第9話 電話③

「いつの間にか成長したんだね」

「当り前だろ、いつまでも中学生の時のままじゃ困るっ」

「そうかあ、どのぐらい成長したんだろう」


 綾羽は俺の方へいきなり手を伸ばしてきた。俺はあちこちの雑誌を隠そうと躍起になっていたところだったのだが、手を伸ばされてベッドに転がった。


 その拍子に彼女の手が俺の胸に当たった。


 うぉっ、やばいッ! 鈴奈以外の女の子に触られたッ!


「なんだよお~~ッ。俺の体に触るなよっ!」

「弾みよ!」

「俺の大事な体に、なんだよ」

「ああ、初めてかな。礼人の体に触れちゃった」


 なんということか、一度は手を離したのだが、今度は自分から手を素早く伸ばしてきた。


「やめろっ!」

「礼人の胸って、思ったより広いんだね」

「いまさら何を言ってるんだ。中学の時から知ってるだろ」

「ふ~ん」


 やっと手を放してくれた。 

 

 重要なことを聞いてなかった。どうして突然家に押しかけて来たんだ。


「ここへ来た理由を言えよ!」

「ちょっと気になっただけ、礼人の事が」

「どうして?」

「最近だいぶ、イチャイチャしてたから」


 えええ~~~っ、ってことは綾羽の目にも触れていたのか。当り前だな。学校でしょっちゅう鈴奈と一緒にいるんだから。でも、家に来るってことは、俺のことが気になっていたから? 今までそんな素振りは一度だって見せたことがなかったのにいっ。


「だけど、契約彼氏になるなんてねえ、礼人が」


 もう開き直るしかない。あれを見られてしまった以上は。


「悪いかよ、勝手だろ。誰にも言うなよなよっ!」

「言うわけないでしょ。恥ずかしいでしょ。だけど……うふふ」


 再び意味深な笑いをする。


「私とも付き合うっていうのはどう?」


 秘密にする代わりに、付き合えって! 交換条件かよ!


「どうって、お前と付き合う気は、ないよ! 断じて!」

「ふん、それでいいの?」


 綾羽は、ベッドに転がっている俺の上にば~ん、っと手をついて上から見下ろしてきた。俺は、襲われてしまうのだろうか。やめろ、やめろ、今の俺には鈴奈がいるんだ~~~~っ! 誰とでも付き合うような安っぽい男じゃな~~い!


「いいのとは……」

「わかってるよね?」

「はあ、何のことだよ」

「だから、私も礼人に興味があるから、ちょっと」


 顔が接近している。


 その時、再び電話の着信があった。今度こそ鈴奈からだッ!


 俺は慌ててスマホを手を伸ばし、綾羽から逃れて返事をした。


「あら、礼人? もう起きてたよねえ」

「おお、電話ありがとっ。嬉しいなあ。夜もくれたのに朝もくれるんだね」

「今日の予定は」

「特にないなあ」

「じゃ、どっか遊びに行こう?」

「もちろん、いいよ」

「あれ、なんかどぎまぎしてない。そばに誰かいる?」

「いや誰もいない」


 俺は彼女とデートの約束をして、電話を切った。。


「全く邪魔だな。そばによるなよ」

「さっきの返事は?」

「わかったよ。彼女には言うなよ。だが、あくまでも友達としてだからな。勘違いするなよ」

「そう来なくちゃね。じゃ、私はいったん帰ることにするけど、また連絡するから」


 脅迫かよ! 情けないことに、結局彼女に押されて返事をしてしまった。

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