暖かな朝日により目覚まし時計が鳴る前に自然と目が覚め始める。そのおかげか随分と気分がいい。やはり目覚まし時計は多少なりともストレスを与えているようだ。

 時刻は7時より少し前。学校は20分もあれば着くから、だいぶ余裕があるだろう。

 絵梨香は……どうやらまだ寝ているようだ。起こすのも悪いこのままにしておこう。

 昨日買ったばかりの食器類を取り出してさっと支度を始める。


「おはよう」

「父さんか。おはよう。今日は遅いんだな」

「まぁな」

「あら翔さんに聡くんもう起きてたの?おはよう」

「おはよう」

「おはようございます。莉央さ……義母さん」

「うん。よろしい。絵梨奈はまだ起きてないのかしら?」

「そのようです」


 絵梨奈の母であり、新しい俺の母である莉央さんは、人差し指を頬に当てて尋ねる。その無意識に出た行為もなかなか可愛らしく思える。

 それから莉央さんは、俺が行っていた食事の準備をとりあげた。なぜそのような行為を行ったのかはわからない。だが莉央さんは、ふふと可愛らしく笑っていた。


「聡君は、絵梨奈を起こしてくれない?こっちは私がやるわ」


 それを言われてようやっと意図が伝わった。だが、同時に少し困った要求である。兄弟とは言ってもまだ日も浅い。そして若干気まずい事情が存在する。何より異性である。ひょいひょいと部屋に入るのはなかなか躊躇われるのだ。


「いいのよ。気にしなくても。そういうことは同居してたらあることなんだから。そんなに気を張り詰めても仕方ないでしょ?絵梨奈だってそんなに気にしないわよ。……多分」


 自分の戸惑いの理由を察してくれるのは有り難いが、最後の多分をつけられたことで決心ができない。だが、父さんも早く行けという目を向けている。何より二人ともこうして朝にいるなんて珍しい。ここはひとつ俺が席を少し開けて二人っきりにしてやろう。

 ……という建前を持って絵梨奈の部屋へ赴く。



 部屋に入る前にはノックが基本だ、そんなことはわかっている。だが、ヘタレな自覚のある俺は、ノックするために右腕を挙げたのに、ドアを叩くのを躊躇している。

 なかなかに情けないやつである。


「絵梨奈起きているか?」


 それでも、ほんの少し時が経てばこうして行動に移すことはぐらいはできる。


 しかし中にいるはずの人物からの返答が返ってこない。

 もう一度ドアをノックする。先ほどよりやや強めにだ。

 だが、やはり中からの返答はない。


 さて、困った。こうなるともう中に入って起こさなければならないが、高校の途中ぐらいから生まれた関係性でしかないのに、男が、女性の部屋に入っていいものだろうか?


 ウジウジするなというかもしれないが、どうか許してほしい。

 結局入るしかないのだからそれは納得する。


「……入るからな」


 整理がまだできていないのだろう。まだ開かれていない段ボールが見られた。しかしそれ以外は特段散らかっているわけでもない。本棚には…。ラノベだろうかそれが数十冊ほど。他には漫画が少し多いぐらいである。


 結構そう言うのが好きだったのか。


 もっともそのことにいつまでも興味を持っていられない。俺はベットに近づき少し肩を叩く。


「起きてくれ」

「…う。うん?お母さん?おはよう」


 大きな少しばかりだらしないあくびをしながら、こちらの方は顔を向ける。

 暑かったのだろう露出が少しばかり大きく、絵梨奈の肌が視界に入ってしまった。


「……あれ?聡く…」

「起きたな。じゃあもう少ししたら朝飯だからよろしく」


 頭が覚醒してきた絵里奈をおいて、颯爽と部屋から出てくる。その途中、声にならない叫び声が聞こえてきたように感じるがきっと気のせいである。

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