登校

 あれだけゆったりと過ごしていたにも関わらず、余裕のある登校である。家が近いとやはり奪われる時間が少ないからいいものだ。


 隣には上機嫌で歩いている絵梨香。

 そのせいだろう妙に視線を感じる。大多数は一瞬視線を感じるだけですぐに外れる。まぁ知らない男女の行動などいちいち気にしているほど、皆暇ではない。

 だが、それ以外に少数ながら結構な頻度で視線を送ってくる人間もいる。


 チラッと確認すると慌てて顔を逸らされる。

 見たところクラスメイトと後はわからないが、一緒に連んでいることから同学年だろう。


 これに関しては仕方ないことなのかもしれない。

 日常ではあまり考えられない事態。それに一週間もたっていないのだから、まだまだ彼らの興味は尽きることはないだろう。


「どうしたの?そんなにキョロキョロして。ほら前を向く!」


 背中をバシッと叩かれる。

 絵梨香は。彼女はこの状況に関して特に気にしていないようであった。


 だが、その行動が仲睦まじいと解釈されたのか、クラスメイト及び絵梨香に対して好意を持っていた男子がうるさい。

 これあとでなんか突っかかれるパターンだな。

 話しかけづらいなどという評価をいただいている人間であるが、幸い男子社会においては、普通に生活できているのである。


 そのため、絵梨香に関してはかなり突かれている。というか羨ましがられる。


 まぁ詳しい事情も知らずに、思春期真っ盛りの思考で言えば、彼女とひとつ屋根の下で暮らせるなんて言えば羨ましい以外何者でもない。俺もそんな奴いれば多少なりともくたばれと思う。


「おはよう」


 後ろから声が聞こえる。

 振り返るとそこには先輩がいた。


「おはようございます。先輩」


 無意識に絵梨香との距離を少しばかり離していた。その時、絵梨香は少し眉を顰めたような気がした。


「?彼女は……」

「あぁ。妹です。義理ですけど」

「妹?いたっけ?」

「先輩が得ていた情報ではいないが正しいですよ。できたのは最近です」

「あぁなるほど」

「すぐに納得できるとはさすがというか何というか」


 結構大きいイベントではあるが、それをなるほどで済ませてしまうことに感心してしまった。


「初めまして。水無瀬優香です」

「……相木絵梨香です。先輩ということは3年生ですか?」

「ええそうなの。相木さんは……」

「絵梨香で大丈夫ですよ」

「そう。それはよかった。なら私も優香でいいわ。絵梨香さんは、聡君と一緒の学年ということかしら?」

「はい!それも同じクラスですよ」

「それは……。クラス中の話題を掻っ攫うことになったんじゃない?」

「その通りですよ先輩。しかも現在進行形でね」


 ぎろりと睨みつけると気まずそうに視線を逸らして人間が数人。全く勘弁してほしいものである。


「随分賑やかなことね」

「いや〜全くですよ!もうクラスメイトから質問攻めで。人気者ですね!」

「そのハートは一体どこに行ったら手に入るんだ?」

「聡君は、どうやらやられているようね?クラスの中心にいたことがないせいかしら?」

「失礼な。社会規範を忠実に守る人間には辛いというだけですよ」

「そう?まぁいいわ。私はもう行くわ?二人も急いだ方がいいじゃない?三年生は2階に教室あるけど、二年生はそうはいかないでしょ?」


 それを言われて咄嗟に学校にある時計を見ると。なるほどその指摘は最もであった。


「少し急ごう」

「うん」

「それでは先輩また」

「は〜い」







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