第51話 サルモネラ丼
ドスケベライガーの写真をハナに見せる。
なんだかハァハァしてるけど……
「ハナ……?」
「ナツ!! この衣装は貰えるの!!?」
「えっ? 本番で使えば貰えるみたいだけど……」
「使って!!」
「でも……私いろんな人に見られちゃうよ?いいの?」
「イヤだよ。イヤだけど…………でも……やっぱりイヤだな……」
ハナの中で葛藤してるのかな。
この服を貰ってどうしたいかはあえて聞かないけど……
それでもハナに喜んでもらいたいって気持ちが強い。
「私やるよ。この部屋でハナに……ハナだけに見せたいし。流石にお尻は際どいからスパッツ履くけどね」
「ナツ……ふふっ、ナツだーい好き♪」
◇ ◇ ◇ ◇
【と言う訳で文化祭当日だ!!】
展開早いね。
コスプレ軍団が教室に入ると視線が一気に集まる。
女子になって分かったけど、チラ見でもこちらのどこを見ているのかが丸わかりだ。
「恥ずかしいよ……ニコちゃんは平気?」
「余裕しょ! ホレホレ」
そう言いながら腿を見せびらかすニコちん。
えちちだ。
【エッッッッッ!! ………エッッッッッッッッ!!!!】
この学校の文化祭、飲食店は少ない為自然とそのクラスに人が集中するらしい。
……適当に頑張ろう。
「あれ、夏スパッツ履いてんの? なんだよー、もっと見せてこうよー」
「恋人がいますから」
「って事はあの辺りはハナっちが開発済みなんだなー。よっ、このドスケベライガー!!」
「ニコちゃん声がおっきいよ……」
「ナツー!! 遊びに来たよー」
「あれ? ハナはクラスにいなくていいの?」
「展示してるだけだから。と言う訳で入り浸りまーす♪ ライガーさん、チョコバナナ下さい」
自由だな。
でもハナがいてくれるなら嬉しいな。
徐々に人が増えてきて、みんながこっちを見てくるのがよく分かる。
そこへ煙草大好きヤニ先生がやってきた。
「…………ヌキ有り?」
「ねーよ!! 帰れ!!」
教師がなんつー事を言うんだか……
罰としてタピオカドリンクのドリンク抜きを十個買わせた。
「ニコちゃん、ヌキって何かな?」
「コレだよ、コレ」
指で輪っかを作り上下に揺らす。
しばらくして理解したのか顔を真っ赤にさせてキーちゃんは俯いた。
ひっきりなしに人が来る。
今度は隣のクラスのイケメンくん。
「噂以上の格好だね……まさか痴女だったとは」
「違うから。冷やかすなら帰って」
「冗談だよ。キャラメルチョコバナナクリームマシマシで」
相変わらず女子だな。
「お、夏にフラレた風祭くんじゃん。裏メニュー食ってく?」
「そんなのあるの?じゃあそれで」
裏メニューなんてあったかな?
ニコちんは冷めたご飯の上に不器用に割った生卵を乗せ醤油をかけた。
「はい、サルモネラ丼」
「サルモ……なんだそれ?」
「いいから食ってみな。ホレホレ」
うわぁ……ジャリジャリいってるよ……
ニコちんはニヤつきを抑えられていない。
「うん、なかなか美味しかったよ。これいくら?」
「千五百円でーす」
高っ。
コラボカフェとかでもそんなしないよ。
その後も淡々と仕事をこなし、学校外からの客が入り始めてきた頃だった。
「オネーさん、クレープください」
小学生で低学年くらいの男の子。
無邪気な笑顔で、注文をしてくる。
「はい、二百五十円ね」
「オネーさん、なんでそんな格好してるの?」
「えーっと……好きな人の為だよ。そこの赤い髪の可愛い子の為」
「私でーす♪」
「……女の子のどうしなのに? 変なのー」
邪気が無いからこそ、胸に響く。
きっとこれから先も直面する言葉。
でも……
「……あははっ、そうだね。ちょっと変かもね」
可笑しくなっちゃうくらいに好きな人がいる。
まるで世界がひっくり返るような。
生きていくには人それぞれ理由があって……
家族の為、自分の為。
私はハナの為に生きている。
それはきっとハナも同じで……
考えただけで口元が緩んでしまう。
身体の奥底から熱くなって、ふわふわと暖かくなっていく。
幸せという言葉じゃ表せないくらいに満たされる。
「わぁ……夏ちゃん、凄く可愛い顔してる。なんだかドキドキしちゃうくらい……」
「これは反則だなー。こんなん見たら誰だって惚れるわ」
そう言われて我に返り、ハナと目が合う。
顔を赤らめ目を少しそらし、髪を耳にかける仕草をする。
男とか女とか、そんなんじゃなくて……
私は私である事が幸せで、私だからこそハナとこうして一緒にいられる。
そう考えると、この一瞬がとても尊い。
【その格好で考える台詞じゃないよね】
いいじゃん、可愛いでしょ。
「ナツ、帰ったら……それ着てくれる?」
「うん、モチロン。食べちゃうぞーがおー♪」
「ふふっ、じゃあ美味しく食べてね♪」
「が、がおー……」
私の扱いが上手なハナ。
飼いならされている事にも、幸せを感じる。
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