第27話 長く深く、濃く強く


 歩くたびに揺れるフリフリ。

 だからフリルっていうのかな?

 っていうか、こんな服を着ている人っているのかな……


 俺だな。


 人々の視線が強烈である。

 恥ずかしい。

 ただひたすらに、恥ずかしい。


「ナツ、今度はどこ行こっか……ナツ?」


「私、変じゃないかな?」


 頼むから変って言ってくれ……


「すっ………ごく可愛い!!」


 あぁ……終わった。


【\(^o^)/オワタ】

 

 割り切れないまま街をぷらぷら。

 ガラス越しに映る自分をボンヤリと眺めていると、ガラスの奥には色とりどりの花がズラリ。


「……ハナ、お花屋さん見てかない?」


「うん! 私もそう思ったんだー♪」


 ふとした時に、合う波長。

 見えない何かで結ばれている感覚。


「ハナ、今日って……ハナの誕生日だよね?」


「ふふっ♪ デートしてくれてありがと」


 その笑顔に、時間が少しだけ止まる。

 胸の奥が、抉られるように疼く。


「ナツ……?」


「ご、ごめん……今日の誕生花って何か知ってる?」


「うーん……ヒマワリとか?」


「今日はね、ザクロとサルビアなんだって。どっちも綺麗な赤色で……ハナにピッタリだよね」


「私に……」


「どの花よりも、ハナの髪の色が一番綺麗だけどね。私、ハナの髪の色好きだなー」


「……」


 今までの笑顔が一転、どこか悲しげな顔でガラス越しの姿を見つめるハナ。

 

「ごめん……何か気に触った……?」


「……私ね、この国に来てこの髪の色が何回も嫌になったの。他の人と違うから、みんなチラチラ見てくるし……嫌な思いをたくさんしたの。でも私は生まれたときからこの色だし、ママだってそうだし……私自身を否定されてるような感覚で……本当は大好きな髪なのに……」


「ハナ……」


「だから、大好きな人にこの髪を褒めて貰えてすっごく嬉しかった。ナツ、ありがとう♪」


 とびきりの笑顔でキスをされると、堪らずに強く抱き締めた。


 ゴスロリ少女に赤毛の子。

 少し風変わりだけど、二人だけの世界なら周囲の目も気にならない。


【その服でレストランに行けまふ?】


 うっ……

 

【見てるこっちが恥ずかしいから着替えて、どうぞ】


 そんな事言ったって……


「…………あのさハナ、この後レストラン予約してあるんだけど……ちょっと背伸びした格好で行かない? お揃いとかでもいいし」


「えっ!? わぁ、嬉しい……じゃあお揃いで大人っぽくなりましょー♪」


【ものは言いようですな】


 ……ですな。


 ◇  ◇  ◇


 日も暮れ始め、予約しているレストランへ向かう。


 中学生には少し敷居が高く感じるスペイン料理店。

 今日はタイミング良くフラメンコショーが行われるらしい。

 ハナママには感謝しきれないや……


「ナツ、ここテレビで見る所だよ!! わー……なんだか大人みたいだね♪」


「あはは、大人になっても一緒に来ようね」


「うん! ナツ大好き♪」



 ふと、思う。


 この世界の夏ちゃんだったら、今いったいどんな気持ちになるのだろうか。


 夏ちゃん……

 俺はナツになれてるかな?


 もしこの体に少しでも夏ちゃんの何かが残ってるなら……この瞬間、幸せな気持ちを一緒に感じて欲しい。


 夏もナツも、同じ一人の人間だから。


【…………】


 俺の中に流れる何かが反応した時、意識が遠のいた。


 ハナが何かを言っていたけど上手く聞き取れない。


 ハナの……誕生日なのに…… 


 せめて────



 ◇  ◇  ◇



「……あれ、ここは……?」


 目が覚めると、見たことのない天井が目線の先に。

 そういえば、この身体になった時もこんな感じだったっけ……

 

「ナツ……私の事、分かる……?」


「ハナ……?」


「良かったー!! 心配……したんだから……」


 泣きながら抱きついてくるハナ。

 ここは……ベッドの上?


「ナツが……元の世界に行っちゃったのかと思って……私……私……」


 ハナの瞼が腫れている。

 ずっと泣いていたんだ……


「ごめん……あっ、今何時!?」


「もうすぐ零時だよ?」


「良かった……ハナ、誕生日おめでとう」


「もう……そんな事いいのに……でもありがと♪」


 そのまま押し倒されて、二つに重なる。

 長く深く、濃く強く。


「ハナ……ここどこ?」


「近くにあったホテルだけど……お風呂は光るしベッドは動くし……なんだか面白いホテルだね」


【連れ込み宿ですな】


 いつの時代の言葉だよ。

 

「ナツが重かったけど……なんだかナツの色々なものを背負えた感じがして嬉しかった。ちゃんと手、離さなかったよ」


「ハナ……ごめんね、せっかくの誕生日なのに……」


「私、幸せだよ。だから気にしないで?」


「うん……」


 優しいキス。

 ベッドに備え付けの時計から、零時のアラーム音が聞こえる。


「ナツ、誕生日おめでとう」


「え?」


「八月八日はナツ、あなたの誕生日だよ。私と一日違い……ふふっ♪ 運命的だよね」


 そういえばそうだった……

 ホント、疎いんだな。


「お家にプレゼントがあるから……今あげられるものがないや……」


「気持ちだけで嬉しいよ。ありがと、ハナ」


「……」


 姫は納得のいかない様子。


 暫くして、閃いたと言わんばかりの表情で手を叩き、ハナは徐に服を脱ぎだす。


「ちょっとベタだけど……プレゼントは私、なんちゃって♪」


 葉月夏、十五歳。

 初めての誕生日は大好きな人と一緒に。

 きっと、これからも。

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