第57話 おかめ花子


「テレビ番組に出演って……」


 二人が帰った後、ハナを問い詰める。


「県のテレビ局から連絡があって出てくださいって♪」


「ナツ太郎をやる条件で声を出さないって約束した……よね? 勿論私だってギター弾いてお金が貰えるならやりたいけど……私ってバレちゃうと色んな人に迷惑がかかっちゃう。ハナと……幸せに暮らしていきたいから……」


 いくら過去を受け入れて、自分を受け入れても、他人が受け入れてくれるとは限らない。

 悔しいけど、それが現実。


 するとハナは手を二回叩いた。


「ハナ様、例の物です。」


「フジ? どうしたの? っていうかそのひょっとこは何?」


「ふっふっふ。フジさんに頼んで開発して貰ったボイスチェンジャー付きのひょっとこ……名付けて ‘’青春の輝きfifteen-year-old” !!」


 えぇ……何それ……

 チークが入って微妙に女性っぽくなったお面は、ただひたすらに不気味だ。


「ナツ、付けてみて?」


 まぁせっかく作ったんだし……どんなものか試してみる。

 どんな声がするのかな……


  


「そのとおーり!! 闇の支配人をイメージして作りました♪」


  


「お嬢様、良い感じですよ」



「ナツ、せっかくだから何か闇の支配人っぽい台詞言ってみたら?」


 せっかくって何よ?

 闇の支配人ね……



「それっぽーい♪」 


 確かにこの声なら誰か分からないけど……ホントにいいの!?


【良き良き。と言う訳で本番当日だ】


 使い勝手のいいナレーションだこと。


「おーテレビ局だー! 私初めてなんだよねー」

「ね、私も。ナツ太郎さん……じゃなくて夏ちゃんは大丈夫?」

 


「すげぇ声だな……」


「乗り込むぞー♪」


 で、ここまでは良かった。


 本番の流れとして、ナツ太郎が自己紹介をしてから一曲弾いてインタビューを挟んで最後にもう一曲。

 

 ちょろっと打ち合わせをして本番。

 生放送である。


 で、問題はここから。


「夏大丈夫かなー? 見てるこっちが緊張するわ」

「ナ、ナツ太郎ならきっとやってくれるよ!」


「へぇへぇ、ナツ太郎贔屓ですこと。お、始まるよ」



「本日のゲストは地元出身、今話題の○Tuberひょっとこナツ太郎さんでーす!! ナツ太郎さん、よくおこしくださいました」



 ヤバい、緊張して頭が上手く回らない。

 な、何を言うんだっけ?


「ナツ太郎さん?」


 ヤバいヤバい!何か言わないと!何か……



 キャー!!何言ってんだー!!?

 アナウンサーも目が点になってるし!

 と、とりあえずギターを弾こう!


 世界的なゲーム、超配管工兄弟のBGMを弾く。

 弾いているうちに、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。

 よし、大丈夫だな。いつも通り。


「わー!! スゴいですねー!! みんな知ってるアレですね。ナツ太郎さんは地元出身、女性── 」


 アナウンサーが上手いこと繋げてくれた。

 指もよく動いてるし、もう大丈夫だ。


「ナツ太郎さんはいまお幾つなんですか?」


「今年で……っ!!?」


 ボイスチェンジャーが効いてない!?

 電池切れ!?

 アナウンサーも異変に気がついたのかヤバい顔をしている。

 どうしよう……


「あっ、隣にいらしたのは相方さんですね? お名前をどうぞ!」


 隣にスッと現れたのはおかめのお面を付けたおかめ花子、つまりハナだ。

 よし、あとはハナにフォローして貰おう。

 ……あれ?この髪の色……金髪?

 もしかして……


{{…………おかめ花子どす}}


 ニコちん!?何で!?

 

【髪の毛でバレてしまうからだろう。動画ではおかめ花子はカツラを被っているからな】


 なるほど……って大丈夫かな……

 でも喋れない今、全てをニコちんに託すしかない。


「お二人はどんなご関係なんですか?」


{{…………恋人どす}}


 いやいや!!?

 そうだけど!!そうだけど今は違うでしょ!!

 

「あらあら、仲が良いんですねー。お幾つなんですか?」


{{…………10万飛んで15歳どす}}


 閣下か!?


「なるほどー、旧石器時代の生まれなんですね! では……何か一言あればどうぞ!」


{{…………さを鹿の……伏すや草群見えずとも……子ろが金門よ行かくし良しも……}}


 なんかそれっぽい和歌を言ってるけど、内容は下品極まりないよ。

 生放送だよ?


【お主のアソコがよく見えないけどワシのチン○が気持ちいいからヨシ!! っていう和歌ですな】


 やめーや。


 しかしこの空気はヤバいな……

 これ以上ニコちんが暴走しないうちに一曲弾かないと。


 渾身の力で弾く。

 が、微動だにしないおかめ花子がアップで映り続け一曲が終わった。 

 シュール極まりない絵面。

 こうして私達は、ある意味鮮烈なテレビデビューを果たした。


「いやー、楽しかったなー。夏、またテレビ出てよ」


「絶っっ対にイヤ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る