第23話 憧れていたこの姿


 カンカン!!


 ……なんの音だろう。


 カンカン!! ────っ!!


 誰かが呼んでいる……?


「ほらー夏ちゃん! 起きなさーい!!」


 耳元でフライパンを麺棒で叩くハナママ。

 なんだか楽しそうだな……


「お……おはようございます」


「うん、おはよ。ご飯出来てるよ?3人で食べよう」


 ◇  ◇  ◇


「ナツ、おはよー♪」


「おはよう、ハナ」


 昨夜の事を思い出し、顔が熱くなる。

 ハナはそれに気がついたのか、優しく俺に微笑んだ。


 それを見てニヤつくハナママ。

 あれ?バレてる……?


【お主の鳴き声、大きいからのぉ】


 うっさいな……


「朝から仲良しだね、あなた達。ハナから好きな人が出来たって聞いた時は、どんな男だろうがぶっ飛ばしてやろうって思ったけど……こんなに可愛い子じゃ何も言えないね」


「ね♪ ナツ可愛いよね」


 微笑む二人を見て、親子なんだなと改めて思った。

 この輪に入れてもらえた幸せを噛み締めていると、ハナママが嬉しそうな顔で何かを準備し始めた。


「ハナ、夏ちゃん、目瞑ってて」


「こうですか……?」


 言われた通りに目を瞑る。

 でもハナは薄目で見てたみたい。


「わー!! ママ、これって……」


「ハナ、ちゃんと瞑ってなさい! もー、仕方ない。夏ちゃんも見ていいよ、ほら」


 目を開けると、そこには可愛らしい浴衣が二着。

 最近可愛いものを見ると、胸がざわつく。

 少しずつ、女子になっているのだろうか。


「こっちの色絶対ナツに似合うよ! ママ、これ着ていいんだよね?」


「ふふっ、どうぞ」


「ナツ、私の部屋で着替えよ! ママは見ちゃダメだからねー!!」


「はいはい」


 浴衣を見たハナはテンションMAX。

 こういうのが好きなのかな?


「ナツ、着てみて」


 紺色の生地に、白い柄の向日葵がお洒落にあしらわれている。

 可愛いな……


「でも私帯巻けないし……」


 もじもじしているとハナが手伝ってくれた。

 手際よく、帯を後ろで結ぶ。

 どこかで習っていたのだろうか。


「ど、どうかな……?」


 恥ずかしくてもじもじ。


「すっ………ごく可愛い!! 写真撮るから動かないで!!」


「ハナ、恥ずかしい……」


「……ダメ、我慢出来ない」


 そのままベッドに押し倒されて、キスをされる。

 なんだかさっきから積極的だけど……

 

「ハナ……?」


 おでこ同士をつけたまま、目を閉じ幸せそうな顔でハナは語りだした。


「私ね、日本に行くってなった時に日本の事を色々と勉強したんだ。それで……何かの映画だったんだけど、可愛い浴衣を着てお祭りに行くカップルが描かれてて……夜のお店の灯りが綺麗で、お祭りの最後は手を繋いで花火を見るの。とっても……憧れた。私はいつか日本で大切な人が出来て、この映画のように浴衣を着て……そんな事を何回もイメージしてた」


 自然と口が重なり、何回も求め合う。

 合間合間に、ハナは話を続けた。 


「ナツのこの姿は、私が1番初めに見たかった。だから私の部屋で着替えてもらったの。自分で着るために帯の結び方を覚えたけど……ナツに結べて、私幸せだよ」


 数え切れない程のキス。

 その甘い雰囲気に、完全に呑まれる。


「私……恥ずかしいけど、ハナが気に入ってくれるなら何だって着るよ。ハナに好かれる為なら……何だって出来るから」


 俺の中に流れる何かが疼く。

 

「ナツ……嬉しい。毎日ナツを見てるけど、今日が1番可愛いよ」


 この感覚はなんだろう。

 得体のしれない高揚感。

 

「ハナ……来て」


 わざと浴衣をはだけさせ、肩と胸元を露出する。

 戻る必要もないけど、もう戻れない。


「ナツ、大好き── 」


 誰かに求められるのがこんなにも幸せだなんて、この体になるまでは分からなかった。

 女として、目覚めつつあるのかもしれない。

 それでも……

 それでもいい。

 溺れる程……ハナに浸かれるなら、それでいい。

 

「……ナツ、涙出てる」


「幸せだからだよ。ハナ……大好き」


 既に幸せいっぱいだけど、今日はこれからが本番。

 ひぐらしが鳴き始める頃。

 この街に、号砲花火が鳴り響く。

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