深淵高校 天文学部 その2 ③
夕方。岩渕と水谷さんは、怪奇駅前のカフェに入った。岩渕はアイスコーヒー、水谷さんはカフェラテを注文し、二人がけの席に座る。
今日のデートは、岩渕の想像していたものとかけ離れていた。男子からの人気ナンバーワンである水谷さんを自分のものにした優越感。それを噛み締めながら最高に可愛らしい彼女と楽しく様々なスポットを巡る……はずだったのに。現実は、水谷さんの暗い部分を垣間見ただけだった。
一通り会話を終えてしまい、二人を沈黙が包む。水谷さんの更なる秘密に足を突っ込む前に帰りたかった岩渕だが、何か話さなければ、解散の流れに持っていきにくい。
水谷さんが休日何をしているのかとか、将来何になりたいのかとか、色々聞きたかったが、どんな答えが返ってくるかわからない。『
必死に考え、岩渕が捻り出した質問はペットに関するものだった。
「水谷さんってペット飼ってる?ウチには猫が二匹いるんだ。カエデとヨモギって名前で、二匹ともメスなんだよ。かわいくってさー。」
水谷さんはカフェラテを飲むのをやめて、答える。
「私は蛇を飼ってる。名前はシャーシャーっていうの。いつもシャーって鳴くから、シャーシャー。」
やっぱり意外な答えだったが、最近は蛇を飼っている人も珍しくない。謎が深い水谷さんから出てきた回答としては、まだまともな方だと岩渕は感じた。
「す、すごいね!蛇かぁ……あれじゃない?飼育環境とかエサとか大変じゃない?なかなか整えられないって聞くけど……」
「そう。すごく大変。最初は普通の部屋で飼ってたんだけど、温度とか湿度とか保つのが大変で。」
「そうだよね……写真ある?見てみたいなぁ。」
「写真っていうか、実物を見せてあげる。」
岩渕の脳天にクエスチョンマークが浮かんだ。実物を見せるとはどういうことだ?
水谷さんは顔をやや上に向けると、口を縦に大きく開けた。
ア"ア"……オ"ェッ……ゴゴ……ア"ェボ……オ"オ"ア"……ヴェ……
水谷さんのえずきと共に、口の中からコブラが顔を覗かせた。茶色いウロコに黒いマダラ模様。二つに分かれた舌を出し入れしている。身体中、水谷さんの唾液や胃液まみれ。ズルズルと這い出て、テーブルの上に頭からゆっくりと着地した。頭から尻尾までの長さは一メートルほど。
「……ハァ……ハァ……キングコブラの……シャーシャーだよ。色々考えて……私のお腹の中に棲ませるのが一番だって思ったの……大丈夫、毒はあるけど、人に慣れてて噛まないから……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
声を上げ、岩渕はカフェを飛び出した。もはや理想的なデートプランや、自分のポリシーなど関係なかった。
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月曜日 午後
この日も一番乗りで理科室にやってきた太一。やることがないので、スマホでネットニュースを見ていた。
数分後、理科室の扉が開く。おい磯山ぁ!と、先週とは一転ハリのある声で中川が呼びかけてきた。
「岩渕のやつ、水谷さんと別れたそうだぜ!やっぱりアイツじゃ荷が重かったんだよ!ざまぁねーぜ!」
「マジ?先週付き合ったばかりじゃねーの?いくらなんでも早すぎだろ?」
「詳しいことはわからないけど、とにかくこれでライバルが一人減ったわけだ!オレにもチャンスが回ってきたってことだよなー!オレの願い、通じたんだなー!最高!人生で最高の日!」
太一は中川のテンションに呆れ、スマホに目を戻した。『真昼のカフェにキングコブラ出現』というニュースが目に留まった。
<完>
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