第53話 宇宙一のラブラブカップル


「この肉噛まなくても食えるよ!! もはや飲み物だな」

「ダ、ダメだよ? よく噛まないと…………わぁ、ホントだ。柔らかいね」


 目的地までまだまだだがお腹が空いたので途中下車。肉食女子である。

 魚が食べたいって言ってたはずなんだけどなぁ……


「しかしこんな高そうな店入った事ないぞー。夏ハナ様々だな」

「ホントに奢りで大丈夫……?」


「ふっふっ、任せなさーい! いざとなればナツのカードがあるし」


「色的に使いたくないけどね」


「へー、何色?」


「黒」


 ニコちんの目が¥になってる。

 こうして会話していると分かるんだけど、ニコちんはかなり教養があるっていうか物知りっていうか。

 

「ニコちゃん、黒だと何が違うの?」

「黒はヤバい人しか持ってないんだよ。流石はヤクザの娘」


 ちょっと偏見もあるけどね。


「今日は流石にフジさんはいないんだよね?」


「……いると思うよ? 呼んでみよっか?」


 共有された記憶。

 昔の私が呼んでいた様に呼んでみる。


「フジー、一緒にお肉食べようよ」


 瞬きした瞬間、目の前に現れる。

 前から気になってたけど、どういう原理なのだろうか。


「お嬢様、その呼び方は……」


「ちょっとだけ思い出したんだ。あの時の私はもういないけど……私の中にちゃんと残ってるから。ってなんかチグハグだよね」


「どんな事があっても……お嬢様は今ここにいるあなたです。何もおかしな事はありませんよ」


「あははっ、ありがとね。フジの言ってた通り……お母さんの笑顔は私にそっくりだったよ」


 そう言ってはにかんで笑う。

 きっと、お母さんもこんな風に笑ってたんだろうな。


「……確かに若葉様に似てますが、お嬢様の笑顔が一番素敵ですよ」


「おうおう、顔真っ赤にして御主人様を口説いてるぞ! 夏モテんだなー。可愛いからなー」

「ニコちゃんちょっと……」


「あははっ。また……私を唆すの?」


 途端顔はさらに赤くなり目の前から姿が消えた。

 どこからか声だけが聞こえてくる。


「影から見守っていますので……道中楽しんで下さい」 


「すげーな、どうなってんだ? 魔法か?」

「忍者……」


 なんだか不穏な気配がしたのでハナをみると、分かりやすいくらいに不機嫌な顔をしている。


「ハナ?」


「……ナツと二人きりになりたい」


 イヤな雰囲気、流石の二人も察してくれた。


「夏、私達はそのへんでぷらぷらして駅で待ってるから。ごちそーさん!」

「ま、また後でね。ご馳走様でした」


 私達も会計を済まし、近くにあった公園のベンチに座る。

 秋も終わりに近づき肌寒い季節。

 何も言わず互いに肩を寄せ合う。


「……私ね、自分がこんなに我儘だなんて思わなかったの。ナツが昔の事を思い出す度に、胸が締め付けられて……私の知らないナツになっちゃうんじゃないかって、いつも不安で……フジさんとの二人だけの思い出とか、さっきのやり取りを見てて……心の中がモヤモヤしちゃって。すごく暗い気持ちになったの」


「ハナ……」


 軽率だったのかもしれない。

 自分の事ばかり考えて……ハナの事をもっと考えなきゃいけなかった。

 ハナだったらこんな事絶対にしない筈だ。

 ハナはいつだって私の事を……


「ごめんねハナ。ハナの事で頭がいっぱいな筈なのに……そんな事に惚気てて……ハナはいつも隣にいてくれるから、安心してたみたい。恋人だっていう事に……甘えてた。私ね── 」


 言葉を遮るように、キスをしてくる。

 この感覚はいつ訪れても幸せ。


「ナツ、大好き。その髪もお化粧も……すごく可愛い。全部……全部好き」


「ハナに可愛いって思ってもらいたくて……頑張りました♪」


「……駄目、堪らない」


 段々とキスが濃くなっていく。 

 熱を帯びるその行為に、ハナの想いが伝わってくる。


「ナツの記憶全部に私を刻みたい。悔しいな……過去には戻れないもんね」


「……私がこの世界に来て初めて手を繋いだのはハナ、あなただよ。初めてデートして、初めてキスをして……葉月夏はこの世界に昔からいたかもしれないけど、ナツは……私はほんの少し前にこの世界に産まれた。ナツの記憶全てにハナ、あなたが刻まれてるよ。これから先も……ハナでいっぱいにしてくれる?」


「……ナツは凄いなぁ。私の心を一瞬で満たしてくれる。ずっと、ずっと一緒にいるから。もっともーっと私でいっぱいにするんだから! 私がナツを幸せにするんだもん♪」


 ハナの目がキラキラと輝いている。

 私に恋してくれてるから……それが何よりも嬉しくて、つい口元が緩んでしまう。


「あははっ、これ以上幸せになったら壊れちゃうよ」


「ふふっ、壊れちゃえ♪」


 いたずらっぽく笑うハナ。

 仲良く腕を組んで駅まで歩くとニコちんとキーちゃんがこちらに向かって手を振っていた。


「おーおー、お熱いカップルだこと」

「ふふっ、私達も……負けないよ♪」


 ニコちん&キーちゃんは駅のベンチでくっついて仲良く肉まんを食べてる。

 さっきお肉食べたよね。


「私とナツが宇宙一ラブラブなんだから! ね、ナツ♪」


「うん♪」


 宇宙一のラブラブカップル。

 いい響きだ♪

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