第8話 ニコイチ


「ナツ起きて。学校に遅れちゃうよ?」


「うーん……あと5分……」


「起きないと……キ、キスしちゃうよ?」


「うん……いいよ……」


「えっ!? えっと……その……」


「……ふぁあ、よく寝た。ハナおはよ」


「あっ、もう起きちゃうの……?」


「ハナが起こしたんでしょ?」


「でも……だって……」


 少しずつ頭の中が回り始まる。

 ……そっか、そういう事か……


 ハナのおでこに軽くキスをする。


「おはよう、ハナ」


「うん♪ おはよ、ナツ」


 朝食を二人で食べて、二人で歯を磨いて、二人で着替えて。

 何をするにも二人で。


「私、誰かと登校するの初めて。相手がナツだから嬉しさ倍増だね♪」


「良かった。記憶がないから私もハナが初めてだよ」


「〜♪」


 ご機嫌なハナ。

 この笑顔は、隣にいる俺だけの特権。


【いいねぇ! いいよ!! こう、グッと来るね!!!】


 ……無視しよ。


【もうお主がなぜこうなったとか、どうでもいいんじゃない? この子といられればそれで良し(๑•̀ㅂ•́)و✧】


 ……


【2回目の人生、満喫していこうぜ? Viva!! JC!!】


 ……

  

【さあ学校についたぞ! 行くのだ!! JCナツよ!!!】


 うるせぇ!!

 頭ん中でウロチョロすんな!!


「ナツ……離れたくない」


「休み時間は会えるから、ね?」


「うん……」


 ハナは服の端を掴んで俯いている。

 ホント、可愛いな。


「……今日もお泊りしていいかな? そしたら頑張れる?」


「うん!! 頑張る♪」 


【尊いのぉ……神々しいのぉ……】


 お前だって神だろ。


「ナツ、また後でね」


 名残惜しくも教室前で分かれる。

 と言っても、隣の教室だけど。 


 さて、担任に夏ちゃんの家の事を聞いてみないとな。

 

【いいんじゃないの? どうだって】


 いや、よくないだろ。

 最低限の事くらい知る義務はある。


【つまりお主はJCであると認める訳ですな?】


 いや、そんなんじゃないけど……

 ……ん?なんかフラフラするな。

 それに朝から腹が痛い。


 よそよそしい視線の中、担任にこっそりと話す。


「すみません、ちょっとお手洗いに……」


 ……なんだか貧血みたいだ。

 トイレに向かうと、廊下の奥からハナが走ってきた。


「ハナ? どうしたの?」


「ナツが具合悪そうにしてたの見えたから……大丈夫?」


「なんか貧血っぽくて。あとお腹が痛い」


「……ちょっと待っててね」


 ハナは教室に戻り、何かを持って来た。


「ナツ、トイレ行こ」


 何故か優しくエスコートされる。


 ◇  ◇  ◇


 女性とは大変な生き物である。

 来月があるかどうかは分からないが、こんな事が毎月来るのかと思うと憂鬱になる。

 改めて、自分が女なんだと思い知らされた。


「ナツ、大丈夫?」


「うん……ごめんね色々と……」


「……よしよし、大丈夫だからね」


 ハナは優しく背中を擦ってくれる。

 色々と見透かされてるのかな。

 情けなさと恥ずかしさで顔が熱くなる。


「これ痛かったら飲んでね。ナツ2時間目体育でしょ? 私先生に言っておくから保健室で休んで。ね?」


「うん……そうしよっかな。ごめんねハナ」


 知らない体に知らない生活。

 孤独感が来てしまい、つい甘えたくなってしまう。

 本当に情けない。


「……今授業中だしここなら誰も見てないよね? ナツ、手繋ご?」


「……うん」


 この子がいないとダメな人間になってしまいそうで。

 でもそれが少し嬉しくて。


「じゃあまた後で来るからね、待っててねナツ」


「うん、待ってる」


 なんて言ってしまう。

 見も心も乙女である。


 ◇  ◇  ◇



「すみません、ちょっとアレなんで休ませて貰いたいんですけど……」


「いいよ。あんまり見たことない顔だね、何年生?」


「3年です」


「3年!? 私一回も見たことないよ?」


 どういう事だ?

 見た感じ若い教師だけど……

 今年赴任してきたのかな?


「あなた、クラスと名前は?」


「2組、葉月夏です。」


「葉月…………え!?」


 なになに、この反応は。


「あの、何か?」


「いやっ、別に……その辺で適当に休んでなさい」


 どうやら夏ちゃん周辺によっぽど問題があるみたいだな。


 さっき飲んだ薬のせいか眠くなってきた。

 少しだけ……


 ◇  ◇  ◇


 ……っ!?ヤバい寝すぎた──


「おはよ、ナツ」


「ハナ……?」


「さっきホームルームが終わったよ。ナツ、大丈夫?」


「そんなに寝ちゃった……?」


「今日は防災訓練で授業午前中だけなんだって」


「そうなんだ……」


 なんだか疲れたな。

 俺は一体何をしているんだろう。

 こんな所で、こんな体で。

 俺は誰だ……

 俺は……


「ナツ……」


 気がつくと涙を流していた。

 訳がわからない。

 どうしたらいいのかもわからない。


「なんにも……わかんないよ、ハナ……」


 ハナは何も言わずに抱きしめてくれた。

 耳元で鼻をすする音が聞こえる。


 ハナがおでことおでこを付けてきた。


「ナツ、私がそばにいるからね。ずっと一緒にいるから……ナツ……」


 ハナがそのままキスをしてくれた。

 少しだけ、時が止まる。


「ハナ、好きだよ……」


 ふと出てしまった言葉。

 訂正する必要もなくて。


 ハナが隣にいてくれる。

 それだけで充分だった。


「ナツ、手繋いで帰ろ♪」


「うん、帰ろ」


「……ふふっ♪」


「ん? どしたの?」


「ニコイチだなって思ったの。ずっと一緒だよ、ナツ」


「……うん」


 足りないものを補って。

 二人で一つ、ニコイチ。

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