第26話 ゴスロリナツちゃん


 今日は八月七日。

 何か忘れてる気がするぞ?

 何だっけな……


「夏ちゃん、ちょっとちょっと」


 ハナの母さんに手招きされる。

 不安げな顔をしているが、どうしたのだろうか。


「どうしました?」


「今日って何か準備してる?」


「準備……?」


「今日ハナの誕生日だけど……忘れてたでしょ」


「!!?」


「やっぱり……夏ちゃんそういうの鈍そうだったから」


「ど、ど、どうしよう……」


「…………よし。スマホに送っておいたから見ておいてね。19時で予約しておいたから」


 誰の連絡先も登録されていなかった夏ちゃんのスマホ。

 今では大切な人(ハナ、ハナママ、おじいちゃん)が登録されている。

 あれ、この店……


「良い雰囲気のお店だから。あとは自分で考えるのよ?」


「は、はい……」 


 この辺りでは有名なスペイン料理の店。

 少し敷居が高い所だが、まぁ間違いない店である。

 とりあえず店に連絡をいれて、ケーキを予約しておくか。

 あとはプレゼント……


 なにがいいのかな。

 ホント、こういうのには昔から疎かった。


 なぁ、なにがいいと思う?

 

 …………


 最近アイツが頭の中に現れない。

 この前の神社で出てきたけど……

 どうもこの不可解な現象にアイツが関与しているみたいだ。

 あの神社もなにか関係がありそうだし。


「夏ちゃん、そんなに深く考えない事。もし悩むんだったら相手の顔を思い浮かべて。そしたら自然と答えが出てくるんじゃないかな?」


「ハナの顔……」


 思い浮かべると、自分の顔が赤くなっていく感覚がした。

 思わずパタパタと手で顔を扇ぐ。


「可愛い♪ いいなぁ純粋で。そんな顔見たらハナも喜ぶんじゃない?」


「そ、そうですか……?」


 2階からハナが降りてくる。

 姫は今日も元気いっぱいだ。


「なになにー!? 何かあったのー?」


 なんだか嬉しそうな顔をしている。

 これは誕生日を期待しているのかな……?


 答えは出ないけど、アイツなら行けっていうだろう。

 ……いつの間にか俺の中で大きな存在になっていたんだな。


【グフフ……(*´ڡ`)】


 前言撤回。

 っていうかいるじゃん。


「ナツ、どうしたの?」


「えっ? あー……」


 チラッとハナママの方を見ると、ウィンクをして促してくれた。


「あのさ……デート、しない?」


 ◇  ◇  ◇


「〜♪」


 二人で街をぶらぶら。

 鼻歌を歌ってご機嫌なハナと、俯く俺。

 ハナは、今日という日を期待して楽しみに待っていたんだろう。

 それなのに俺は……


【切り替えろ!! 目標はただ一つ!! 目の前の少女のハートを射抜くのだ♡ 言うなれば愛の狩人よ!!】


 この騒がしい感じも久々だ。

 まぁ、確かに一理ある。

 

 ハートを射抜く、か……


「ねぇハナ、ちょっとお願いがあるんだけど」


「ん? なぁに?」


 顔を傾け、頭の上にハテナを浮かべるハナ。

 滅茶苦茶可愛い。


「私に似合う服選んでよ。その……か、可愛いやつ」


「えっ? いいの!? でもナツ可愛いの苦手じゃ……」


「今日は……その……可愛くなりたくて」


【萌キューン♡】


「もうすでに可愛いよ。ナツ……キスしたい」


 往来の激しい街中。

 いつもなら人通りの少ない所に行くけど……

 今日は特別な日だから。 


 そっと目を閉じる。


「いいよ。おいで、ハナ」


 ……


 待てどハナが来ない。

 チラッと目を開けハナを見ると、顔を赤くして両の親指同士をくるくる回していた。


 その愛しい姿に、気持ちが溢れ出る。


 我慢できずこちらからキスをした。


 ◇  ◇  ◇


「ナツ、あんな所で恥ずかしかったよ……」


「ごめんね、つい……」


 気を取り直して可愛い服探し。

 自分なりに可愛い服は見つかるのだが、ハナ好みではないらしい。

 

「うーん、どれがいいかなぁ」


 あのゴリゴリの可愛い系だけは勘弁してほしいな……

 うわぁ……あの服見てるし……

 いや、どうなの?それ。

 手にとってる……

 ニコニコしてこっちに来てるけど……


「ナツ!! これどうかな!!?」


 リ○ちゃん人形でもこんな服着ないと思う。

 でもハナの嬉しそうな顔を見ると……


「うん、じゃあ着てみよっかな」


 フリフリのたくさんついたゴスロリワンピース。

 死ぬほど恥ずかしい。

 

【プッ……( ´_ゝ`)】


 笑いたきゃ笑え。


「ハナ、どうかな?」


「可愛いー♪ ナツ、すっごく可愛い。この服で決まりだね!!」


 というわけでゴスロリナツちゃんの誕生である。

 この服でデートか……

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