第13話 甘くて優しい青春の味


「夏……どうして……」


 何だ……この記憶…… 

 

 何でみんな血塗れに……


「お前が殺ったんだろ?」

「人殺し」

「ヒトゴロシ」


 ◆  ◆  ◆  ◆

 

「ハァハァ……夢か……」


 夢にしては……生々しかったな……

 

「ナツ、どうしたの……?」

「ごめん、起こしちゃった? ちょっと嫌な夢を見て……」

「…………おいで」


 吸い寄せられるようにハナに寄り添う。

 動悸が収まらない。得体のしれない恐怖感に身体が震えてしまう。

 夢…………だよな?


「よしよし。私がいるよ、ナツ」

「……うん」


 ハナの温かさと匂いに包まれて、徐々に呼吸が落ち着いてくる。情けなくも強く抱きついてしまい……それ以上に強く抱き返されて、気がつけば頬には涙が流れていた。


「ハナといると……なんだか安心出来る。ごめんね、甘えちゃって」

「ふふっ、いっぱい甘えていいんだよ?」


【JCナツよ、今こそ可愛い女子を演ずるのだ!!】


 いいよ、恥ずかしいし。

 っていうかそういう場面じゃないでしょ。


【相手もそれを求めてるやもしれん。もはやお主だけの問題ではないのだ】


 それっぽい事言っちゃって。

 本音は?


【俺本当は男なのに!! 身も心も女の子になっちゃう!! っていう感じが堪らなイ゛ェアアアア!!!】


 こいつやべー奴だ。


 でも、相手が求めてる……そうなのかな……


 月明かり漏れるカーテンを背にしてベッドの上へと座り……同じ様にしてくれたハナの肩にもたれ掛かる。

 いつもは胡座をかいてるけど、今日は女の子らしく。それから、少しだけ高めの声で甘く。


「ハナ……」


 上目遣いは恥ずかしいけど……こんな感じ……なのかな。


「ナツ……すっごく可愛い。ナツ……」


 苦しい程ハナに強く抱きしめられるけど……これ程幸せな苦しみは無い。

 こういうのも……たまにならいいかもしれない。ハナが喜んでくれるなら。

 俺から目を閉じて、たまには心も女の子に。

 

【ふむ、ならば一人称は?】


 ……ハナが優しくおでこにキスをしてくれた。

 月明かりに照らされたハナがとても綺麗で、でもハナから見た私もきっと……

 月明かりに照らされて、火照った顔は少し涙目。私はきっと……可愛いのだろう。

  

 心の中も、キスも、いつもより一歩先へ。

 未知なる世界は、甘くて優しい青春の味がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る