第58話 ようこそ、私達の世界へ
週に二回、おばあちゃんの所でみんなで勉強会をしている。
これが結構厳しい。
「やー、私無理っすー。ちょっと遊んできていいっすか?」
「結構だけど、入学を許可しませんよ?」
「職権乱用では?」
「裏口入学する人の言う事じゃないでしょう?」
ニコちんとおばあちゃんは正反対の感じで……こうして火花を散らす事がチラホラ。
「せっかくのJCなんすよ? もっとこう……ねぇ?」
「JC……? あなた達まだ十五歳よね?」
青年会議所(通称JC)と間違えてるな……
【幾ら女だからといってもこんな年寄り必要ない!! 熟女にも格というものがある!!】
ちなみに範囲は?
【四十二歳〜五十三歳まで。小綺麗な顔立ちと草臥れた身体、ご無沙汰の性欲に年甲斐もなく高揚する心!!】
下種の塊だな。
声に出して言えます?それ。
【声を大にして言いたい!! 熟女とは── 】
その瞬間、おばあちゃんは私の肩の辺りを睨みつけた。
……バレてない?
【……目は合ってますな】
「夏、最近嫌な事とか事故に遭いそうになったとか……そういう事ない?」
祟られてると思ってるな。
まぁあながち間違ってはいない。
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「……何か嫌な感じが夏からしたのよ。ちょっと塩とお酒持ってくるわね」
だってさ。
【失礼な!! 神だぞ!?】
「夏、じっとしてなさい?」
そう言うと、おばあちゃんは私の周りに塩を撒いてお酒を私の口に少しだけ含ませた。
【はっ!! たかが婆さんに何が出来る!! かかってこいや!!】
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前……」
【あっ……】
「ヲン・キリ・キャラ・ハラ・フタラン・バソツ・ソワカ・ヲン・バザラド・シャコク」
【ギャーーーーーーーーー!!!??】
おーい、大丈夫?
【…………】
死んだな。
「おばあちゃんありがと。なんだか肩が軽くなったよ」
「ふふっ、良かった。また何かあったら言ってね」
「なんか夏には甘いよなー」
ハナはひたすらに手を動かしている。
なんの教科かな?
「出来たー!!」
「お、ハナっち何が終わったん?」
「今度のお休みの予定を考えてたのだ!!」
おばあちゃんが鬼の形相でハナを見ている。
頼むから荒立てないで……
「ハナちゃん、あなたねぇ…………あら、いいじゃない。私も一緒にいいかしら?」
「もちのろーん♪」
おばあちゃんも一緒に……?
なんの予定なんだろう。
「なになに……おー、いいじゃん」
「わぁ……私した事ないよ」
「ハナ、なにをするつもり?」
「ふっふっふ。キャンプ!!!」
◇ ◇ ◇ ◇
と言う訳で、とある山に来た。
ここはどこなんだろう。
「森だー!! ヤッホー♪」
はしゃぐハナ。
アウトドアな格好もよく似合っている。
ホント、何しても可愛い恋人さん。
「キーちゃん良い感じだよ。山ガールって感じ」
「ニコちゃんが選んでくれたから……」
私達は仲良く楽しめてるんだけど、問題はこの二人で……
「この辺でいいだろう!!?」
「駄目よ、日がささないし。川の近くが良いわ」
「ったく拘りの強いババァだ……」
「アナタが勝手に付いてきたんでしょう!?」
山奥なら人目につかないという事でおじいちゃんも来た。
人目につかない……ん?もしかして……
「ここっておじいちゃんの山?」
「ピンポーン! 仕事で使う山なんだよ」
……詳しくは聞かないようにしよう。
「すげー……植えちゃいけない葉っぱがいっぱいなってるよ」
「ニコちゃん、これなんの葉っぱ?」
「そんな物見るんじゃありません。警察に通報してやろうかしら」
「そんな物とはなんだ!! カネになる葉っぱだぞ!?」
暫く歩くと綺麗な川が見えた。
どうやらこの近くにテントを張るみたい。
「さ、みんな準備するわよ。私とハナちゃんと清水さんはタープとテントを張る係、夏と栗原さんは食材確保。爺は木でも集めてなさい」
「食材確保って……え? サバイバル?」
「何事も挑戦してかないと駄目よ。まずはやる、やってから色々と考える。出来なかったらフジが猪でも捕まえてくるから大丈夫よ。さ、始め!」
無茶苦茶だな……
でも、なんだかワクワクする。
私はキーちゃんと行動。
ハナとニコちんに比べると絡みは少ない。
おばあちゃんなりに何か考えてるのかな。
「夏ちゃんのおばあちゃんスゴイよね……私、やる前から無理だとか決めちゃうタイプだから……」
「私も頭で考えちゃう方だから。でもせっかくだから二人で頑張ろ」
にしても食材って何があるのかな。
キノコ、山菜、川魚、沢蟹……こんなもん?
「わぁ、キノコがいっぱいあるよ。食べれるのかな?」
「これは……幻覚作用のあるキノコだよ。これも組で栽培してるんだね、きっと」
「夏ちゃん物知りだね。ニコちゃんも色々な事知ってるけど……夏ちゃんはみんなとちょっと違うっていうか、凄く大人っぽいよね」
人生二回目ですから。
なんて、そんな事を言ったら信じてくれるのかな。
「あははっ、中身大人かもよ?」
「……」
キーちゃんは何も言わずに手を握ってきた。
一瞬、ハナの顔が浮かぶ。
「キーちゃん?」
「……今ね、夏ちゃん笑ってたけど……なんだか切ない顔をしてたから。友だちの……夏ちゃんのそんな顔見ると私も辛いな」
……こんなふうに思ってくれる友達は、俺の時にはいなかった。
だからなのか、なんて言ったらいいのか分からない。
「もしさ、私が違う世界から来たって言ったら……どう?」
「…………おもてなししてあげたいな。この世界に来てくれてありがとう。それから……」
キーちゃんは小さな赤い花を一輪摘んで、私の耳に掛けてくれた。
「ようこそ、私達の世界へ。なんてね♪」
俺が私になっていなければ、この未来は存在しなかった。
それが良いのか悪いのかは人それぞれなのかもしれないけど、そんなの……
「うん、お邪魔してます」
野暮だよね。
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