第10話 二人だけの通学路


 朝の登校中


「ナツ、あの通りまでは手繋いでいこ?」


「うん。でもなんであそこまで?」


「だって誰かに見られたら恥ずかしいし……」


【ほぉ〜】


 朝から湧き出てこないで?


「じゃあ私とハナの秘密だね」


「ナツ……あのね、ナツが……」


「ん?」


「ううん、何でもない!!」


 ハナの顔が赤くなっていたけど、気が付かないフリをした。


 ◇  ◇  ◇


「ハナ、教室いかなきゃだから……」


 教室の前、廊下でこちらを見つめてくるハナ。

 逃さまいというその瞳、そんな気はさらさら無いけど。


「一緒がいいなぁ……なんでクラス違うんだろ……」


「……その分会えた時に嬉しいから、ね?」


「うん……」


 駄々る姿も可愛い。

 宥める様に頭撫でて、ポケットからあるモノを取り出す。


「……これ持ってて。私のハンカチ、私の匂いがついてるから。それから……ハナが寂しくなりませんように…………はい、どうぞ」


「ナツ……ナツの匂いだ……へへ♪」


 この可愛さ、KO寸前である。

  

「私頑張るね!! ナツ大好き♪」


「うん、私も」


 ◇  ◇  ◇


 あーあ、早く休み時間にならないかな。


【その身体も随分と板に付いてきたじゃないの】


 そんなんじゃないし。

 ちょっと休憩してるだけだよ。


【もし元に戻ったらどうする?】


 そりゃ嬉しい……

 嬉しい……よ?


【繋がりを持つという事はそれ相応の覚悟がいる。故に尊いのだ】

 

 急に真面目になるなよ。

 調子狂うじゃん。

 覚悟ね……


 ◇  ◇  ◇


 休み時間になってもハナがこない。

 なんだろう、胸騒ぎがするな……

 見に行ってみるか。


「──してよ!!」


 なにやら騒がしい。

 あれ?ハナの声?


「いいから返して!!」


「お前なにアイツとつるんでんだよ。おまけにハンカチ握りしめてニヤついて。そんなに大事か? ホレホレ」


「返して!! 返してよ…………」


「返してほしけりゃ取ってみオッフフッ!!?」


 後ろから思い切りキ○タマを蹴り上げる。

 潰れたって構いはしない。


「嫌がってるだろ? やめろよ。ハナ、大丈夫?」


「ナツ……ナツのハンカチ取られちゃって……ナツ……」


 人目も憚らず、ハナが泣き付いてくる。

 これはもう俺だけの問題じゃ……ないよな。

 ……覚悟ね。


「誰だか知らないけどな、文句があるなら私に言えよ。ハナがテメェ等になんかしたのか!? 私のハナを泣かしてみろ、許さねぇぞ!! 筋を通せ、分かったな!?」


 その場の全員が俯く。

 少し野蛮な言い方かもしれなかったけど、葉月夏というバックには何がついているのか、中学生でも理解出来ただろう。


「ハナ、おいで」


 ハナの手を引きその場から立ち去った。


 ◇  ◇  ◇


「ごめんねハナ、私のせいで……」


「……ナツ、私が朝言おうとした事なんだけどね……」


「ん?」


「ナツが記憶を無くしたのは、私と出会う為……なんて自惚れてるのかな、あははっ……」


 覚悟なんかないよ。

 ただ……


「私も……私もそう思うよハナ」


 ハナの手を握りしめる。

 今度はこちらから、逃さまいという瞳で。


「授業サボっちゃおっか。ハナの家でアイス食べよ?」


「食べる!! 私授業サボるの初めて……なんだかいけない事してるみたいだね♪」


「あははっ、いけない事だよ? でも二人一緒なら平気平気」


 ただ、この子の笑顔を隣で見ていたい。

 今はそれだけ。


「ハナ、手繋ご?」


「うん!!」


 誰もいない通学路。

 今は二人だけ。

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