第14話 先の事


「ナツー、テストどうだった?」


「まぁまぁかな」


 中3のテスト、余裕である。

 

【おや、必死に教科書を丸かじりしていたのは誰だい?】


 うっさいな。

 

「進路とか色々決めないとだよね。ナツはどうするの?」


「進路……」


 そうか、もしこのままだと高校に行かないといけないのか……

 いやいや弱気になるな。

 

 ……JKか。


【うんうん、イイよイイよ!! JK!!】


 まぁ楽しそうではあるな。


【お主も随分と受け身になってきたな!! 神様、嬉しい】


 頭のなかに湧いてくるハエ程度にしか思ってないからね?


「ハナはどうするの?」


「私は……その……」


「ん?」


「ナツと同じ高校に行きたいな……なんて」


「ハナ……」


 ◇  ◇  ◇


「ムリだろ。お前出席日数全然足りないし」


「なっ!?」


 無精髭に無愛想なこのおっさんは進路相談の教師だ。

 他の教師と違ってよそよそしくしてこない良い奴である。


「当たり前だろ。最近のテストは学年で一番みたいだけどそんなの意味ないからな。っつーかまだイジメられてるのか?」


「虐め?」


「えっ?」


「えっ?」


「……」


「……」


 オウム返し。

 互いに無言。

 埒が明かないな……


「実は記憶を無くしてまして……」


「えっ、マジで?」


「マジです」


「……ちょっと煙草吸っていいか?」

 

 いや、駄目だろ。

 うわホントに吸ってるよ……


「( ´ー`)y-~~フゥ……マジで?」


 コイツ、本当に教師か……?


「マジです」


「……まぁその方がいいのか。お前、高校に行きたいのか?」


「行きたいです」


「……俺みたいな凡人には縁のない話なんだがな、この世は理不尽な世界だ。大人になれば嫌というほど分かる」


 うんうん、あの頃は辛かったなぁ……


「とくにこの国では生まれが物を言う。どんなに頭がパープーでも生まれが良ければ政治家にだってなれる。権力者はどんな事実も捻じ曲げられる」


【トリモロス!!】


 やめーや。

  

「ま、それは選ばれた人間だけなんだが……お前もそちら側だ。俺が言えるのはここまで。あとは頑張れ」


「え、それだけ?」


「充分だろ。何かあったら俺に言え。記憶がないなら何かと不自由だろ。他の教師には適当に言っといてやるから」


「おっさん……」


「先生だ、先生。谷先生だ。覚えたか?」


「ありがとう、ヤニ先生」


「ございます、だからな。あとタニだ」


 権力か……


 ◇  ◇  ◇


「ナッチー、いかがお過ごしー?」


 という訳で組長ことおじいちゃんの家に来た。

 なんだかここに来ると落ち着くな。


「実は……」


 ◇  ◇  ◇ 


「高校に行きたいけど出席日数が足りない……なるほど……」


「ナツ可哀想……」


「おじいちゃんの力でなんとかならないかなー、とか……」


「……ちょっと待ってなさい」


 するとおじいちゃんは誰かに電話をかけ始めた。

 すげぇ、黒電話だ。


「……おう、俺だ。あぁ、でな俺の孫の事なんだが……そう、あの時生き残った子だ。それが高校に行きたいって……そう、そう、だから……なんとかなるか?……いやいいって事よ、お互い様だろ……おう、んじゃあ頼んだぞ」


 おじいちゃんは指でオッケーをしてる。

 流石は日本屈指の組長だ。


「……ナッチは高校に行って何をしたい?」


「えっ? なんだろう……ハナと二人で普通に……普通に……」


 ふとハナの方を見る。

 気づいたハナは優しく微笑んでくれた。


「ハナといられれば、それでいいかな。一緒に色々な想い出を作って……」  


「ふっふっふ、いい答えだ。ナッチ、その子となら楽しく暮らせそうかな?」


「うん、ハナとなら……ね?」


「ふふっ、ね♪」


 先の事は分からない。

 でも、ハナと離れるなんて事は考えられない。

 現実逃避かもしれないけれど……

 夏ちゃんの事、周りの事。

 知らなければならない事は多いけど。

 

 正直、そんなのどうでもよくなる程に、ハナという存在は俺の中で……


「ナツ、ずっと……ずっと一緒にいようね」


「うん……ずっと、ね♪」 


 まもなく15歳。 

 青春はこれからである。

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