第15話 たまには女の子らしく


 日曜日の朝、蝉の鳴き声で目を覚ます。

 エアコンの風が心地よい。


「ナツ、おはよ」


 ハナの笑顔は今日も眩しい。

 頭の中はまだ寝ぼけている。


「ハナ……」


「ふふっ、寝ぼけてるの?」


 おでこにキスを貰い、少しずつ現実を感じる。

 夢よりも幸せな現実。


【とうとうその身体を受け入れたか!! 神様感激!!】


 朝から頭にハエが湧く。

 殺虫剤でも撒きたいくらいだ。


「ナツ、ご飯出来てるよ。顔洗って一緒に食べよ?」


 良くできた子。

 大人だった筈の俺よりもしっかりとしている。

 いや、俺がズボラなだけか。


「ナツ、今日は何しよっか」


「ハナは何したい?」


「あのね、プ……」


「プ?」


「プール、いかない?」


 ◇  ◇  ◇


 という訳でプールにやってきた。

 県外からも訪れる人が多いここは若者のメッカ(死語)だ。

 

「ナツ、どうしたの? 早く行こ?」


「うん……でも……」


「……恥ずかしいの?」


「……うん」


 恥ずかしくてもじもじしてしまう。

 仕方ないよね?男だったんだし。

 おかげで更衣室から出られない。  


【お主は女! お主は女!! お主は女!!!】


 そうだな、よし。

 俺は女、俺は女……


「ほら、ナツこれ羽織って」


 ハナが優しく上着を掛けてくれる。

 所謂ラッシュガードってやつだ。


「ごめん……」


「ううん、その……照れてるナツは他の人に見せたくないっていうか……」


「ハナ……」


【イイヨイイヨ114!!! 酸いも甘いもアオハルよ!!!】


「それにナツの身体も……見せたくないな……」


【今日は可愛いJCナツちゃんだ。今宵のおかず、頼んだぞ】


 言ってる意味はよくわかんないけど。

 可愛い女の子ね……

 なってみるか。


「うん……私も、ハナ以外の人に……見せたくない……」


【キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!】


「ナツ── 」


 強く抱きしめられる。

 それに応えるように、女の子らしく優しく手を回す。

 

「ナツ、可愛すぎだよ……気持ちが抑えられない……」


「……うん、いいよ」


 可愛らしく、甘えた声で。

 ハナには効果バツグンだ。


 でもここは更衣室。


「ハナ……人に見られちゃってるよ……?」


「あっ……」


 お互い顔が赤くなる。

 手を繋ぎ、そそくさと更衣室を出た。


 ◇  ◇  ◇


「ナツ、ごめんね……その……イヤじゃなかった?」


 今日は女の子らしく。


「ハナになら……何されてもいいよ」


【堪んね】

 

「もう……今日はどうしたの? 嬉しいけど……」


「あははっ、やっぱり変かな?」


「……ううん、変じゃない。でもドキドキしちゃうからそういうのはお家で……ね?」

  

 やっぱり、本物には敵わないや。


「ごめんごめん、たまには女の子らしくしよっかなって思って」


「……ナツは誰よりも可愛い女の子だよ?私の中で誰よりも」


「ハナ……」


 男じゃないのが残念だって思う事も多いけど。

 でも、女の子ってイイな。


 プール開きの始まりだ。

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