよ
俺は
・・・
俺なんかじゃ
何も出来ないよ。
なんで
・・・
「なんで・・・俺だったの・・・かな・・・」
・・・
☆
あの子
もう戻らないのかな
もう会えないのかな
消えた
・・・
消えちゃったんだよ
ごめん
・・・
ほんと
ごめんな
・・・
おまえに内緒にしていて
会わせてやれなくて
俺が
・・・
俺が
繋ぎ止められなくて
ごめん
・・・
ほんと
ごめん
・・・
ごめん
・・・
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