第21話 この戦場、逃げ場なし


 楽しい時間はあっという間。

 幸せいっぱいで、帰路の電車を待つ。


【素晴らしきかな、JCは】


 あれ、久々じゃん。

 何してたの?


【ワシも忙しくてのう。此度の旅、絶頂絶頂やれ絶頂。カラッカラじゃ】


 そう……

 

【良き鳴き声、良きヨガリ……ごち!!】


 恥ずかしいから、やめなさい。


【それに良いタイミングで少し思い出したのでは?】


 それはまぁ……

 あれ?もしかしてお前……


「ナツ、どうしたの?」


「ご、ごめんごめん。ちょっと考え事してて……」


「……大丈夫?」


 大きな瞳に見つめられる。

 その瞳に吸い込まれてしまいそうで……

 いつかは……いつかは本当の事を言わないといけないよな。


「うん、大丈夫。またどこか一緒に行こうね」


「うん! 行くー!! 私ね今度はあそこ行ってみたいんだー」


 もう戻れない。

 この子無しでは……


「あれ? 電話だ……誰からだろう……えっ!? ママからだ……もしもし……うん……え? うん、一緒だよ……うん……今日!? 分かったよ! 二人で待ってるね」


 ハナの母親……

 ん?二人で待ってる?


「ママ、今日の夜帰ってくるんだって! またすぐに出張みたいだけど……なんだかナツの事気になってるみたい」


「そ、そうなんだ……」


 なんだか嫌な予感がするよ……


 ◇  ◇  ◇


「もうすぐ来るかなー。ママに会えるの久しぶりだからなんだか緊張しちゃう」


 ハナの母親……聞いた話では、バリバリのキャリアウーマンで男嫌い。

 どこかの優秀な遺伝子を貰って人工授精しハナを産んで、世界各地を転々とした。

 日本が好きだからって理由で日本人と書類上だけの結婚をし、ハナを養子として帰化。

 それ以来、日本でハナと二人暮しをしている。

 見た写真ではハナを大人にした感じで、とても美人だった。


【これは手強そうデスナ】


 そうね……そうよね……


「あっ、帰ってきた! ナツ、ママ来たよ!」

 

「ただいまー! ハナ、寂しかったよね、ごめんね」


「ママー……寂しかったけど、でもナツがいたから寂しくなかったよ♪」


 チラッと横目で見られる。

 するどい眼光。

 これは俺、狩られるな。


「……話はよく聞いてるよ。ハナ、二人で話したいから部屋に行ってなさい」


「えっ……でも……」


「いいから、行きなさい」 


 怖いなー……

 正直逃げ出したいけど。

 この戦場、逃げ場なし。


「イヤ! 私ナツと一緒にいる!!」


「……」


 ハナの母親は一瞬驚いた表情をしたがすぐ真顔に戻った。

 ホント、隙が無さそうだ。


「ママがナツに何を言うのか分かんないけどナツは……ナツは私の恋人なんだから。誰にも……邪魔させないんだから」


「……そんなに構えなくても大丈夫よ、ハナ。ちょっとだけ話すだけだから。ほら、お部屋に行ってらっしゃい」


「……うん。ナツ、あとでね」


 静まるリビング。

 退治するのは虎と猫。

 嗚呼神よ、どうかこの哀れな仔猫に祝福を……


【呼んだ?】


 帰れ。


「さて、葉月夏さん。何から話しましょうか」

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