いらんことは言うな

「眠い」


 俺は今1人で学校に向かってる。無駄に変なことを言ったせいか、彼女と顔を合わせることができないせいだ。


 なんとも早い登校。お陰で現状誰とも出会っていない。


「おはよう。絵梨花さんと一緒じゃないんだ」


 …と思っていたら、先輩と出会ってしまった。

 いや、出会ってしまったという表現だと会いたくないみたいだな……

 出会えた!これが正しい。うん。


「そうですね。あいつならまだ支度できてないじゃないですか?」

「何かあったの?」

「何かとは?」

「いや、一緒に行動することが多そうなのに今日は違うから」

「そんな日もあるでしょ。というか、兄弟になってまだ日も浅いですよ?」

「むしろ日が浅いからだよ。普通もっと一緒にいようと思わない」

「あなた。俺たちを付き合いたで空気を読むことを忘れたカップルか何かと勘違いしてません?」

「そこで空気を読むことを忘れたとかの接続詞を入れるあたり君らしいね」

「ありがとうございます」

「褒めてない」


 褒められていない時に礼を言うのは大概わざとである。そういう人種は一定の割合であるので覚えておこう。


「それじゃ。今日は一緒に行こうか?」


 体を密着させ、先輩は問いかける。


「いいですが。もう目の前ですよ」

「まだ時間あるんだし。ゆっくりしようよ。別にすぐに教室に行く必要はないでしょ?」

「でもこんなに早く来たのですから何か用があるのでは?」

「勉強しに来ただけ。…そうだ。一緒にやりましょうか?大学進学するつもりで今から勉強し始めたって言ってたよね?」


 確かにそんな話した気がする。しかし、集中できるだろうか?それが問題だ。


「いいですよ……」

「なんだ少しやる気なさげなの?受験意識してるならしっかりね?」

「ういす」


 …………


 集中できるのだろうか?などと低次元の悩みを持っていたものの、いざ始まると案外できるものだ。互いに勉強する習慣ができていた賜物だろう。


 数Bのベクトル問題を解きながら少しそんなことを思っていた。……こんなこと考えてる時点で集中できていないのではというツッコミはなしだ。


 先輩は先輩で大学の過去問だろうか?英語の長文問題を解いている。まだ仕上がっていないせいか、少し手こずってる様子だ。


「……よし終わり。……はぁ」

「やっぱり長文問題は疲れますか?」

「そりゃね?でもやっとかないと解けないからね。英語は毎日やっとくことオススメしとく。後英単語も今やっといた方がいいよ?」

「あっ。それはやってます」

「そこは。やっていてもやってないふうに話進めようよ」

「……はい」


(`・ω・´)とした表情をすぐに(´・ω・)とした表情に変化させられる。コミュニケーションは難しいね。そりゃあ、企業も新卒採用の際重視するわ。


「ねえ。2人は家ではどんな風に過ごしているの?」

「なんです唐突に」

「世間話」

「別に…近づき過ぎず離れ過ぎず……いや、違うかな。互いに距離を測り兼ねてるという感じですかね」

「君が測り兼ねてるだけかもね……」

「へ?」

「なんでもない。それよりどこ行きたい?」

「それよりって……それにどこに行きたい?」

「忘れたの?」

「……ああいや。忘れてません」

「それで?」


 そう問いかけられ、少し考える。しかしよくよく考えると同じ話を絵梨花ともしたことを思い出した。そのあと何やかんや面倒ごとにあったが、今回は大丈夫だろう。


「同じ場所に連続で行くのもな……いや…それはそれでありか?」


 少し呟きながら、もう少し考えるがどうもいい案は出ない。というか高校生の行動範囲は大して広くないのだから当然か。


「無難に映画とかですかね」

「いいんじゃない?見たいものあるし」

「それじゃ後は日程ですね」

「そうだけど。それより、近く遊びに行くの?」

「?まぁ。それがどうしました?」

「いや。基本友達との交流少なそうだから珍しいと思って」

「いや。遊びますよ?先月も男友達とボーリングやらなんやら遊んでますからね?」


 自分の名誉のために言っておくが、友達はいる。


「へぇー。それじゃあ今度も友達と」

「いや。絵梨花とですね。遊ぼうと誘われて」

「えっ……。そう」

「なんですその反応?」

「別に?ただなんだかんだ仲良くしているなって」

「まぁそうですね」


 ……妙に変な空気が流れる。

 だが、そろそろ始業時間が始まり、先輩はさっさと行ってしまった。


 ……俺が遊びの予定を組むと変な空気にする能力があるのではないかと錯覚した今日この頃でした。

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一ヶ月前にフッた彼女と義理の兄妹になった件について MASANBO @MASANBO

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