第11話 夏の天気


「雨凄いねー」


「ハナも傘持ってないよね? どうしよっか……」


 下校しようとした所、雨に降られてしまった。

 夏の天気は変わりやすい。


「お嬢様、こちらをお使い下さい」


「フ、フジさん!? なんでここに!?」


「組長からのご指示です。お嬢様が学校にいる時はいつでも見守っていますから」


 そういえばそんな事言ってたっけ……


「では……」


 気がつけばいなくなっていた。

 まるで──


「忍者みたいだね」


「ね、同じ事思った」


 でもこの傘……


「一つしかないね。私いいからハナ使いなよ」


「なんで? 一緒に使お?」


 ◇  ◇  ◇


 二人で並んで傘に入る。

 肩と肩が触れ合うと、ハナの匂いが心を揺らす。


「ナツ、それじゃ濡れちゃうよ? もっとくっつかないと」


「そ、そうだよね……」


 ゼロ距離。

 雨音よりも、鼓動が勝る。


「……こうしてると、周りからどんな風に見えるのかな」


「どういう事……?」


「……ナツ、傘もっと下げて」


「こう?」


「もっと」


 下げすぎて傘の骨組みが頭に当たる。

 そして頬に温かくて柔らかな感触。


「ハ、ハナ!?」


「へへっ♪ こうすれば見られないでしょ?」


 確かに、傘のお陰で丁度顔が見られない。

 

「ナツ……」

 

 甘い声で呼んでくるハナ。

 こっちまで甘くなっちゃいそうで。


「ハナ、手繋ごっか」


「うん……でも手は外から見られちゃうよ?」


「……私達ジャージだよね。外から見たら男女の違い分かんないし、その……恋人同士に見られても分かんないし……」


「こ、恋人……」


 ハナから手を繋いでくる。

 お互いに言葉はないけど。

 視界の端に見えるハナの顔は赤く染まっていた。

 

 ◇  ◇  ◇


「あっ、雨止んだね」


「ホントだ……」


 寂しそうにするハナ。 

 どしたらいいのか、答えは一つだけ。


「……傘、差したまま帰ろっか」


「うん♪」


 日差しは強くなり、蝉たちが一斉に鳴き出す。

 夏の天気は変わりやすい。

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