コンビニの迷い子③

「店長からは、『疲れて見間違いをしただけ』って言われたんですけど、あの子は間違いなく存在しているんです。あのコンビニに。今日が初勤務だった高見沢さんにも見えたわけですし、間違いないと思ってます。」


 明里は低めのトーンで語り出した。


「初めてあの子を見たのは、三年くらい前です。私、オープン当初から働いてるんですけど、その当時からいて……夜遅くになると現れて、『こっちに来て』って言ってくるんです。」


 高見沢は少しがっかりした。小説の題材にできそうかと思って質問してみたが、これだけではネタとして弱い。


「そうか、じゃあ実害はないってことだ。お客さんがいない時間帯に出るみたいだし、特に迷惑もかけてない。」


 明里は下の方を向きながら続ける。


「いえ……実害……と言えるのかどうか、そもそもあの子と関係しているのか分からないんですが……私と一緒の時間にシフトに入った方が、失踪してるんです。三人も。」


「なんだって……?」


「バイト中に突然いなくなって……多分、私が見ていないスキに、あの子について行っちゃったんだと思います。二人の方は行方不明のままですが、一人の方は自宅で変死しているのが見つかりました。フリーターだった男性です。バイトに来ないので、店長が自宅まで確認したところ、鍵が空いていて……全身バラバラになっていて……しかも刃物で切られたんじゃなく、引きちぎられたみたいになってて……」


「犯人は……?」


「見つかっていません……」


「そうか……それで、深夜帯のバイトの時給が異様に高いのか。」


「店長は偶然だっていうんですけど、本当はおかしいなって感じてるんだと思います……」


「あ、ありがとう。もういい、わかった。」


 これ以上、明里に話をさせるのは酷だと感じた高見沢。そのまま会話が途切れ、駅前の交差点で別れた。


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 明里の話を聞き、高見沢は恐れるどころか興味が湧いてきた。あの男の子の正体がわかれば、間違いなく小説のネタになる。


 しかもフィクションではない。自分が調べ、体験したノンフィクション。頭で考えたストーリーとは比べ物にならないほどリアリティが増し、読者の反響も大きくなる。


 家に到着した高見沢は、寝ることなく自室のパソコンにかじり付いた。グループマート怪奇町三丁目店と、男の子の関係を調べる必要がある。


 高見沢が求める答えは、そう時間をかけることなく見つかった。

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