第48話 俺から私へ


「はじめまして! 私ナツの恋人やらせてもらってますハナです!」


「へぇ……夏はこういう子がタイプなのね」


 お婆ちゃんはドッシリとした構えでハナを見つめる。

 その眼差しは威厳があるっていうか、背筋が伸びるっていうか……

 

「三人ともごめんなー。いやー、高校生はなかなか強いわ……あれ? 誰、この婆さん。夏の知り合い? ちーっす、清水っす」


「ニコちゃん、学長さんだよ……」


「マジ!? ……ちわっす」


 ちーっすの上位がちわっすなのかな……


「溝口さん、清水さん、栗原さん。三人とも、夏のお爺さんに宜しくと頼まれたわ。全く、人の言う事は聞かないくせに自分勝手な爺よね。でもまぁ……それ程夏が大切なのね」


「あはは……」


 嬉しいけどなんだか複雑だ。 

 おじいちゃんもなんで黙っていたのかな……

 

「栗原さんは問題ないけど、あなた達三人は無理して入学する事になる。他の子達からしたらズルいわよね? この学校に来て何をしたいか、私を納得させる答えを下さい」


 まぁそうだよね……

 ズルして入るんだからそれ相応の理由がなきゃ………


「私はナツの可愛い制服姿が見たいです! あとは一緒のクラスになって、それから席も隣で……手紙交換したり……ふふっ♪ 楽しみだなー」


 えっ?そんなふわふわした感じでいいの?


「うーん……この三人がいるから来たいって以外無いんすよねー。あ、ここの学食は美味いって評判なんで、それも目当てっすね」


 うわぁ……お婆ちゃん半ギレだな。

 直視出来ないや……


「…………ハァ……夏は?」


「私は……普通に勉強してみんなと遊んで……友達もたくさんつくりたいな。部活とかも気になるし」


「夏、それはここ以外でも出来るんじゃないの?」


「出来るけど……ここにはお婆ちゃんがいるから。それが理由かな」


 渾身の孫スマイル。

 言い方が悪いかもしれないけど、年寄りには孫の笑顔が一番効くと思ったから。

 お婆ちゃんも例に漏れず。

 前二人の解答も、私の笑顔で許される。


「ズルい子ね。そんなの……ふふっ、断れないじゃない」


「あははっ。私、お婆ちゃんに出会えて良かった。今日のお婆ちゃんの言葉が無かったら……ずっとモヤモヤしたままだった。一歩も前に進めなかったと思う。少しだけど……お婆ちゃんのおかげで踏み出せた気がする。お婆ちゃん、ありがとう」


「ふふっ、家族ですから。夏、二回目の人生、あなたの為に生きなさい。他の誰でもない、今ここにいるあなたよ。分かるわね?」


 今一番言って欲しくて、必要な言葉を言ってくれる。

 心が少し、軽くなる。


「……うん。もうちょっと藻掻いてみるね」


「またいらっしゃい。あの爺の愚痴、いっぱいあるから」


「あはは。うん、また来るね」


「……それからこれはもう一人の夏に。そばにいてあげられなくてごめんなさい。私はあなたの祖母失格です。もっと早くあなたに会わなければいけなかったのに……七五三の時に言った言葉、覚えてるかしら? 私は──

「出会いは人生を豊かにし、別れは人生を深くする」


 あれ?声が勝手に……


「夏……あなた……覚えてるの?」


「……私の中に刻まれてるみたい。一回しか会ったことがなかったけど……きっと、私はお婆ちゃんの事が好きだったんだと思う。忘れられない、大切な言葉なんだね」


「……ごめんなさい。夏、本当にごめんなさい……」


 お婆ちゃんは泣き崩れ、私にもたれかかってきた。

 みんな、辛い思いをしてきたんだね。

 

 お婆ちゃんを抱きしめながら、背中を擦る。


「お婆ちゃんの言葉通りなら……私の人生滅茶苦茶深くて豊かだね♪ こんなに濃い人生で……あははっ、私は恵まれてるな」


「夏…………決めたわ」


「えっ?」


 ◇  ◇  ◇  ◇


「と言う訳で今日からここに住みます。文句はありませんよね?」


「なっ、何故そうなる!? フジ、コイツを追払え!!!」


「し、しかし組長……お嬢様の意見を聞かれては?」


「う……うむ……ナッチはどうしたい?」


「私は……近くにいて欲しいな」


「決まりね。私は離を使いますから。私の事はいないと思ってくれて結構。夏、ハナちゃん、向こうでお茶にしましょう」


「わーい♪ 飲むー」


「二人とも、おじいちゃんとケーキを食べよう!!」


「ケーキ!!」


「……あははっ、じゃあお茶を飲みながらケーキが食べたいな。だからみんな一緒に……ね?」


「……そうね、そうしましょうか」


「そうだな……ナッチがそう言うなら……」


 夏ちゃんにとっての大切な家族であり、私にとっても大切な……あれ?


【気付いたか?】


 うん……いつかはそうなるのかなぁとか思ってたけど、案外すんなりとなるんだね。

 まぁまだ抗ってみるけど。


【うむ。出来れば心は男、身体は女という方がこうグッと来るよね】


 知らん。

 

【いけずぅ】



 ……俺と私。

 どちらも大切な自分だから、バランス良く生きていきたいな。


「ナツ、あーん……美味しい?」


「うん、美味しい。お婆ちゃん達もやったら?」


「そうね、毒でも盛って食べさせようかしら」


「フジ、これからは毒味を頼むぞ!?」


「フジ、そんな失礼な事しないわよね?」


 二人の板挟みで、フジさんが小さく見える。

 これは苦労が絶えないな……


 多くの別れを経験してきたからこそ、今多くの出会いに恵まれている。

 ……みんな、私は幸せだよ。

 お婆ちゃんになるまで、きっとあっという間だから……それまで待っててね。


「私花火が見たーい!!」


「よーし! フジ!! 花火師連れてこい!! デカイの打ち上げるぞ」


「はっ!!」


「このバカ共は……夏、止めて頂戴」


「あははっ、私も見たいな」


「全く……世話の焼ける子達ね」


 なんて言っているお婆ちゃんも笑顔で。

 これからは賑やかになりそうだ。

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