第27話 二回目の十五歳、初めての十五歳


 人々の視線が強烈である。

 恥ずかしい。

 ただひたすらに、恥ずかしい。


「ナツ、今度はどこ行こっか……ナツ?」

「わ、私、変じゃないかな……?」


 頼むから変って言ってくれ……


「すっ………ごく可愛い!!」


 あぁ……終わった。


【\(^o^)/オワタ】

 

 割り切れないまま街をぶらぶら。

 ガラス越しに映る自分をボンヤリと眺めていると……ガラスの奥には色鮮やかな花が幾つも飾られていた。


「ハナ、お花屋さん見てかない?」

「うん。私もそう思ったんだー♪」


 ふとした時に合う波長。

 見えない何かで結ばれている感覚。


「ハナ、今日って……ハナの誕生日だよね?」

「ふふっ♪ デートしてくれてありがと」


 ハナの笑顔に……胸の奥にある何かと共鳴するように、左目が疼いている。 


「ナツ……?」

「ご、ごめん……今日の誕生花って何か知ってる?」

「うーん……夏だしヒマワリとか?」

「今日はね、ザクロとサルビアなんだって。ほら、見てみて。どっちも綺麗な赤色で……ハナにピッタリだよね」

「私に……?」

「どの花よりもハナの髪の色が一番綺麗だけど。私、ハナの髪の色好きだな」

「…………」


 今までの笑顔が一転し……ハナは遠くを見つめ、初めて出会った時に似た顔をしていた。

 

「ごめん……何か気に触った……?」

「…………私ね、この国に来てこの髪の色が何回も嫌になったの。みんなチラチラ見てくるし……嫌な思いをたくさんしたの。でも私は生まれたときからこの色だし、ママだってそうだし……私自身を否定されてるような感覚で……本当は大好きな髪なのに……」

「ハナ……」

「だから、大好きな人にこの髪を褒めて貰えてすっごく嬉しかった。ナツ、ありがとう♪」


 とびきりの笑顔でキスをされると、堪らずに強く抱き締めた。


 賑やかしだけでは申し訳ないので、店内を散策中。

 

「ハナ、この髪留め可愛くない? 絶対似合うよ。私買ってくるね」


 ブルースターの花を模した髪留め。

 会計を済ましハナに渡すと……頬を赤く染めてそれを私の髪に付け微笑んだ。


「ふふっ、ホントだ…………可愛いね」 


 誰の誕生日か分からなくなってしまうけど……ハナが喜んでくれるならなんだっていいや。

 

 ◇  ◇  ◇  ◇


 日も暮れ始め、予約しているレストランへ向かう。中学生には少し敷居が高く感じるスペイン料理店。

 今日はタイミング良くフラメンコショーが行われるらしい。


「ナツ、ここテレビで見る所だよ!! わー……なんだか大人みたいだね♪」

「大人になっても一緒に来ようね」

「うん! ナツ大好き♪」


 ふと、思う。


 この世界の夏ちゃんだったら……今いったいどんな気持ちになるのだろうか。

 ……もしこの体に少しでも夏ちゃんの何かが残っているのなら……この瞬間、幸せな気持ちを一緒に感じて欲しい。


 夏もナツも、同じ一人の人間だから。


【…………成程ね】


 身体の中に流れる何かが反応し……左目から涙が溢れ出る。次第に視界が歪んでいき、目の前は真っ暗になっていく。

 ハナが何かを言っているのに上手く聞き取れない。

 ハナの誕生日なのに……せめて…………


 ◇  ◇  ◇  ◇


「……………あれ? ここは……」


 目が覚めるとハナの顔が見えて……涙の雨がポタポタと降ってきた。

 どうやらハナの膝の上で寝ていたらしい。場所は……店に行く途中にあった公園のベンチだ。

 

「ナツ……私の事、分かる……?」

「ハナ……」

「良かった……心配……したんだから……」


 泣きながら抱きついてくるハナ。

 瞼が腫れるほど……泣いていたらしい。


「ナツが……元の世界に行っちゃったのかと思って……私……私……」

「心配させちゃってごめんね」


 辺りは暗く、通行人の影はない。

 どれ位時間が経って……………


「い、今何時!?」 

「もうすぐ零時だよ?」

「良かった、間に合う……ハナ、誕生日おめでとう」

「もう……そんな事いいのに……でもありがと♪」


 そのままハナの顔が近づいて……唇が重なり合う。

 大人のキスに、互いの顔は赤く染まる。  


「……ナツ、お誕生日おめでとう」

「えっ? 私の……?」

「八月八日はナツ、あなたの誕生日だよ。私と一日違い……ふふっ♪ 運命的だよね」


 そういえば……そうだったっけ……


「お家にもプレゼントがあるんだけど……今渡せるもの、渡すね」


 そう言ってハナは深呼吸して、おでこ同士を擦り合わせた。


「全部あげる」

「えっ……?」

「私の全部……ナツにあげるね」


 二回目の十五歳、初めての十五歳。

 蒸せる月夜に……何度も唇を重ね合わせた。

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