くだらない事で悩むもの
「おーい」
絵梨花の部屋のドアをノックする。
だが、心地よい木の響きが廊下を巡るだけで、それ以外の効果はない。
案の定というのか、彼女は居留守を決め込むようだ。
「居留守は、相手が中にいるかどうか分からない時に使うものだぞ」
とりあえず、出てきてもらうためもう一度声をかける。
「もうちょっとマシな呼びかけないの?」
ドアを少しばかり開けて顔を見せる。その顔は不服であることを隠そうとしていない。
そんな彼女に少し苦笑いになる。
「ごめん」
一言謝罪の言葉を出すと扉がさらに開けられる。入って良いということだろう。
「お邪魔します」
部屋の中は綺麗に片付けられている。もっとも、部屋に入ったのは2回目。1回目は事実上勝手に入ったようなものだが、そのときもそれほど汚くなかったから、綺麗好きな方なのだだろう。
以前あった段ボールももうすっかりなくなっている。
「うん」
ベットに座りながら隣をポンと叩く。
言われたまま隣に座る。
ここまではいい。別に問題は起きていない。
問題はここからである。
「……」
「……」
互いに無言。いや向こうはおそらく俺が何かしら用があることを察している。その上で俺が切り出すのを待っている。
それは間違いない。何せ彼女の視線がまさにそれだからだ。
「……」
このまま黙ってるわけにもいかない。どうせ、ここにきた以上こうなるのはわかってたことだ…諦めよう。
「なぁ。俺何かしたか?正直自分には分からないんだ。だから。…そのなんだ」
どうも歯切れが悪い。これでは相手に正確に伝えられない。
「ふふ。やっぱり」
そんな俺を見て笑っている。俺の心情、何が悪かったのか分からない鈍感さを笑う。いや馬鹿にしているという意味合いではなく、悲しさを隠すような笑いだ。
「本当に興味ないんだ。私だけ舞い上がってたのかな」
「は?」
「だって、今だって義務感で動いてる。兄妹になって家族間のしこりをなくすためていう義務できたんじゃないの?」
どうだろう?義務感。なるほど、それは否定できない。だが、それがどうしたことだろうか。
「あんなに引っ付いてたのに、なーんにも反応せず淡々としてたし。それなんだとそう思っちゃうよ」
それで思い出す。確かにやたらめった引っ付くと思っていたが、わざとか……。
そう考えると一気に心配事。何かやってしまったのではとヒヤヒヤしていたことが、スッと冷たい水が喉を通るように流れていく。
彼女のいうことは誤解、いや正確にはそうとも言えないがとにかく誤解だ。ならこれを解くだけだ。問題ない。
「義務感で何が悪いんだ?」
「だって、義務感って望んでないことじゃない」
「違うぞ?義務感で動いているときは大抵自分の望みというものが隠れているものだ。望みのために、そのために義務を遂げる。少なくとも俺は仲良くしたいから、そのためにこうして俺はここにきたんじゃないか。淡々としてたのだって……」
「淡々としてたのだって?」
「……」
勢いよく言う必要もないことまでいってしまったようだ。
「ふ〜ん。そうかそうなんだ」
悲しそうな雰囲気から一転実に嬉しそうだ。誤解が解け、解決できたのだからこれは喜ぶべきなのか。
「ただ恥ずかしかっただけなんだ」
「違うよ?」
実際その通りだが、それは認められない。
「じゃあなんなの?」
「……」
まぁそうなるわな。
「あれだ。あれ」
「それじゃわからない」
ええい。どうとでもなれ。
「ちょっといいカッコしたかっただけだ!正直動揺したが、それを表に出したらカッコつかないだろ?だからだよ!」
これこそ恥ずかしいことであるが、知ったことか。聞かされる方も実に恥ずかしい。これでイーブンだ。……気持ちの上では。
この場にこれ以上いたら、色々耐えられなくなるのは目に見えてる。そのためこういうときは逃げるが勝ちである。
なんか色々やらかしたようにも思えるがそれは後で考えよう。そうしよう。
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