彼女は何故か不機嫌
いつの間に家の前まで来たのか、まるで記憶がない。
人の無意識ながらの行動はあながち精度が高いことに改めて気付かされながらも、それほど頭が働いていなかったことが情けない。
「ただいま」
「おかえりなさい。遅かったじゃん」
「……まぁ」
絵梨香は一足先に帰宅していたようだ。すでに服装も制服ではなく、部屋着。少なくとも十分は速く帰宅していたことになる。
「何してたの?寄り道?一人で?」
「一人という前提なのは何故だ?俺が友達がいなさそうな奴だからか?」
「まあまあ」
「その反応は同意しているものだぞ」
俺の独り言は聞こえなかったことにされたようだ。
俺に興味を無くしたのか、彼女はスマホをのぼる。まだまだ日が浅いというのに彼女はそれはもうくつろいでいた。
その証拠に先程はわざとながら気にしないようにしていたが、服装も少し、目のやり場に困る格好だ。
もっと緊張しない?異性が目の前にいるのだが、それも訳あり。
それから一度俺も着替えてリビングに戻る。
さてどうしよう。我が家にあるソファの真ん中に絵梨花。それもなかなかの露出仕様。
リビングでダラダラは諦めよう。部屋に戻るか。
「座らないの?ほら。別に一人用じゃないんだし」
「いや」
「じゃあなんのためにここに来たの?」
何故追及されているのだろうか?
「晩飯の支度……。そろそろやろうかと」
「早いよ。仕込み終わってるし、米も予約済み。今からだとお母さん達が帰るまでに時間が空いちゃう」
確かにその通りだ。米はおそらく絵梨花がやってくれたのだろうが、それ以外は俺がやったことだ。忘れてたわ。
「まだ時間あるしゆっくりしよ?それとも私とじゃいや?」
「そんなことはない」
勢いよく彼女の隣に座る。それに少し驚いたようだがすぐに満足そうにする。
「そうだ」
「どうした?」
「日曜どこ行こ?」
一瞬日曜?などと即彼女が不機嫌になる恐れが高いワードが飛び出ようとしたが、寸前で止める。そう確かに約束していた。
危ない。女慣れもしてなければ、約束も忘れる。華麗なクソムーブをかますところだった。
「ショッピングは事実上以前やったからな」
「だね。どっかおもいっきり遊びたい」
「となるとどっかテーマパークか?しかし混んでるな…」
「確かに?それは時期をずらさないと平日がベスト」
「まぁ映画やボーリングその他諸々少し行けばあるからそれでどうだ?」
「賛成」
さて、無難な感じで終わった気もするがこれでよし。時間は…まだある。もう少しゆっくりできそうだ。
「ねぇ」
「うん?」
無難だが、しっかり対応できたことに若干喜びを感じていると、絵梨花から唐突に声をかけられた。
振り返ると間近に絵梨花の顔があった。それも不服そうに。
その理由は皆目分からない。ここまで変なことをした覚えはない。
「何もないの?」
「何が?」
なんとなく、残念な行動だと思うが経験値の低さから自信の選択肢がこれ一つだけであった。
「せっかく……ううんなんでもない」
明らかなんでもないことない。それぐらいわかる。が、どうしたらいいか分からない。
「ご飯の準備よろしく」
「ああ」
少しばかり怒り、いや違うな。残念。落胆の感情を込めた言葉に俺は生返事するしかなかった。
「……」
時間を見るとそろそろ支度するべきだ。
そうなると今から彼女のところへ向かうことはできないか…
ひとまず晩飯の支度を始める。
多分この後、話に行かないといけないな…でも機嫌を損ねた原因がわからない。
ほんと分からない。
この哀れな子羊に誰か教えてくれませんかね?
そんな人いないけど。
てか、結局華麗にクソムーブかましてるな俺……
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