第28話 溝口ハナ②


 私、溝口ハナ。

 昨日は15歳の誕生日だった。

 大好きな人にお祝いされて、一緒に過ごせて、とっても幸せ。


 そんな大好きな人が今日15歳になった。

 誕生日が次の日だなんて……

 なんだか見えない糸を感じる。


 大好きなナツと私のママ、3人で街にお出掛け。

 夕飯は昨日行けなかったレストランを予約してある。

 楽しみ楽しみ♪


 昨日はナツが急に倒れ込んじゃって……

 元気そうだけど、心配。

 

 それにしても昨日の夜は……

 思い出しただけで顔が赤くなっちゃう。

 ああいう事をする為のホテルだなんて知らなくて……


 ナツはどんな風に思ったのかな。

 でもナツも幸せそうだったし、私も幸せだったし……


 お部屋に道具が売ってたから思わず買っちゃって。

 またナツに使ってあげたいな。


 ……ふふっ♪

 ナツ可愛かったなー。


「ん? どうしたの?」

 

「ちょっと昨日の事思い出してて……ね♪」


「昨日って……」


 襟足を摘んで照れるナツ。

 ママがいなかったらきっと抱きしめてた。


「二人とも仲良しだね。朝帰りなんてちょっと大胆だけど」


「ハナママ、私が悪いんです。私が急に倒れちゃったから……」


「ナツは悪くないよ! 私も悪くないし!」


「ハナ……」


「……二人とも、これから一緒にいるにあたって覚えておいて欲しい事があるの。みんながみんな、二人の事を祝福するとは限らない。嫌な思いもすると思う。あなた達も悩む事が出てくる。それでも── 」


「関係ないよ、ママ。私達は女の子同士だから子供は出来ないし、結婚だって出来るかどうかも分からない。それくらい分かってる。それでも、私はナツと一緒にいる。死ぬまで一緒なんだもん。私の全てを捧げられる人が出来たの。茨の道だって、綺麗な花は咲いてるんだから」


「……よし。じゃあママから二人にお願い。何があっても、手を取り合って。何があっても、二人一緒にいる事。よく話し合う事。夏ちゃん、この子は私に似て頑固だから一度言ったら曲げないと思う。あなたに覚悟はある? 責任とれる?」


 不意に聞かれて少しナツは驚いていた。

 でも目はママを真っ直ぐ見てる。

 

 ナツは照れている時以外、目を逸らさないで聞いてくれる。

 

「私は……ハナと一緒に……」


 ナツは言葉に詰まり、目に涙を浮かべていた。

 どうしたのかな……

 大丈夫かな……


「ごめんなさい……責任は取れません……」


 涙を流しながら、ナツは手を繋いでくれた。

 その姿に、心を揺さぶられる、


「私がこれからハナといる事でハナは……一般的な幸せが得られない。私がハナからそれを奪ってしまいます。いくらハナが幸せだからといって……どれだけハナを幸せにしても、それは責任を取る事だなんて言えません。それでもハナは隣で笑ってくれるから……私は死ぬまで……ハナに後悔させない。ハナより長生きをして、最後まで笑わせたい。自分勝手でごめんなさい、好きなんです。ハナが……好きなんです」


 ナツの真っ直ぐな瞳と、真っ直ぐな言葉はいつも私の胸に突き刺さる。

 その言葉に、私も涙が出ちゃう。


 ママも少しだけ目に涙を浮かばせている。

 ママのこんな顔、初めて見た。


「うん。とっても…………いい答えだと思う。責任、なんてイジワルな事言っちゃってごめんね。人は他人の責任なんて取れない。そんな簡単なものじゃないの。夏ちゃんの気持ちは私にもハナにも伝わったよ。その気持ちを大切に育てて……いつまでも笑顔でいてね。辛気臭い話はお終い! 夕飯に行くよー!!」


 私、幸せだ。

 ママにもナツにも愛されている。


 ナツ、どんな事があっても私がナツを幸せにするよ。


 私に恋してくれた事、絶対に後悔させないんだから。


「ナツ、誕生日おめでとー!」


 相変わらず、照れると襟足を摘むナツ。

 可愛くて、愛しくて。


「あははっ、ありがと♪」


 今日が一回目。

 これから何十回もこうしてお祝いをする。


 生まれてきてくれて、ありがとう。

 好きになってくれて、ありがとう。


「ハナ、私幸せだよ。いつもありがとう」


「……ふふっ、もっともーっと幸せにしてあげる♪」


 ナツ、誕生日おめでとう。

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